30◆異世界スポーツゲーム『魔物と村人』◆
俺が試作した、棒倒しゲームが完成した。閃いたときは前世のスポーツ棒投げゲームをイメージしたが、結果的にこちらの世界の農村で遊ぶものとして再構築したら、棒を投げて的を倒すという部分以外は別物になってしまった。
道具は全て木製で、木の棒、ピン、コイン、長めの枝の4種類だ。
まず10本のピンを、ボーリングのピンのような形に置く。ピンの斜めに切られた面には、俺が魔物の絵を描いてある。
次に投げる位置を決める。置いたピンの先頭から、定規となる1メートルちょっとくらいの木の枝で3回分測って離れた地面に、その棒を置く。この棒を越えないように投げる。
最後は投げる棒を用意する。棒というか、寸詰まりのデフォルメされた剣の形をしている。
ゲームは2チームにわかれて行う。剣を下投げで投げて、倒した魔物と同じ数だけの木のコインをもらう。倒れた魔物は、その場に立て直して、次のチームにかわる。
そう、俺が作ったのは魔物退治ゲームだ。非常にシンプルで、魔物を倒してお金をゲットするゲームだ。そして俺はさらにもう一つ仕掛けを用意した。人間を描いた2本の村人ピンだ。
これは10本並べた魔物ピンの後ろ側、左右にピッタリと1本ずつ置く。村人ピンを倒してしまったら、手にコインがある場合は、村人に1人につき2枚返さねばならない。コインがない場合はマイナスにはならない。払えるものがないのだから。さらに村人ピンは、毎回自分の番が終わるときに、好きな場所に置いていい。最終的に、コインを先に10枚手にしたほうの勝ちだ。
世界観もわかりやすく、想像しやすい。ルールもシンプルだし、計算も子どもができる範囲。相手を邪魔する要素も入って、熱い展開になりやすい。うん、なかなかおもしろいものになったと思っている。
ということで、さっそく皆と遊んでみた。
◇
「あぁ!なんであいつ、あんなとこにいるんだよ!」
「ぎゃはははーーーっ!」
「残念だったな、ほらコインを2枚もどせ!」
「うぅー…、勝ったと思ったのに!」
「じゃあ、村人はここに置こう。ぴったりと真横に」
「そこ、すっごい、邪魔なんだけど!!」
「いや、そしたら、あっちの離れた魔物を狙うんだ!」
「せいっ!」
「めちゃめちゃ手前に落ちてんじゃねえか!」
「狙うの難しいんだよっ!」
大盛り上がりだった。魔物を倒すというテーマが、皆の心にしっかりと刺さったようだ。あまりに小さい子は遊べないが、老若男女、皆笑いながら、入れ替わり立ち代わり遊んでくれている。
「やっぱり剣は縦に持ったほうが…」
「堅実に稼いでいったほうが…」
「いや、でもそれも配置次第で…」
「あの位置に村人を置くのは…」
「狙ったところに投げられるように練習しないと…」
遊んでいない連中も、プレイを見ながら、あれこれと持論を展開しながら話し合っている。俺は、小さくガッツポーズをとっていた。いやいやいや、これはヒットだろう。こんなにはまってくれるとは。
魔物ピンは当てるごとに、跳ねたりして毎回その位置が変わっていくので、
どこに村人ピンを置くかも毎回変わっていく。剣を投げるごとに変化する状況が、ゲームを混乱させ楽しくしている。
前世の頃からだが、自分の考えたもので人が興奮して楽しく遊んでくれている姿をみると、一種の万能感というか、強い自己肯定感をおぼえる。「俺、すげーじゃん!」みたいな。もちろん俺も何度か加わって一緒に遊んでいる。
「リュードさん!すみません!あれ、売ってもらえませんか!?」
内心で自画自賛を繰り返していた俺に声をかけてきたのは、今回一緒に移動している行商人だ。名前をヤルナイと言い、根が真面目な素直ないい青年だった。コルスマスで雑貨店を営んでいる商人の次男で、普段からコルスマスと村々をつないで行商をしていると言っていた。
「あれ、幾らだったら売ってくれますか!?」
その言葉に、俺の頭が回り始めた。
◇
