25◆冒険者活動と感謝◆


「せいっ!」


 俺は剣を振り下ろし、狼型の魔物の頭部を2つに切り裂いた。


「リュードさん、ありがとうございます!」


「立って、後ろに下がれ!息を整えろ!」


「は、はい!」


 まだあどけなさの残る少年冒険者を下がらせると、横にいたベテラン冒険者、星4ランクのゴンザレスが俺に指示を出してきた。


「リュード、残り2だ!俺が右をやる」


「了解っ!」


ギャンッ!


 飛びかかってきた魔物の鼻面を、剣の柄で上から殴りつけ、ひるんだところで首を斬り飛ばす。隣ではゴンザレスが、大ぶりのメイスで魔物の頭を潰し終えたところだった。


 底辺の受け皿、犯罪者と紙一重、食い詰め者の集まりと言われる冒険者だが、その中でも星のランクを上げて抜きんでてくる優秀な人材もいる。


 登録時に受け取るプレートの裏面には、初めは何も刻まれていない。町の仕事を受け続けて星が1つ刻まれる。魔物退治を請けれるようになるのは星2から、星3になると中級冒険者、星4ともなると手練れ、ベテランだ。星5は2か所以上のギルドで星4必須など条件も厳しく滅多にいないし、当然俺達の町にもいない。


 ゴンザレスは、俺が冒険者に登録するずっと前から、この町の唯一の星4冒険者だ。俺が以前にスパイクボア退治を請けた際に、酒と飯と引き換えに情報をくれたのもゴンザレスだ。


 冬になると魔物は活動が鈍くなり、人間の生活圏に現れなくなる。が完全に0になるわけではなく、たまに飢えと寒さで凶暴になった魔物が、街道近くまで出てくることがある。ゴンザレスは、その討伐を受ける際に、俺に声をかけてきた。「有望な奴らを、冬の間飢えさせないために即席チームで依頼を受ける。狼型、複数だ。リュード、フォロー役で加われねえか?」と。


 実際にギルドに入って活動してみるとわかった。ギルドの強面職員やゴンザレスの様な面倒見の良いベテランは、真面目にやっている経験の少ない人間をフォローしてくれている。底辺の受け皿の中でも、人を救おうとする、そういう人達を俺は尊敬していた。そんなゴンザレスに頼られたのが嬉しいのと、体は動かしていたものの『マギクロニクル』にかかりきりで、気晴らしがしたかった俺は喜んで依頼を受けたのだった。





「リュード、そういやおめえ、今度の春には町を出ていくんだってな」


 よく煮こまれた塩漬け肉を口に放り込んだゴンザレスに聞かれる。


「あぁ。エルソン男爵に頼まれてた仕事も、ようやくひと段落ついたしね」


「おめえがあまりにもギルドに顔出さねえから、どっかで魔物にやられて死んじまった、なんて噂も、一時期出てたぞ」


「この辺、そんなやばいのいたっけ?」


「いねえよ。だが流れの魔物が出ねえとも限らねえがな」


「怖いな。気を付けておくよ。用心に越したことはない」


「はん、まぁ、血風のパスガンのガキが、そんなヘマもしねえとは思うがな。しかしなぁ…町を出るか」


「なんだ、寂しいの?」


「そりゃそうだろうよ。やたら腕は立つくせに、人はいい。おめえに助けられたやつも少しはいる。おまけに、おもしれえもん作っちまうからな。」


 そう言ってゴンザレスが懐から出したのは、一昨年の感謝祭で俺が作ったトレカだった。カードは、『白の姫様フィマルド』だ。


「ぶっ、ゴンザレス、それ!」


 俺は思わず飲み物を吹き出しそうになる。


「このカードは母ちゃんにも見せられない俺の宝物だ。まぁ、母ちゃんも何かのカード持ってるらしいがな、ブハハッ」


 なんとも、むず痒く恥ずかしい気持ちになる。俺は無言で杯をあおった。


「まぁ、残念だがしょうがねえ。で、どっち方面に行くんだ?西か?南か?東の王都方面か?行く方向によっては教えてやれることも、あるかもしれねえ」


 本当にゴンザレスは面倒見がいい。


「エルソン男爵の仕事、一段落はついたけど、春の中頃には1度王都に来てほしいと言われているからね。南方面に向かって少し進んでから、ゆっくりめに王都に向かうかな」


 「そうか、なら隊商の護衛でも受けるんだな。南だったらコルコス領のコルスマスまでの護衛とか出てるだろう。」


「護衛は星3つからだろ?」


「おめえ、次に受付行ったら星3に上がんぞ」


「マジか」


 どうもゴンザレスと職員とで、今回の依頼も込みで話がついているらしい。自分が人に支えられていることに感謝を覚える。


「ゴンザレス、ありがとう」


「はん」


 ゴンザレスはそっぽを向いて、再び肉を口に放り込んだ。





 TCG『マギクロニクル』は完成した。生産も行っている。だが実際の発売は少し先になる。この世界には、当然おもちゃ屋やカードショップは存在しない。ではどうやって手に入れるかというと、エルソン男爵に打診して、取り扱っている商人を紹介してもらう形になる。紹介とは言うが、実質エルソン男爵と話した時点で売買が成立する。


 この冬の初めに、エイデン老とマルコ君は、『マギクロニクル』の贈答用サンプルと生産できたところまでの製品を持って、王都へと旅立った。領地経営が落ち着き、魔物の活動も少なくなる冬は、貴族達の社交シーズンとなる。エイデン老は大人の貴族達、マルコ君は貴族の子ども達と遊んで『マギクロニクル』を広めている頃だろう。


 今日は冬の90日。前世で言うところの大晦日にあたる。明日からの季節に属さない5日間は、仕事はせずに1年を振り返り、次の1年を想って過ごす。そして春の1日がきて新しい年を迎える。


 誕生日は各季節の45日と決められている。俺はたぶん春の十何日かの生まれだが、正式には春の45日が誕生日だ。とはいっても、ちょっと豪華な食事が出るくらいでプレゼントなどの文化はない。待てよ、いつか誕生日プレゼントの文化も作って広めて…そんな思いがよぎるが、今は流していく。この世界のことを知れば知るほど、試したいことは、次から次へと湧き上がる。


 去年の誕生日で俺は15歳になり成人を迎えた。『マギクロニクル』も一段落ついたので、もういつでも町を出れるのだが、なんとなく冬の間に旅立ちたくなくて、春の15日に家を出ることにした。


 そして旅立ちの日がやってきた。





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