79◆結婚式◆



 結婚式の当日、カプラード中央にある城で、大公長子ルフィーノとカタリナ姫の大披露宴が開かれた。屋内の披露宴会場は貴族向けとなっており、屋外の庭は貴族以外の会場となっている。俺とレイレ、『スタープレイヤーズ』のメンバーはその中庭の会場にいた。


 レイレは、素晴らしかった。ドレスの色は薄めの紫で、白いレース編みが織り込まれており、とても上品な印象だ。スレンダーラインと前世で言われていた体のラインにフィットした広がりの少ないドレスを着ている。レイレはスタイルがよく、背筋ものびているので、凛とした佇まいの中に、清楚さと色っぽさがちょうど良いバランスで混在しており、とても美しく、そして可愛かった。


 耳には、俺の瞳にあわせた青緑のピアスを着けてくれている。白い肌に銀色の髪、ドレスの薄紫と全体に輝くようなイメージの中で、一番はっきりした色合いなので、ピアスが良く目立つようになっている。


 うーん、女神かな?女神だな。女神に間違いない。誰もがレイレに見惚れている。っていうか、あまり見ないで欲しい。


 対する俺は、裾の長いスーツのようなジャケットを着ている。色は黒に近い濃紺で、シャツもベストもパンツも同じようなダーク系の色で揃えられていた。首元に、レイレの髪色にあわせた白銀のスカーフをつけている。レース編みのスカーフは、絹のような素材で、見る角度によって異なる柔らかい光沢を放っている。


 レイレと俺が並ぶと、お互いの色を上手く取り入れた、というか象徴的に使っている、とても優れた衣装の組み合わせだった。チェーリオの仕事は完璧だった。


 ちなみに、『スタープレイヤーズ』の面々も、それぞれ着飾ってきていたが、俺はレイレの印象が強すぎてよく覚えていない。後からクロナに「扱いが雑すぎて、殺意が芽生えたわ」と怒られた。





 次々と挨拶に訪れる紳士淑女、おばさん、おじさんに無難な受け答えをしたり、たまにレイレに色目を使ってくるやつを威圧し、レイレも俺に粉かけてこようとするマダムぽいの威圧していたりしていたら、会場が暗くなった。


「新郎、大公ご子息ルファーノ様、新婦西辺境伯ご息女カタリナ様のお成りーーーーっ!」


 ドジャーンと銅鑼みたいなものが鳴らされて本館から続く階段の上に2人の人影が立つ。


 どこかの国王みたいに肌が浅黒い、背の高いイケメン青年が立っていた。青年の周りには、昼属性の魔法使いが出した光球が浮かんでいるが、光は青年にばかり当たって、隣で1歩下がった位置にいる新婦の姿がよく見えない。


 これは何かのいたずらか、もしや新婦に対する悪意でもあるのかと場がざわついたところで、「皆!見てくれ!世界1美しい、俺の花嫁だ!」とその青年が明るい声を張りあげた。


 その言葉と同時に、青年の周囲の光球も消され、いつの間にか背後の屋敷の灯りも消えていた。会場がいよいよ暗くなり、静まったそのとき光の花が咲いた。


 初めに、白をベースにしたプリンセスラインのドレスの、スカートと、上半身の部分に、ふわりふわりと黄色と薄い紫色の淡い光の花が咲いた。新郎の髪と瞳にあわせた光の色だ。


 少し遅れて、胸元と肩のラインが白く輝いて、新婦の笑顔が現れた。「おぉ!」「お綺麗」「すべてが美しい」「光の花嫁」皆が口々に呟く。それを聞きながら俺は、あぁあの肩と首の光、顔が怖い感じに照らされないようにって、クロナとデザイナーに10回くらいダメ出しされたなぁ…作った当時の苦労を思い出していた。


 再び魔法使いの光球が光りだす。そこには微笑みを交わし合う新郎新婦がいた。次々と上がる、賛美、感嘆のため息、歓声。レイレもカタリナ姫と新婦の様子をみて目を潤ませている。よし、もう1回、光るドレス作ろう。20回ダメ出しされてもいい。作ったる。


 こうしてカタリナ姫の結婚披露、および世界でただ1つの光るドレスの披露は無事に終了した。





 新郎新婦が会場を去った後、あちこちで熱のこもった会話が行われていた。この場にいるのは、ほとんどがこのカプラードの有力者だが、誰もが、今回の新婦のドレスの情報を知らなかった。暗闇の中、柔らかく光る光の花に、何人もが夢を見た。


「あれはどこのドレスだ」「西の工房か」「あの光はなんだ」「あれは昼属性の魔法使いのものではないだろう」「何をすれば、その光ができるというのだ」「あれはもっと明るくすることができれば、革命がおこるぞ」


「レイレ、皆、そろそろ俺達も帰ろうか。」


 会場の熱気が上がってきている。なんとなく嫌な予感がした俺は皆に声をかけたが、レイレが階段の方を見ながら、俺に小さく告げた。


「リュード、もう遅いみたい。」


「あ…」


「おぉ、おった!本当におった!貴公、久しいのう!」


「リュード、そなた、何故こちらに顔を出さぬ。カタリナもそなたらと会うのを待っておったのだぞ」


「ハハハ、ついに正式に会えたな。北と西は許せたが先に南に行くと知って納得がいかなかったので、私から来てやったぞ!」


 クマと宝塚女優と渋強おじさんが、爛々と目を光らせながら階段を下りてくる。周りの客達が、モーゼの海割りのように道を開けると、3人は真っすぐに俺に向かって歩いてきた。


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