12◆感謝祭に向けて◆
スパイクボアをギルドに持ち帰った俺達は、ギルド近くの解体所で解体と買取をしてもらった。家用にスパイクボアの肉の塊を3つもらうことにして、残りは解体料とあわせて清算し、それなりの額の金を受け取る。
可食部位も多く素材を有効活用できるスパイクボアは、良い稼ぎになる。ギルドの討伐報酬は、センドの言った通り1体分しかもらえなかったため、正直嬉しい。ギルドではカウンターのおっさんに、「2匹倒せとは言ってねえ。というか、2匹いることで危険度が上がってるんだから、今度からは1度報告に戻ってこい」と言われた。正論だし、報酬は諦めるが、正直すごく悔しい。
「ほらスパイクボアの肉だ。魔石はどうする?」
「もらうよ。触らないように何かに包んでくれ」
「あいよ」
魔物の体内には、魔力が凝縮してできたとされる魔石がある。大型や年月を生きた強い魔物ほど、魔石は大きくなると言われている。また魔石は、火水土風昼夜の6つのいずれか属性になっている。今回俺が受け取ったスパイクボアは土属性だ。
魔石は一部を除いて、あまり価値がない。魔石は人間が触れると、中の魔力を使って属性ごとの現象を引き起こす。水属性は水を滴らせ、土属性なら砂を出し、火属性は熱を発して、風属性はそのまま風を放出する。夜属性は、魔石本体を覆うように薄暗いもやを出し、昼属性は魔石がぼんやり光る。
それならば、使えるのではと思うだろうが、量や出力が低い上に、人間が触れていないと現象が起きないため使い勝手が悪い。そして中の魔力がなくなると、ただの石になり、安定供給もされない。
乾燥地帯で水の魔石が、のどを潤す水飴(もちろん甘くない)として活用されていたり、寒い地域で火の魔石が手を温めるなどの地域によって重宝されるものもあるそうだが、だいたいは二束三文のガラクタ扱いだ。祭りの露店でたまに売られていて、2~3日子どものおもちゃになったりする。俺も子どものころ小遣いで買って大興奮したことがある。砂や水が出てくるのが不思議でしょうがなく、空になるまで触り倒した記憶がある。他には強力な魔物を討伐したトロフィー、証として、爪や牙と共に飾られることもある。
つまり、ファンタジー小説に出てくる魔道具というものは存在しない。どこかに研究をしている人間はいるかもしれないが。
俺は魔石に可能性を感じている。異世界おもちゃ道を進むと決めたからには、アナログトイに拘らず、いろいろなおもちゃを作っていきたい。鳴る、光る、映るおもちゃだって作りたい。だが、俺は電池やLED、スピーカー、液晶などの原理も作り方も知らない。だがこの不思議の塊である魔石であれば、それらの替わりにできるのではないかと思っている。
できそうな予感はある。それを形にしていくために、この世界のあらゆる経験や知識をためていき、そこに俺の企画屋の発想、複合魔法、前世の経験などを混ぜていく。そうすれば、例え前世と同じものではなくとも、似たような、もしくは前世にあったものを越えるような、おもしろいものが作れるだろう。だから俺は冒険者になって、この世界を知る。
でも…、早いかもしれないけど、そろそろ何か作りたい。俺はスパイクボアの肉を抱えながら青い空を見上げて小さくため息をついた。
「あと30日くらいかな。そろそろ感謝祭だね」
そのため息をどう捉えたのか、センドが返してきたセリフに俺はピンと閃くものがあった。
◇
この世界の暦は、1月や4月などの月という概念がなく、90日ごとに春夏秋冬が別けられており、春の13日とか冬の45日という呼び方をする。それ以外に、冬と春の間に、季節に属さない5日間が存在し、その5日は何もせずに休む。ちなみに、空に浮かぶ月は地球よりも小さいのが1つあるが、満ち欠けの周期はおそらく45日くらいで、暦や生活に影響はない。
感謝祭は、秋の30日に行われる1年で1番大きなお祭だ。畑はもちろん、森や川や海で採れた、口に入る全てのものに感謝する3日間のお祭りは、国の全ての村や町で行われ、その3日間は屋台が並び、大人も子供も楽しむ。
そして、この屋台がポイントだ。食べ物以外の屋台も出ており、素人の出店も可能だ。町や村の広場を中心に、皆が適当な敷物やござを敷いて好きなものを売る。子どもが街で拾ったものを売っていたりするくらいだから品質も何もあったものじゃないが、運が良ければ、ちょっとしたお宝を手に入れることもできる。俺が子どもの頃、初めてお小遣いをもらって買った魔石も感謝祭で手に入れたものだった。
…よし、作ろう。
翌日から、俺は冒険者活動を控えめにして、さっそく、もの作りの準備に入った。俺が作るのは、トレーディングカード…、異世界トレカだ!
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