29◆農村にて◆


 その後、ローノとは2日間一緒に過ごした。商隊が街を発つ日の早朝、宿屋の玄関で俺とローノは熱くキスを交わした。お互いにもう会うことはないとわかっていたので、昨晩のうちに別れはすませてある。唇を離すとローノは振り返らず真っ直ぐに歩いていき、俺はその姿が見えなくなるまで見送った。


 コルスマスの町でさらに2日過ごした後、俺はコルコス子爵領内の農村を経由しながら王都を目指すことにした。ただ、1人で街道を歩くのを避けたかったので、まず町の冒険者ギルドに向かった。受付も含めて目つきの悪い男しかいない地方のギルドだ。


「マブリ村まで行って、そこから王都まで向かいたい。そっち方面まで行く依頼はあるか?」


 俺は、冒険者のプレートを見せる。プレートの裏には星が3つ刻印されている。


「あん?この町のやつでもない冒険者に、護衛依頼なんて出せるか」


 冒険者ギルドは、地域を越え情報が共有化された大きな組織ではない。共通しているのは、プレートのシステムと、そこに星が刻まれることだけだ。星3つは中堅冒険者ではあるが、他の支部の星3つは信用などないに等しい。


「違う。そっちにいく行商人とかがいるなら、あわせてくれ。魔物よけに一緒に歩きたいだけだ。依頼じゃないから護衛料も飯もいらない。でも、魔物が出てきたら一緒に戦う」


 俺はカウンターの上に銅貨を3枚置いた。豪勢な食事が2回は食べれる金額だ。


「っち、しゃあねえな。ちょうど明日出る行商人がいる。南門、朝だ。話はしといてやるが、向こうがイヤだって言ったら諦めろ。いいな?」


「わかった」





 翌日、行商人の同行許可を得た俺は、護衛依頼についた2人の冒険者と共に荷車の後ろを歩いていた。売り物を積んだ重そうな荷車を、パロという、ロバみたいな生き物がノシノシと引いている。


 春先の魔物は飢えて気が荒くなっているので警戒していたが、襲われることはなかった。早朝に出発した俺達は途中で食事と休憩を何度か取りながらも、夕方前には無事に次の村まで到着した。


 行商人は村長宅へ挨拶と一晩の宿を借りに行き、俺と冒険者達は村の中央の広場で野営した。村に宿はなく、どこかの家に宿を借りてしまうと、お礼を払わなければならないので、雨でもなければ村の中で野営することも多い。


 翌日、行商人が、広場で商品を並べて商売を始めると、多くの村人が押し寄せていた。俺はその様子を眺めたり、村の中をうろうろしながら、何かおもしろいことができないかと考えていた。


 農村でも町でも、基本的に子どもは忙しく働いている。女の子は、年下の子の面倒をみることが多く、男の子は力を必要としない農作業などをやらされている。お小遣いは年に1度の感謝祭の時にもらえるだけで、前世の日本のように、子どもが直接おもちゃを買うことはない。


 そんな、おもちゃを買う習慣がない人や子ども達に、どんな商品を作ればいいのか、どうすれば商品を売れるのかと、しばらく頭をひねっていたが、別に今すぐ作って売ることもない気がついた。


 なので、何か簡単なルールの一品もののゲームを作って、遊んでみてもらうことにした。前世でも、思いついたアイディアを試作しては、児童館に行って遊んでもらうこともよくやっていた。子ども達の評判が良ければ、そこから企画書を作ってプレゼンに行くこともあった。


 そうすると何を作れるか。


 多くの子どもは文字を読めないので、文字はなしだ。数字は使えるとは思うが、複雑な計算をするものは面倒くさくなってしまうだろう。そして、できれば皆で遊べて盛り上がるもの。テーマもわかりやすいもの。俺が作るのが難しくないもの。


 ……!


 ピンと閃いた。そうだ、棒投げゲームを作ろう。





 北欧のある国に古くから伝わるゲームを元に、北欧の会社が開発したアウトドアスポーツがある。木の棒をチーム毎に交互に投げて、3~4メートル先に並べた複数の木のピンを倒すゲームだ。投げ方は下投げのみで、狙い通りに投げるのは以外に難しい。


 ピンには数字が書かれており、倒れたピンに書かれた数字、あるいは倒れた本数によって得点が加算される。50点ちょうどを目指さないとならず、オーバーしたら25点になって再スタートする。そのスポーツゲームを前世で1回だけ遊んだことがあったが、思っていた以上に盛り上がって楽しかった記憶がある。


 大人でも子どもでも遊べ、体を使うし、ピンが倒れるというわかりやすいアクションがあるので、この世界で、村の子どもが遊ぶのにちょうどいいと思えた。ただルールは大幅に変えることになりそうだ。


 俺は村人から、小さい薪を20本ほど買って広場の隅で小刀を使って加工し始めた。村人や冒険者、行商人が何をやっているんだと足を止めて聞いてくるが、「出来上がってからのお楽しみだ、明日まで待っててくれ」と返しながら作業に没頭する。


 ある程度、加工が終わったら、持ち歩いている筆と絵の具で絵を描いていく。翌朝には完成したので、俺は広場に置いて村人が来るのを待った。


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