67◆昼の魔石を手に入れる◆



 光るトンボを見たことがあるだろうか?俺は今見ている。前世の地球には、自らが光るトンボはたぶんいなかったと思うが、なにぶんこの世界では魔物という非常識な存在がいるのだ。だからトンボが光っても問題はない。


 問題があるとすれば、そのサイズだろう。手を伸ばした俺の中指の先から肩口、およそ80センチくらいはある。光っているのは胴体から尾尻の先までのみで頭と羽は光っていない。


 俺の目の目に広がっているのは、暗闇の中、無数の光る棒が、スイスイとあっちこっちに動いているという、シュールな絵だ。


 黒いひもを先端に束ねて、はたき状にした長い棒を振り回して、光る棒をはたき落としては剣を抜き、頭を落としている。頭を落とされると光が弱っていくので、見失わないうちに、まとめて山にして置いておく。


 エリザリス西辺境伯と話した数日後、俺達は西辺境伯の兵士と共に、エリスリ近くの湿地に魔物討伐にきていた。





 エリザリス西辺境伯の依頼、“南に嫁ぐ二女のカタリナ姫の輿入れの時に持たせる、西の心意気が伝わるもの”は、あまりに漠然として、よくわからなかった。なので俺はカタリナ姫本人に会わせてもらった。本人がどういうものが好きか、何を喜ぶのか、ヒントになりそうなものを得たかったのだ。カタリナ姫は、大人しく聡明な人で、戦うタイプの母親とはまた違う美しさをもつ人だった。


 加えて、エリザリス西辺境伯に、魔物に詳しい人を紹介してほしいとお願いしをした。すると、「妾がわかる、答えてやろう」と返されたので近くにどんな魔物がいるか、どんな魔石を採れるかなどを教えてもらった。これは、新しい素材や魔石を手に入れることで、そこから何かを思いつくかもしれないと思ったからだ。エリザリス西辺境伯は、領内の魔物に詳しかった。獲れる素材以外にも、強さや討伐方法も熟知していた。


 なぜそんなに詳しいのかと聞けば、そもそも東、西、北の辺境伯領は魔物が襲ってくる最前線であり、その頭領である辺境伯は誰もが認めるほどの実力を持つのが当たり前で、領内の魔物も、全て自分で討伐したことがあるとのことだった。北の辺境伯であるクマさんも、仮面つきでしかまだ見ていない東の辺境伯もどうりでやたら強そうだったわけだ。


 ということで、ちょうどこの時期に大量発生している光るトンボ討伐にきているわけだ。このトンボ、光るということは魔石は昼属性なのだ。昼の魔石は、ちょうど俺が欲してたものだ。風の魔石で、鳴る、動かすまではできていたので、次はなんとか光らせることに挑戦したかった俺は、ワクワクしながら討伐隊に参加していた。


 この光るトンボ、毎年大量発生する。トンボ自身は強くないが1つ問題がある。トンボを狙ってヒュドラという魔物が出ることだ。ヒュドラは5つの首を持った、人間より少し大きい蛇の魔物だ。


「出たぞ!ヒュドラだ!さ、3体だ!!!」


「なに!3体もだと!?」


 兵士の内の3人が、頭の上に昼属性の魔法の光球を掲げて周囲が明るくなる。トンボが逃げるため、ヒュドラが出るまで灯りはつけれなかった。


 森の奥から、3体のヒュドラが俺達の方に向かってきていた。兵士の数は、俺達を除き15人。うち3人は灯り役だ。「槍構え!」という隊長の声に、残りの12人が身長の倍以上長い槍を斜めに構える。


「冒険者殿、しばし1体を引き付けておいてほしい!すぐにかわる!」


 長い槍を器用に使い兵士達は、ヒュドラをけん制し、追い詰めて、刺していく。慣れた動きなので、何度も倒していることがわかるが、ヒュドラはしぶとく、包囲している人間側も少ないため、状況は長引きそうだった。


「クロナ、テイカー、左右から、頭!」


「「了解!」」


「ストーンアロウ!ダブル!!」


 クロナとテイカーが同時に左右から突っ込むのにあわせて、俺はストーンアロウを、ほぼ同時に射出する。密かに練習していた、魔法の“ほぼ”同時起動だ。1つめのストーンアロウを射出準備状態で溜めた状態で置いておき、ほんの少しの差をつけて2つめを生成し射出しているので“ほぼ”だ。


 一瞬の間に4つの首を失ったヒュドラの残った真ん中の頭を一拍遅れて俺が切り落とす。地球の神話のヒュドラのように、頭が再生したりはしないようで安心する。残りのヒュドラも無事に片付き、兵士達に感謝されながら、俺達はエリスリの街へと帰った。





「ヒュドラは土かぁ」


 拳半分ほどの大きさのヒュドラの魔石を直に持たないように布で持ちながら

俺はしげしげと眺める。


「リュード、土の魔石も何か使えるのでしょうか?」


「残念ながら土はねぇ…。砂が出るだけで使い道を思いつかないんだよね」


 俺達が普段目にすることのできる魔石は、ほとんどが水か土だ。水棲系や湿地に住む魔物は水、イノシシ型などの陸棲系は土だ。そして魔物の多くは、土か水だ。鳥系は風が多いが、住む地域が限られるか、ハーピィ以外は倒すのに手間がかかるためあまり見かけない。火山地帯とかに行けば、火の魔石とかも容易に手に入るという。昼と夜は今回は手に入れたのが初めてだ。


 10日以上前に、迷宮に潜って夜の魔石を手に入れたが、まだ研究、解析もできていない。そんな中、今回エリザリス西辺境伯に頼んで光るトンボ討伐に参加させてもらったのはとてもラッキーだった。


 光るトンボの魔石は小指の爪ほどの大きさのものだった。面白いことに、体の中央に1つではなく、1個体につき3つ、胸、腹、尻と3カ所ついていた。光り方と関連があるのかはわからない。そのトンボの魔石は倒した分全て、優に200個以上あった。これだけあれば、いろいろと試すことができそうだ。俺は期待に胸を膨らませた。


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