71◆決着◆


※今回のお話、女性を傷つける描写がされております。

物語上必要な流れのため、ご容赦いただきますよう、

どうぞよろしくお願いいたします。




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 獰猛な笑顔のレイレが俺の前で双剣を広げる。


「リュードさん、死なないでね。光剣!」


 走りこんできたレイレの持つ双剣が光ったと思った瞬間、光の剣が3本に増えていた。その3本の剣が、異なる軌道で俺を襲う。1本を自分の剣で押さえ、もう1本の剣を、剣の根元に近い部分を腕で押さえ…、と思ったら俺の腕は光の剣を素通りし、3本目の剣が俺の頬を大きく切り裂く。


「!!」


 驚いた。ただ強いだけじゃない、魔法まで使うとは。斬られた以上の衝撃だった。


「すごいっ!」


 頬から血を流しながら、俺は飛び上がって喜んだ。


「すごい!すごい!昼魔法だ!そんな使い方ができるんだ!」


「ちょ…、調子狂うわね。魔法が好きなのね。…まぁ、いいわ。どれが本物か、リュードさんわかる?躱しきれる?」


 レイレの剣の傍に、さらに3本、合わせて6本の光剣が浮かぶ。実際に持っている光の剣はそのうちの2本で、動いていない状態であれば、どれかは判別できる。だが動くと全く分からなくなった。斬り、払い、突き、全ての剣の動きに緩急がつけられている上、レイレの勘の良さはここでも発揮され、相手がどれを見て、どう対応するかを直感的に予測して、次の手をノータイムで変えてくる。


「ぐっ!」


 続いた次の猛攻をかろうじて防いだ俺の腕が深く切られていた。


「まだ倒れない…不思議ね。斬っているのに出てる血の量も少ないわ…。リュードさん、すごいわね。あなたと戦えて光栄よ。でも…、次で最後ね」


 俺は今水魔法を使って、全身の切り傷から流れ出ようとしている血を押さえている。治しているわけではない、押さえているだけだ。その魔法も、さすがに限界に近づいていた。


「勝ちを宣言するには…、まだ早いかな。最後は俺から行くよ!」


 最後の攻めだ。勘のいいレイレは、俺の受けに回らない方がいいと判断したようで、向こうからも切りかかってきた。


 これからやることを思うと、くじけそうになる。大丈夫だ、俺はやれる。前世の日本では漫画やアニメの中でも、こういうことやる主人公はいたじゃないか。やれる!何度も心の中で唱える。


 やれる!


 ほとんど予知に近い勘を持っているのだろうが、それは意識、無意識併せて、レイレ本人が捉えることのできる事象から算出するものだろう。ならレイレが全く思いすらしない、勘も役に立たなくなるようなそんな方法をとればいい。1回限りの大技だ。


 やれる!


 俺は…やれるっ!!



「ストーンアロウッ!」


 レイレからは見えないように俺の背中に用意してあったストーンアロウを、俺はそのまま射出した。高速回転する石つぶては、最初に会った障害物、つまり俺の背中と腹をぶち破って、斜め下にあったレイレの太ももを貫く。


「!」


 突然走った強烈な痛みも気に留めず、レイレの1本目の剣を俺の左肩に突き刺した。俺は左肩を前に突き出し、さらに押し込んで剣を1本奪う。他の光る剣には目もくれない。どうせどこに喰らったって後1本だ。


 だがこれでもまだレイレは勝ちを捨てていない。目が死んでいない。まだだ、まだ、勝ちには届かない!くっそ、俺の体!がんばれっ!


「アロウ!!ダブル!」


 レイレとほとんど体を密着させた状態で、2つ目のストーンアロウが、俺の背と腹を、そしてレイレの腹を貫く。


「ぐうっ!」


 苦痛に歪むレイレの顔と、勢いの無くなったレイレの2本目の剣を、俺の右腿で受け止める。俺はそのままレイレを押し倒しながら、右手で腰から短剣を抜き、レイレの喉にあてた。


 ぜぇぜぇと息を荒げながら、レイレの濃いブラウンの瞳を見つめる。くそ降参しろ、2度とこんなことやりたくないけど、やるならやってやんぞ、くそ、痛ぇ…降参しろ…いや、降参してください……。実際には数秒にも満たない時間だったのだろうが、俺はその時間を数分にも感じていた。


 レイレは、ふっと唇に諦観の笑みを浮かべると静かに呟いた。


「リュードさん、私の負けよ…」





 俺が、全身の痛みに耐えながら何とか立ち上がると、レイレも苦痛に顔を

歪ませながら、同じように立ち上がる。エリザリス西辺境伯に目をやると、彼女は頷いて勝負の終わりを告げた。


「この勝負、リュードの勝ちとする」


 俺はその声を聞いた上で、レイレの方を向く。もう限界寸前、いや限界はとっくに越えている。霞む目に映るレイレは、悲しそうな、不安な顔を浮かべている。あぁ、ごめん、そんな顔をさせたかったんじゃないんだ…途端に申し訳なさと後悔が、猛烈に込み上げてくる。


 最後に、レイレに少しでも良い言葉をかけてから……と思いつつも、混濁して沈みかけた意識をかすめたのは、あ、俺、自己紹介ちゃんとしてない…だった。



「…は…じめ…まし。リュー…ド…と、い…ま…す…」



 俺は全身から血を吹き出してぶっ倒れた。


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