23◆異世界TCG・『マギクロニクル』完成!◆
この世界で初となるトレーディングカードゲーム『マギクロニクル』がついに完成した。今、俺の目の前で2人の人物『マギクロニクル』で対戦している。
「では、わしは赤の魔法使いラベルで、癒しの聖女リリーに攻撃じゃ!『ファイアーパロット』!」
サンタクロースみたいな白ひげを生やした初老の男性が、にやりと笑いながら魔法が描かれたカードを場に出す。
「甘いですね、お祖父様。私の青の魔法使い、沈黙のソダックが既に反射魔法を仕込んでいました!『カウンタファイア』!」
少年が伏せられていたカードをひっくり返し魔法を発動する。
「ぬぅ…ダメージ3!しかもわしは魔力がなくなった。ええい、ターン終了じゃ。」
「私のターンですね。カードを引いてと…。よし、きたっ!」
勝気そうな少年が、手にもった数枚のカードを見ながら嬉しそうに笑う。
「では、お祖父様いきますよっ!『ブルースピア!』私の青の魔法使いソダックが、お爺様の赤の魔法使いラベルを攻撃、撃破です。そして、ここでコンボ発動!私の緑の魔法使いラグは赤属性の魔法使いの死をもって、覚醒します!ラグは、怒れる緑の大魔法使いラグになりました!」
「な、なんだとぅ!それは敵の魔法使いでも適用されると言うのかぁ!」
「愚問です。できない場合は、できないと書かれている。ですよね?リュード殿?」
「正解、その理解でいいよ」
「さぁ、お祖父様、私には魔力があります!とどめです!ラグの魔法『グリーンジャイアント』で、最後の1人、赤の魔法使いシラットにダメージ5です」
「ぬぅぅ…!」
「ゲームエンド!お祖父様、私の勝ちです!」
「ま、負けた!!ぐぬぬ…く、悔しいのぅ…!さっきのターンで削り切れなかったのが敗因かっ…ぐむぅ!」
満面の笑みで喜ぶ少年と、本気で悔しがるその祖父。俺はその光景を心より楽しんで見ていた。
「リュード殿、これは、本当に!すばらしいです。『マギクロニクル』、僕も頑張って広めます!」
エルソン男爵の次男のマルコ君10歳だ。今後、貴族の子ども達の間に『マギクロニクル』を広げていくための中心人物となる予定だ。
「リュードよ、これは素晴らしい。組み合わせによる無限の戦略、相手との駆け引き、最後まで油断できぬ勝負の流れ、何度でも試したくなる中毒性、集めるごとに広がっていく世界…いやぁ何度遊んでも楽しいわい!」
白髭のサンタクロースみたいな老人は、前エルソン男爵エイデン・ベルンスト。男爵としては異例の出世で、宰相の補佐まで勤め上げたそうで、惜しまれながらも引退し爵位を息子に譲った後は、王都でのんびり暮らしていたところを、『マギクロニクル』の総責任者になるために領地に呼ばれて来た。
最初はゴミを見るような目で見られたが、開発している様子をマルコ君と一緒に見学してもらい、時々テストプレイにも入ってもらい、周辺商品のアイディア出しや製作にも意見を出してもらっている内にすっかり虜にしてしまった。
エイデン老が言うには、貴族は新しいものに常に飢えていると言う。商人は、そんな貴族のもとに様々な新しいもの、美術品などを持ち込むが、どれも単発で続かない、つまり飽きるらしい。ところが、今回の『マギクロニクル』は、その興味を引き続ける、今までにない構造の商品だと言われた。ただカードを集めて終わりでなく、それが遊びとなって高度な駆け引きができる上に、集めた分だけ戦略も広がる。すごいものを発明したと言われた。発明したのは俺ではないので心苦しいが、そこまではまってくれたのなら、成功する確度もあがると思えば嬉しい。
◇
『マギクロニクル』の設定と、遊びを簡単に説明する。
今ではないいつかの時代、ここではないどこかの話。魔法が発達し多くの魔法使いが活躍する世界。そこでは数多くの小国が乱立し、無益な争いが永遠と続いていた。誰もが争いに疲れ、平和を望む中、何人かの指導者的人間に神より言葉が降りてきた。
「3賢人を率いて汝が道を進め。決して民を巻き込むべからず」
この言葉により、主となる資質を持つ者達は、自らが見出した3人の魔法使いを連れて、己が理想とする世界を作るべく、歩み始めた。
…突っ込みどころはあるだろうが、そこはご愛敬だ。
通常のTCGにおけるプレイヤーの役割は魔法使いで、モンスターを召喚して戦わせる。呪文を唱えたりすること多いが、基本はモンスターがメインとなる。そのモンスターの能力が強かったり、デザインが良いと人気が出て、皆が欲しがるカードになる。ここでいうモンスターには人間キャラクターも含まれる。
だが、実際に魔物の被害が出ているこの世界において、それを呼び出し戦うなど、多方面から攻撃を受ける可能性があった。俺はそれを解決するために、モンスターではなく、全て魔法使いという人間キャラクターにした。
魔法使いには、赤、青、緑、黄、白、黒、透明の7つの属性があり、それぞれに呪文の攻撃力が高いとか、反撃呪文が使えるとか、相手を弱らせるとか、回復ができるとか特徴がある。
プレイヤーは魔法使い達の主となり、自分の好きに魔法使いを3人組み合わせる。ここでチームを組む楽しさが生まれる。回復と攻撃と防御の基本スタイルがいいなとか、全員が相手の邪魔をするのが得意な魔法使いにしちゃおうとか、防御を固めつつ、相手を削る堅実な組み合わせにしようかとか、魔法使いのパワーアップ要素で逆転できる組み合わせが作れるかなとか…。
チームを組んだら、それぞれの魔法使いが使う呪文カードを組み込む。呪文は属性の色があえば使える。呪文の中には、その場で効果を発揮するもの以外にも、例えば魔法を使う元となる魔力ポイントを生み出す設置型や、相手の呪文に反応する反応型などもある。それ以外にも呪文ではないが、魔道具などのアイテムカード、魔法使いがパワーアップする覚醒、変化、変身、分身などのキャラクターカード、そして魔法使いをサポートする弟子や冒険者のサブキャラクターのカードもある。
自分の番のことをターンと呼び、このターンを相手と交互に繰り返して、ゲームを進め勝敗を決する。自分のターンがくるごとに、魔法の元となる魔力ポイントが溜まっていき、大きな呪文を使うにはたくさんの魔力ポイントが必要になる。
ライフは各魔法使いごとに設定されていて、大き目のビーズみたいなチップカウンターを置いて管理する。ちなみに、貴族向け商品なので、それなりに高価な貴石で作られている。
全部の魔法使いのライフが無くなったら負けだ。ちなみに仲間が倒れることでパワーアップするタイプの魔法使いもいたりする。
難しそうに思えるが、基本のルールは絞っている。戦う前の準備は、魔法使いのチームを組む→呪文を組んでデッキを作るだけだ。ゲームが始まったら、ターン毎に溜まる魔力ポイントを使って魔法を使う、それだけだ。カードを回転させることで使用と不使用を表現するとか、相手のターンに割り込んで使うカードとか、そういった複雑な要素は入れないようにした。
数値を始め、呪文の効果やキャラクターの特性は全てカードの方に、これもなるべく簡単に記載している。
開発途中の段階から、素晴らしいものが出来上がるという予感があった。チームの全員もそう思っており、実際にできあがったものを皆で集まって徹夜で遊んで、盛り上がって、俺達は最高のものを作り上げたという確信を持った。
こうして『マギクロニクル』は完成した。
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