10◆からまれイベント◆


「おう、なかなかいい武器と防具持ってるじゃねえか。それをよこせ。ほら、俺らが使ってやる」


 俺達に声をかけてきた3人のチンピラは、腰にナイフを差した、動きの素早そうなやつだった。ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている。


「ギルド内でのもめごとに、決まりはありますか?」


「殺しはなしだ。殺したら出禁だ。ギルドのものを壊すな、弁償させる」


 カウンターのおっさんがすかさず答える。


「センド兄、条件とかありますか?」


 俺は隣に立つセンドに声をかける。


「そうだね。リュード1人で。剣は抜かない。かわいそうだから、骨を折るのもなしにしてあげようか。あぁ、あれはもちろん無しだよ」


 あれというのは魔法のことだ。


「わかりました」


 俺とセンド兄の会話を聞いていたチンピラ達は、ナイフを抜いて腰を少し落とす。チンピラ達の目には殺意、額には青筋が浮かんでいた。


「坊ちゃんが舐めてんじゃねえぞ。もう、ただじゃすませねえ。ギルドの中で死ななければいいんだぜ。そして殺さなければ、何でもありだ」


 俺が数歩前に出ると、チンピラ達は3方向から取り囲んできた。そしてそのまま、俺にむけてナイフを突き出そうとしてきた。動きが手馴れているあたり、何度もこういうことをやっているのだろう。それが魔物相手か人相手かはわからないが。


 俺は右斜め後ろに向かって、後ろ向きでジャンプをする。突き出してくるナイフの位置は把握している。半身を捻って、ナイフを避けながら相手の腕と肘を取ると、そのまま反射でボグリと折ってしまった。


「あ…」


「うぎゃぁああああっ!」


「ご、ごめん!つ、ついっ!」


 腕をおさえながら転がるチンピラに俺は素直に謝った。残る2人のチンピラは、躊躇なく腕を折った俺を見て呆けていたが、すぐに意識を切り替えたようだ。


「てめぇ…」


 2人は1度俺から距離をとると、左右から、同時にナイフを振りながら、じりじりと間合いを詰めてくる。突きを止めて振りに変えたこと、その振り幅が小さいことを見ると、思っていた以上に実戦慣れしている。


 俺は右側のチンピラに体と足先を向けて、はっきりとわかるように一歩踏み出した…その足で地面を蹴って、左のチンピラに突っ込む。もちろんナイフの軌道もしっかりと確認している。突っ込まれたチンピラは俺の狙い通り、自分の方に来ないと、ほんの一瞬だけ意識を緩めてしまっていた。


「げふっ!」


 体当たりで吹っ飛ぶチンピラを放っておいて、俺は体を低くして、回転蹴りで最後のチンピラのすねを蹴る。ドダンと倒れたチンピラの喉をブーツでちょっとだけ強めに踏んで終わりだ。


「はい、リュード減点だね。父上に報告だ。次の稽古は厳しくなるだろうね」


「うぅ…」


 苦笑いを浮かべたセンドに俺は何も言えない。ミスしたのは確かだからだ。俺の冒険者デビューは定番とも言える流れで無事に終了した。ちなみに、どぶさらいの帰り道に、同じように他の冒険者に絡まれたが、今度はミスしなかった。





 冒険者活動は、その後も順調に進んだ。初日以降、2,3回絡まれたが、それ以降はちょっかいを出されることは無くなった。これは、俺の強さが冒険者達に認知されたという以上に、俺の家というか父親が関係している。


 センド兄も俺も、というかラ―モット家は全員容姿が整っている。父親のパスガンは金髪髭のナイスダンディ、その息子達もイケメン兄弟としてご近所では有名だ。特に長兄のアストと次兄のセンドだ。町の娘さんの噂に上がらない日はないと言われている。自分で言ってて恥ずかしいが、俺も顔は整っているほうで、これは両親に感謝しかない。


 初日にチンピラを撃退して以降「あの生意気そうな兄弟は何だ?面が良いのがさらにむかつく」と冒険者達の話題にあがったらしい。そしてイケメン兄弟の噂を知っていた冒険者の1人が「あれはラーモット家では…」といった瞬間に怖いもの知らずの冒険者達が震え上がったという。


 父親の強さは、俺の想像を遥かに越えていた。父親には『血風のパスガン』という二つ名まであった。父親が成人して間もない頃、他の騎士の従者として仕えていた時の話だそうだ。伝令として街道を移動していたとき、たまたま盗賊団30人と鉢合わせてしまったそうだ。襲ってきた盗賊団を父親は全員斬り殺した。道の真ん中で。血の霧が晴れた時、父親は息を粗くするくらいで、怪我1つしていなかったそうだ。その話を聞いたときは俺まで震えた。


 そんな父親は普段は騎士として領内を巡回し魔物が出たら斬り殺し…という生活をしている。そんな中で、父親の強さを目の当たりにし、時に助けられた冒険者も多いらしい。





 ということで、俺は最近、快適に過ごしている。カウンターのおっさんにも名前と顔を覚えてもらい、3ヵ月も経った今ではランクは星2つまで上がった。


 登録すれば星無し、紹介された仕事を10回ほどきちんと働けば星1まではすぐに上がる。その後、武器の有無をもって星2まで上がると、町の雑用仕事以外に、郊外の素材採取や、簡単な魔物退治の仕事もふられるようになる。


 星の数は3で中堅、4までいけば手練れ、5で最高ランクだ。星無しと星1、2が全体の7割を占め、その次に星3が2割、星4が残り1割。星5はいない。星5は複数のギルドで突出した成果を収めねばならないそうだ。剣と頭蓋骨の2枚のプレートの裏面にランクが上がるごとに星が刻印されていく。


 この町での冒険者期間は1年間。俺は当面の目標を星3になることと定めた。






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