74◆新しいパーティ◆



「それでリュードよ、そなたはレイレと結婚するのか?」


 エリザリス西辺境伯がストレートに聞いてくる。


「えー…、今回私はあまりにも無礼でして、レイレにも非常に不愉快な思いをさせました」


「別に不愉快というわけでは…」


「ですので、プロポーズはまた機会を改めて、させていただくことにしました」


「なるほど、了解した。ならば、どうするのだ?勝者の権利を言うがよい。妾が見届けてやろう」


「あー、その前にちょっと確認したいことがあるのですが、『スターズ』の皆さん、いいですか?」


「なんでしょう?」


「『スターズ』の皆さんはパーティの目的とかってありますか?」


「目的ですか?」


 レイレが首をコテンと傾げる。あぁ、可愛い。可愛すぎる。結婚したい。もう申し込んでいいかな。っていうか、改めて申し込むって、いつすればいいのだろうか…。


「特に私達は、明確な目的は持っていません。魔物を倒すことを中心に困っている人達を助けること、その中で強い魔物がいれば優先的に。そして自らの腕をあげ続けることでしょうか」


「なるほど、じゃあ俺達と『スターズ』の活動は両立できそうかな…。『プレイヤーズ』なんだけど、俺達の目的はさ…」


 俺は、レイレ達に、俺達の目的について話した。俺が思う、俺の楽しいこと、それはおもちゃや、遊びを作ること、広めること、そのために活動していること。魔物を退治するのは主に素材収集と研究のためなこと。


 クロナとテイカーにも俺と一緒にいる理由を話してもらった。テイカーは王都の中堅商人の3男で、俺と組んで商会を作り商売をしていくこと。クロナは王宮調査室の人間で、俺に関することの報告と俺を守ることを任務にしていること。俺が国王陛下のお気に入りで才腕御免状も持っていること。


 目的地や行動の指針は、その都度変わったりするが、当面はエリザリス西辺境伯と共に南に入り、そこの魔物を狩って研究しつつ何かまた新しいものを考え、作りたい

こと。その後は、未定だが、まだ行ったことのない東にでも向かおうと思っていること。そんなことを話した。


「だからさ、レイレ、ハイマン、ミュカ、よければさ、俺達と一緒のパーティにならない?勝者の権利とはいったけど、断ってもいい。返事もすぐじゃなくていいし」


 さすがにやらかしたばかりなので、この話はクロナとテイカーにも事前に話しており、2人は笑顔で承諾してくれている。


「リュード、昨日『スターズ』で話し合ったとき、その話の可能性は出ていました。答えはもちろん『はい』です。ぜひ一緒にパーティを組みましょう」


「おぉ、即決!ありがとう、じゃあ改めてよろしくね」


「はい!」


 あぁ、笑うレイレが可愛い。


「よいな。リュードとレイレの新しいパーティの結成、このアデーラ・エリザリスが、しかと見届けたぞ」


「ありがとうございます、エリザリス西辺境伯」


「そなた、パーティの名前は考えてあるのか?」


「はい、パーティ名ですが『スタープレイヤーズ』はどうかと考えています。もともとプレイヤーズは、遊ぶ人、参加している人、競う人、賭けている人…、そしてそこに“楽しむ人”という意味を込めています。レイレ達の『スターズ』が入ったことで、それぞれの楽しみに輝きが加わりました。俺達は、“楽しんで輝いている人”の集まりでありたいと思います。そして、その輝きで世の中を少しでも照らすことができたら最高かなと思います」


「「「『スタープレイヤーズ』」」」


 それぞれが口に出す。そして皆が納得できたようで、俺達は互いに握手しあって新パーティの結成を喜んだ。





 2日後、エリザリス西辺境伯の屋敷の裏庭で、俺達は互いの武器や得意とする戦い方などの確認と訓練を行っていた。そして今、俺の目の前に、バスケットボールくらいの大きさの火球が浮かんでいる。


「その火の玉、自分が動くのにあわせて動かせるよね?もしくは自分が動いても、火の玉の場所を変えないようにできるよね。」


「うん、当たり前でしょ?」


 答えたのはミュカだ。ミュカは万能型の冒険者で火の属性、それも『たくさん』持ちであり、弓使いであり、斥候でもあった。さすが東辺境伯につらなる姫にあてられた人材だと感心する。


 魔法の属性検査の際には、その人が扱える魔法の出力量も調べられる。『少し』『ある』『たくさん』だ。俺は癒しを除く6属性を持っているが、全て『少し』だ。そのため、がんばって火球を作ってもピンポン玉ほどの大きさが精いっぱいだ。『たくさん』であるミュカはバスケットボール大のサイズでも全く負担がない状態だ。


「うん。でも、この確認が大事。火球の動きの制御はもうできている訳だから、これからやることもできる…と思う」


「えー、そこは自信持ってくださいよー」


「俺も人に魔法を教えるのなんて初めてだからね。続けるよ。えっと、ミュカは火球を2つ以上出せる?」


「3つまでならできるよー」


「おぉ。すごい!」


 火球を出すことは、属性を持っていて、出力量も『ある』以上なら、簡単にできる。それを操ることも、少し練習をすればできるようになる。全く同じタイミングでの現象化や操作はできないが、一度出したものを保持することで、複数の魔法を同時に扱えるようにもなる。3つもできるミュカは、相当訓練を重ねたのだと思う。


 ところがだ。サイズも自分の思い通りに出せるし、出した火球の保持もできるのに、一度出した火球を大きくしたり小さくすることができない。


 俺の推測では、術者は、火球を現象化させる際、意識・無意識両方で“このくらいの魔力で出す”と設定をする。人間は魔力自体を出すことができず、現象としてしか出せないため、こうやって現象化された魔法を後から変えることはできない。


 でも俺は疑問に思ったのだ。魔力自体を出すことができないのに、なぜ火球を投げたり、その場に浮かせて置いたりできるのだろうかと?そして俺は魔法としてもう1つの力を使っていることに気づいた。仮で俺は『透明な力』と呼んでいる。前世で言うならサイコキネシスとかそういうものだ。自分が現象化した魔法にだけ使える力だ。


 この『透明な力』は、魔法を使う人は、全部一緒だと思っている節があるが、現象化した魔法と分けて考えると新境地が開ける。俺の場合は、ストーンアロウなどがその技術の集大成だ。


「よし、じゃあミュカ、この火球、半分の大きさにして」


「…え?無理でしょ?」


「いや、できるよ。火球自体をいじるんじゃなくて、周りからぎゅうぎゅうと抑えて縮めていく感じ」


「…」


「どう?」


「いや、無理だって…!?だって跳ね返されるよ」


「それであってるよ。で、その反発をむりやり、さらに抑えこんで。最初は全くできないけど続けてると、ちょっとだけできるようになるから。反発もどんどん強くなっていくけど、『たくさん』のミュカだったら、俺より断然やれるから」


「むむむ…」


 眉間にしわを寄せながら、火球をにらみ汗をかくミュカ。既に複数操作までできているので、抑え込む感覚を覚えたら後は力技なので、すぐだと思う。



 やはり『ある』とか『たくさん』だと余裕があっていいな、少しうらやましく思ってしまう。だが『少し』だったからこそ、俺は工夫を重ねたし、気づけることも多かった。ないものねだりか…と、俺は小さく息を吐きだした。


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