16◆異世界トレカ・販売編②◆


 トレカは子どもの心をがっつり掴んだ。噂を聞いた子ども達が、見に来ては買ってくれた。しばらく経って、買った子どもから話を聞いたか、トレカを見せられた親や商人達が来るようになった。大人の心も掴んだのはいいのだが…、俺は今ものすごい勢いで文句を言われている。


「なぜだ!なぜ子どもしか買えないのだ!」


「欲しいものをなぜ売らないの!うちの子が泣いていたのよ!」


「こ、この白いカードは何だ!何でできている!教えてくれたら全て買い上げてやろうじゃないか!」


「金なら3倍出す!3倍だぞ!」


「全部キラキラしているカードにすればいいじゃないか!うちの子が友達に自慢されて悔しがっているんだぞ!」


「カードの作り方を教えてくれ!そうだな、特別に300リムまで払ってやろう!」


「『白の姫様フィマルド』を5枚ください!お金なら倍、払いましょう!」


「おう、こら!これ全部売れや!よこせや!」


 俺は何度も説明したことを大声で怒鳴り返す。


「俺が子どもに売りたいからだ!金を出されても大人には売らない!俺が苦労して作り出したんだ!素材と作り方も教えない!売り方とキラカードはすまんが、何が出るかわからないドキドキも含めて楽しんでもらいたいんだ。だから売り方は変えない。欲しくないもの、だぶったものがあったら、友達と交換するように言ってあげてくれ!」


 一時期は警備の兵士まで来たが、俺は騎士のパスガンの息子で、半年以上冒険者としても活動し、兵士には顔も名前も知られている。「まぁ、ほどほどにな」という謎のセリフを残して何も言わずに帰っていった。


 さらに、親に金をたんまり持たされた子どもが50枚くださいとか言ってきたので、俺は1人1日2枚までと、急遽ルールを加えた。こうして用意していた初日分の100枚を売り切った俺は店をたたんで帰路についた。





 祭りの2日目が来た。


 今回作ったカードは5種類×80枚の400枚と、3枚の隠しカードだ。初日はそのうちの100枚を夕方前に売り切った。子ども達の笑顔もたくさん見れた。お目当てが出なかった子どもの泣き顔も多く見た気はするが、トレカとはそういうものだ。ごめんなさい。


 2日目は150枚、3日目も150枚売る予定でいる。カードは仕上がってから全て混ぜて、木箱に詰めたのだが、初日は隠しカードがでなかった。おそらく今日にも出るだろう。


 俺は敷物と商品の入った箱を持って、センドと一緒に店を出した。昨日の騒ぎがあるので、今日はセンドに大人や荒事対応としてついてきてもらっている。


「あ、お兄ちゃんだ!」


 俺の姿を見た子どもが声を上げる。昨日買ってくれた兄妹だ。


「お兄ちゃん!お母さんに見せたらね、お小遣いもう少しもらえたの!『火の国の旅人』が出たらお母さん欲しいんだって!」


 『火の国の旅人』は、長く赤い髪で切れ長の目をした細面の長剣の戦士だ。母親連中の中でも一番人気が高かったカードだ。


 準備を終えて開店すると子ども達が並んで買い始める。一番に並んだ兄妹は、残念ながら『火の国の旅人』は出なかったが、『狼の戦士タタマ』が出て、お兄ちゃんがすごく喜んでいたので結果オーライだ。


 10人目の子どもだった。たぶん10歳より少し上で、何かの訓練でもしているのか体つきもしっかりとした男のこだ。がさがさと木の葉の包みを開いたその子は、自分のカードとサンプルで並んでいるカードを何度か見比べて俺に聞いた。


「お兄さん、このカード何?」


「おぉ!おめでとう、それは超貴重な隠しカードだ!そのカードの名前は、血風のパスガンだ!」


 そう、俺は隠しカードとして父親を入れた。イケメンだし騎士だし、二つ名もあって有名だし、モチーフとしてはもってこいだった。ポテトチップについていたプロ野球カードだって実名選手だったわけで、ちょっと実験的に入れてもいいかと思ったのだ。もし当てた子が嫌なようだったら新しいのに変えて上げてもいいと思っていた。


 俺は見誤っていた。父親のネームバリューは俺の想像の遥か先を行っていた。


「う…、うぉおおおおおおーーーーっっ!!!」


 その子は、カードを持つ手を震わせながら、吠えた。ずっと叫び続け、何度もジャンプして、なんだかやばい猿みたいになっている。少しして落ち着いたその子に、周りの子が声をかける。


「ねぇねぇ!何が出たの?」


「血風のパスガンさんのカードが出たんだ!」



ざわり


 その言葉に、周りの子どもばかりが大人までが反応をする。


「なんだと!なんだと!?」


「ちょちょちょっと、そのカードを見せてくれ!」


「き、君、そのカード売ってくれないか!100リムで買うぞ!」


「いや、なら僕は200リム出すぞ!」


「やだよ!これは、俺が今年一年、すごくがんばったから女神様が俺にくれたんだ!絶対売らない!一生の宝物にするんだ!」


 俺は、このやりとりを見ながら、心の中で大汗をかいていた。まずい、ここまで反応があると思わなかった。いや良い反応なのだが、ちょっとこの盛り上がりはまずい。


「パスガンさんのカードはまだ入っているのか!?」


「ある無しで言えばあります。いつ出てくるのかはわかりませんが」


「俺は子どもを集めてくる!」


「くそ、俺もだ!」


「お兄さん、カードください!」


 その後すぐにカードは売り切れた。2枚目以降の父親のカードは出なかった。あまりの騒ぎの大きさに俺は頭を抱えながら店を閉めた。




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