73◆種明かし◆



 翌日、エリザリス西辺境伯をテーブルの上座に、『プレイヤーズ』と『スターズ』はその左右に座り、皆で食事をした。実にまる2日ぶりのまともな食事だ。俺の体調を気遣ってか、柔らかく調理された料理を出してくれた。トロトロに煮込まれた大きなブロック肉は、口の中でソースと一緒にほどけて溶けていき、それはもう絶品だった。


 食事が終わり、お茶の時間となる。俺達の雰囲気もだいぶほぐれてきて、かなり砕けて喋れるようになっていた。


「リュード殿、お訪ねしたいことがあります。クロナ殿、テイカー殿に、本人から聞いてくれと言われましたので、よろしければ教えていただきたい」


「なんでしょうか?」


「リュード殿の使う魔法のことです」


 おそらく複合魔法のことだろうと思って返事をするが当たりだったようだ。魔法を使う人間は、やはり他の人の魔法が気になるものだ。


「やっぱり気になりますよね。いいですよ、ほぼ全て見られているので、お話します。ただ、あまり他言はしないでください」


 そう言って俺は実演しながら、複合魔法のことを説明していった。


「こんなことが本当にできるとは…魔法とは、かくも奥が深い…。」


クロナ―とテイカー以外が、腕組みをしたり、目を閉じたりしながら、それぞれの中で今見たことを整理したり、思い返したりしている。


「リュード殿、あなたの怪我ですが、私の見立てでは、癒しの魔法を毎日かけても十数日はかかると見ていました。ところが、それを2日で治せてしまいました。これの理由に思い当たるものはありますか?」


「確かに私も気になります。リュードは、戦っているときにも血があまり出ていませんでした。斬った感触と実際の状態が違うので、私も不思議に感じていたのです」


 レイレが首を傾げる。


「あぁ、それは、俺が水の魔法で血が出るのを止めていたんですよ。斬られたところの血管のまわりに水を貼るんです。出血で動けなくなったらまずいですからね」


「そんなことができるんですか!」


「えぇ、昔父親に、腕をナイフでぶっ刺されて以来…」


「ちょっと待って、リュードさんのお父さんって何なの?」


「あぁ、成人して平民になったけど、俺の家名はラーモットって言って…」


「「「「血風のパスガン!」」」」


 父上、あなたの知名度は相変わらずすごいです。「どうりで」「憧れの人の息子だったなんて」「あの戦いも納得が…」などとしばし父親の話題で盛り上がる。ちなみに憧れ発言をしたのはレイレだった。


「すみません、あまりの衝撃に話が飛びました。それでリュード殿の傷の治りが…」


「うん、で、斬られた血管を水の膜で保護している形になっていたから、その後もくっ付きやすかったんじゃないかなって思ってる」


「なるほど、そういうことであれば理解はできます。ただもう1つ疑問が残ります」


「腹の傷の方ですよね?」


「はい、リュード殿と姫を貫いた石つぶて、表面の傷はそれなりに酷かったのですが、腹の中はほとんど傷ついていないようでした。腹からの血の量も少なく、血以外の体液も出ていませんでした」


 この世界では外傷は癒しの魔法で、一定時間内に処置をすれば、きれいに完治する。だが病気は治らない。魔物に腹を抉られた冒険者が外傷は治ったが、その後調子を崩して亡くなったというケースを俺は知っている。腹が傷つけられた際、腸の中身が腹の中に出て、それがもとで感染症になって死んだと、俺は予想している。


「魔法で内臓を動かしたんだ」


「え?」


 前世で知合いの外科医に、「手術で臓器を切除したら、その無くなった臓器のスペースって空いたままなの?」と聞いたら、「何切ったかにもよるけど、内臓とか柔らかいし、腸とか水みたいなもんだから、空いた場所は勝手に内臓で埋まるよ」と言われた。


 この発言を覚えていた俺は、いざというときのために、内臓を移動するという魔法を開発していた。内臓をそれぞれの形をした水袋と捉えることで水魔法で少しだけ移動できる。刺されることが確定したときに発動すれば生存率が上げられると、開発した当時は考えていた。


 今回、初めて実戦でこの魔法を使った。2発目のストーンアロウのときは、体が密着できていたので、当然レイレの臓器も移動した。でなければ女性のお腹を攻撃などできない。


「うぅ~む…なんという…リュード殿、あなたは、本当におかしい」


「あの一瞬で、リュードはそこまで考えて、私にまで魔法をかけていたのですか?」


「うん、まぁ、傷つけたくなかったし。いや、思いっきり傷つけてるから、それも変な言い方か…まぁ、でも無事で本当によかった」


 皆が何ともいえない目で俺を見つめていた。



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