36◆国王様とお話◆



「はい、全て彼の行いにございます」


 エルソン男爵の言葉に俺はぶっ倒れそうになる。どうやら、俺が王様との会談前に言った「関連はあるけど違う話題とかを振って勢いでごまかすくらいしかないのでは?」という部分をまるまる俺に振る気らしい。


 後頭部あたりに視線を感じるが、俺はひたすら目の前の質の良い絨毯の毛を見つめる。あぁ、このまま寝たら気持ちいいかもな。


「面を上げよ、直答を許す」


「はっ」


 俺はようやくここで頭を上げ、国王を見た。


 アムリリア国王、アムリリア・アーサー・ウィルヘルム。王冠にマントを付けた、ありがちな王様像を思い描いていた俺の目に入ったのは浅黒い肌、太い眉毛に、目がぎょろりとした壮年の男性だった。体格もよく漁師の元締めと言われた方がしっくりくる。王族は、大陸中央の穀倉地帯の勢力と、南の海と港を抑えた勢力が婚姻政策を進めてまとまった一族だ。国王陛下も南の血が入っているのか、南の出身なのだろう。


「非公式の場だ、礼がなくてもかまわん。名は?」


「リュードと申します。アムリリア国王陛下」


 俺の答えに一瞬眉をあげる国王。


「この『マギクロニクル』は、お前が考えたのか?」


「はい、さようにございます」


「ふむ。リュード、成人前は家名があったか?」


「はい、ラーモットと申しました」


「エルソン…ラーモット…ん?おい、ヴァルド侯爵、こいつは」


「はい、ご推察の通り、血風のパスガンの3男のようです」


「血風!あの30人斬りの息子か!」


 父上、あなたの名前は国王陛下まで知っていましたよ。俺は心の中で父親に報告をする。父親のパスガンは、17か18歳の時に、無傷で盗賊を30人斬り殺したことで一躍有名になり、血風と二つ名がついた。


 今16歳の俺だが、あと1~2年で父親と同じように盗賊30人斬り殺してみろって言われても絶対にできない自信がある。先日、俺が盗賊団と戦った時は、護衛の冒険者達もいたし、弓持ちの援護もあったから対応できたが、30人が敵意増し増しで自分にだけ向かってきたなら逃げることしかできない。


「ククッ、おもしろいな。リュードは今、エルソン男爵に仕えておるのか?」


「いえ、仕えておりません。今回の『マギクロニクル』の開発にあたり、仕事をさせていただいております」


「ほう…、なら俺に仕えるか?」


 どう答えようか、何といえば失礼にあたらないか、頭を高速回転させるが、いい答えが思い浮かばない。相手は国王、俺は平民。本当なら名誉なことこの上ないのだろうが王都に、王城に縛られたくない。


 助け舟を出してくれたのはエルソン男爵だった。


「御恐れながらよろしいでしょうか、国王陛下」


「なんだ?」


「このもの、リュードは啓示を受けたものにございます」


「啓示だと?」


 啓示を受けたという人間がいたら、胡散臭い、怪しいと普通は思うだろう。俺もそう思う。この世界において、『啓示を受けた』という人間は、自称、他称問わず、たまにいるそうだ。詐欺師まがいのどうしようもない人間が半分、残り半分は、1人ですごい魔物を倒したとか、ものすごい魔法が使えるとか実力もしくは実績がある。


「『マギクロニクル』のカードの原料、印刷方法、遊び方、売り方の仕組み、秘められた壮大な話…、全てこのリュードの頭から出たものなれば、私も信じております」


「ほぅ…、それで?」


「『おもしろいものを作る』というのが、リュードの受けた啓示とのことで、『マギクロニクル』もその1つにしか過ぎないそうです」


「なんと…」


「このリュードは、己が足で世界を回り、己が目で様々なものを見たその時に『おもしろいもの』が頭に浮かぶと言っております」


 険しい目で国王が俺を見る。見定めようというのだろう。暗い海の様な、濃い目の青の瞳が俺を飲みこもうとするかのように開いている。国王相手に目をじっと見ることが礼儀的にどうだったかはわからないが、俺もしっかりと見返す。大事なところなので、目をそらしてはいけない。


「ふん…わかった。こいつは自由にさせたほうがおもしろいのだな?」


「御意にございます」


「ふむそうなるとだな…」


 国王は顎に手を当ててしばらく考えに耽る。俺達はそれを黙って待っていた。


「近衛騎士団長」


「はっ!」


 後ろに控えていた筋骨隆々の鷲鼻の男性が一歩進み出て返事をする。


「こいつと今から立ち会え。それと誰か、ザルシャド準男爵も呼んで来い」


「は、かしこまりました!」


「よし、リュード、中庭に行くぞ」


 足早に部屋を出ていく国王の背中を俺はぽかんと口を開けて眺めていた。


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