俺はヤルナイに、幾つか条件をつけて、この遊びを売ることにした。ただし、作ったものはこの村に置いていく。もともと村人に遊んでもらえればと思って作ったものだ。
この世界に、著作権や特許や、意匠登録はない。面白い遊びがあれば、すぐに真似をされ広まっていくだろう。今まで俺の作ったものの中では、トレカであれば、キーになる素材も製法もわからないようにしているから真似はされにくい。それでもカードの白の発色が悪い類似品は、どこかで出されているかもしれない。
TCGはトレカの製法に加えて、遊びも相当しっかりと作っている。ゲームシステムも含めて、商品を作るのに数十人も関わるという発想もあまりないだろうし、こちらは後発が出るとしても相当後の話になるだろう。
今回の魔物退治ゲームはどうか?道具も遊びも簡単なので、すぐに真似される。真似されたものの中には、質の悪いのも入ってくるだろうし、場合によっては、その質の悪いものによって遊び本来の楽しさが損なわれることもある。これでも、剣の大きさとか、ピンの長さとか、いろいろと細かいことを考えて作っているのだ。
いい機会だ、せっかくなら、この遊びを正しく広げたい。俺はヤルナイに幾つかの条件を提示した。
1・名称は『魔物と村人』とする(『魔物討伐!村人さんに気をつけて』が正式名称だ)
2・設計図を描くから、その通りに職人が作ったものを売る。形や重さもそろえること。
3・ヤルナイの実家であるコルラ商店のみが正式品を売るということで、作った商品には焼き印か何かで統一したマークを入れる
4・村々で遊ばれること念頭に入れ、数人でちょっと金を出せば買えるくらいの価格設定にすること。金持ちしか買えないような値段にはしない
5・村々を行商で回るときに、コルラ商店が景品を用意し、できうる限り公式大会を開く
6・遊び方を書いたものも渡す。そこに記載されている以外の遊びは、公式戦では認められない
これらの条件で、値段を600リムで提示した。成人男性が30日ほど暮らしていけるくらいの金額だ。思いついた商品を1個売ってもらうだけだと考えていたであろうヤルナイは目を丸くして驚いていた。ヤルナイが抗議をしようと口が開きかけたところに、俺は畳みかける。
「買い取ったもので複製を作ろうと考えてると思うけど、それだと失敗すると思うよ。今日のこの村の人達の盛り上がりをすごかったよね?この金額は大本の設計図と、遊び方説明書まで含めての設定だし、上手くやれば、ただ商品を販売する以上の展開ができると思うよ。ちなみに買わずに真似して作るなら、相当苦労すると思うよ。簡単にみえて、大きさやバランスをかなり考えこんで作ってあるから」
最後のセリフは少しブラフだ。試行錯誤を少しすれば、同じものは作れると思う。ヤルナイは1時間ほどうんうんと唸っていたが、最終的に首を縦に振った。
俺は翌日、剣や魔物ピンの三面図、遊び方説明、今回提示した条件をまとめたもの、を羊皮紙に書いて渡してやった。ちなみに羊皮紙はヤルナイの商品に入っていたのを購入した。
ヤルナイからしっかりと600リムを受け取る。行商のために用意しておいたのほぼ全額を使ってしまったと嘆いていたから、一緒にいるうちに必要になったら貸すと伝えたら泣きそうな顔をしていた。
こうして俺は、この世界に来て初めて『企画』を売った。トレカは商品として売ったし、『マギクロニクル』は売上の一部をもらえる成果報酬なので、企画単体で売ったのは初めてだ。前世では、毎週のようにやっていたことだった。
その後、『魔物と村人』は、魔物討伐の途中に村に寄った騎士や兵士達にも広がっていき、コルコス領の名物遊びとなったそうだ。ヤルナイが行商の度に、各村で公式大会を開いた結果、3年後には領都コルスマスでのトーナメント大会を開くまでになり、コルラ商店は、公式ショップとして繁盛しているそうだ。
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