83◆異世界なりきり武器!鳴る!光る!◆



「わ、我が鉄槌を喰らえ!アースクェイクメイス!」


 ハイマンが両手で持つ、翼のモチーフのついたド派手なメイスの頭が青く輝き、ブォォォンと低音が響く!


「あたしの弓は!全てを貫く必中の弓!テンペストボウ!」


 ミュカが構えると、ピィィンと鋭い音と共に過剰なまでに紋様や装飾が彫り込まれた弓に緑色の光るラインが走る!


「フッ…私の短剣は、音もなく影もなく悪を斬る。宵闇のダガー!」


 クロナが斜めに振り上げた短剣と呼ぶには大きな刀身が、全体に紫色に光り、リリリーンと鈴を振ったような音が鳴る!


「竜から生まれたわが剣を見よ!豪炎剣ドラゴニックソード!」


 ボボボという低音と同時に、俺のもつ竜ぽい造形の幅広の剣に赤色の光が走り、剣先の竜の目が輝く!



「わ、私の、そ、双剣の舞を味わうが、い、いい!花剣カフレ!リサール!」


 レイレが持つのは、花の装飾が華麗に施された双剣で、片方の剣身は水色に、もう片方は薄黄色に光る。柄に施された花の意匠に光が一番集まっている。ヒィィィンという高音が、切れ味の鋭さを連想させる!


「レイレ可愛いけど、恥ずかしがらないで!」


「そ、そんなこと言われてもっ!」


「はい、最後!テイカー!」


「俺のうなるメイスは、この世の全てを砕く!カオティックメテオハンマー!」


 テイカーの持つ黒いメイスは隕石をそのまま武器にしたような感じで、ひび割れから見えるオレンジの光と、ブブブと唸る音が妙な凄みを醸し出す。



「いやぁ、楽しかった!いいね!これ!やっぱり全員分揃うと違うなぁ!楽しくてしょうがない!」


 ご満悦の俺に対して、クロナはニヤリと笑みを浮かべ、ミュカとテイカーは乗り気味、レイレは恥じらい、ハイマンは気持ち苦い顔をしている。


「リュード殿、やはりどうしても、これが必要とは思えないのですが」


「いや、必要だよ。そして、こういうのは全員でいっきにやるのがいいんだ!」


「うぅ…でも、これは、恥ずかしすぎます…」


「レイレ、大丈夫だよー。けっこう楽しくなってくるよ!」


「ミュカはもともと目立つのも好きだから、いいかもしれませんが…。」


 その後も俺達は(主に俺がだが)、ポーズの修正や、俺達の立ち位置の調整

などを何度も練習をした。





 皆と話をした翌日。俺は今回ひきもって何を作ろうとしていたのかを皆に説明した。これまでに得た鳴る、光る技術を搭載した武器を作りたいと皆に熱弁したのだが、皆は何それ?武器が光るとか鳴るとかどういうこと?という反応だった。ちなみにこの世界には、前世日本のファンタジーでよく見かけた魔剣なようなものはない。


 俺が本来作りたいのは“なりきり武器”という、未就学児がライダーとか戦隊とかのテレビ番組を見た際に欲しがるヒーローの持つ武器のことだ。今回は、なりきるモデルのヒーローがいないので正確には“なりきり”ではないが。ジャンルとして捉えてもらえればいいと思う。


 皆にわかってもらうためにも、まずは1本作ってみようと思ったのだが、どうせならこれを機会に、そして記念に皆が持つ武器を一斉に作ろうと思い立った。


 最初に、皆からそれぞれに思う“こんな武器があったらかっこいい!”というのをヒアリングした。それをもとに俺が全員分の武器のラフスケッチを描き、その後は各メンバーごとに、一緒にアイディアを出していきながら、見栄えのいいように派手にして音や光もアレンジしていった。


 武器の素材は木製で、街の工房6件に発注した。各人がそれぞれがその工房とのやりとりを直接やってもらい、俺がアドバイスと監修役をした。


 他にも光の色付けに使うクズ宝石の選定や配置、全体の塗装などを1人1人と丁寧に打ち合わせを重ねていく。おしむらくは音が笛ベースの音しか作れないことだが、こちらも、様々な笛を用意し改造しながら、できうる限りの工夫をした。


 クロナとテイカーは慣れたもので、俺にこうるさい注文を散々つけてきたりしつつ、レイレ達3人に俺の動かし方みたいのも教えるものだから、俺はずっと目も回る忙しさを味わっていた。だが、その中でも皆がレイレといる時間を取ってくれたので、レイレを寂しがらせることもなくすんだ。


 こうして、各メンバーそれぞれの要望や嗜好を反映した、この世に1つだけの“なりきり武器”が完成した。皆は出来上がった武器を何度も起動させ、見せ合って、自慢しあってと本気で喜んでいた。作る過程で改めて皆と仲良くなれたし、それぞれの持つ得意な分野なんかも把握できたので、俺としても多くの実りがあった。





 こうして、武器はできあがったのだが、もしどこかでお披露目する機会があったときのために武器の名前と口上を考えて練習しようと俺が提案した。皆は意味がわからなかったようだったので、俺は熱く説明する。


「見せるときに、普通に手に持って光らせるだけだと、つまらないよね。まず、名前!かっこいい名前が必要だね!そして武器を振って、その後の決めポーズ!大事だから!そうやって見せることで、感動してもらえるんだよ!」


「「「「「……」」」」」


「なんだか、ノリが悪いなぁ…。じゃあ、例えばでやってみるよ。『竜から生まれた我が剣を見よ!…………ドラゴニックゥソードォッ!』」


 体を大きく使い、剣を2回ほど見栄えよく振ってから、正面の相手に対して見えるように構えた上で、スイッチを入れて光らせ名前を叫ぶ。


「おぉっ!…た、たしかにかっこよく…見える…」


「はい、わかってもらえたところで、それぞれ名前とポーズ作っていこうか!」


「リュード、ど、どうしてもやらないといけませんか…は、はずかしい…」


「リュード殿、これは私もやるのでしょうか?」


「レイレ、ハイマン、こうなったら諦めるしかないわ……」





 テイカーの提案で、今回から俺達の作ったものには刻印を押すことにしている。皆の持つ武器にも、邪魔にならずデザインを崩さないところに、その刻印を入れてある。


 『スタープレイヤーズ』のSとPと笑顔を組み合わせて正方形の枠の中にデザインしたものだ。正確には前世の地球と同じSとPではないが、英語に酷似している言語なので、雰囲気でとらえてもらえればいい。


 前世でも、赤い正方形とか青い長方形とかのコーポレートロゴを持つ大手メーカーのおもちゃには、何の玩具でもロゴが入っていた。あぁいうイメージだ。俺達が作ったものは今後この刻印を押すことで『スタープレイヤーズ』ブランドとなる。


「なるほどなぁ、たしかに刻印はいいね。テイカーよく気がつくね」


 そう言った俺にテイカーが、ものすごい呆れ顔を返してきた。


「リュード自身が既にやっていることじゃないですか?コルコス子爵領でしたっけ?そこで村人用のゲームを商会に売ったときに同じ提案をしたと、リュードから聞いたのですが?」


 そんなことは、すっかり忘れていた。


「商会の名前は将来どうなるかはわかりませんが、皆で一緒に作ったものの証としても必要ですよ。俺達は前からでしたが、ハイマン達も今回の体験で何かを作り上げる楽しさがわかったと言ってます。だからリュードも俺達に振れることは、遠慮なく振ってください」


「ありがとう、テイカー、ありがとう皆」


 俺達は、なりきり武器を通じて絆を深めたのだった。


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