7◆父親との約束◆
「冒険者か…」
父親の渋面の理由はわかる。この世界には魔物と呼ばれる人間に害をなす生き物がいる。父親も騎士として領内のいたる所で、町や街道、人を守っている。だが騎士や正規の兵士達だけではとても守りきれるものではない。そこを補佐するように動くのが冒険者だ。
ところが冒険者は、職にあぶれたものや、捨てられたもの、荒くれ者、元犯罪者(現役の場合もある)が多く、一般人からすると近寄りたくない人種だ。そして冒険者は死亡率がとても高い。ろくな装備もなく魔物に突っ込んでいく考えなしの人間が多いのだから当たり前だ。だが底辺の受け皿だからか、替えは幾らでもきくため冒険者というシステム自体が無くなることもなく、改善されることもない。
冒険者になる人間が一定数いる理由の1つに金がある。魔物を倒すことで得られる皮や骨、肉は、また魔物の生息域に育つ植物などは売れる。強運に恵まれてレアな素材を手に入れられれば、一攫千金も夢ではない。
息子が最底辺の、それも危険度が格段に高い仕事に就きたいと言っているのだ、父親が渋面になるのも無理はない。
「少し、考えさせてくれないかい。今日は君からいろいろな話を聞いた。整理をしたいし、アウラとも話をしないとならないからね」
「よろしくお願いします」
確かに母親も説得してもらわなければならないし、今押しても逆効果だと判断し俺は素直に頭を下げた。
◇
「リュード、父上が呼んでるよ。家族全員だ」
父親に呼び出されてから数日後、次兄のセンドが俺を呼びに来た。父の部屋に行くと、家族がソファーに座って俺を待っていた。
「リュード、君のことをアウラにアスト、センドにも話したよ。これから君にする提案に必要だったからだ」
「リュードも言えずにいることでつらかったのでしょう。でも、もう少し私達を信じてね。私達はあなたが心配なのよ」
正直つらいと思ったことはなかったが、心配をかけたの事実だ。母親の言うことはもっともだと思って反省をする。
「はい…。皆、黙っていてごめんなさい。」
「真夜中に、裏庭がビカビカ光っていたりしたからなぁ。さすがに隠せてなかったよ。リュード」
爽やかな笑顔で長兄のアストが言う。アストは今年15歳になり成人を迎えた。もう何年も父親との厳しい修行を重ねており、しばらくしたら父親ではない他の騎士の従者として仕えるために家を出る予定だ。
「リュード、その複合魔法?見せてよ!ずっと気になってたんだ!」
次兄のセンドにせかされる。センドは今年12歳となる。3年前から父親との修行を始めており、アストに何かあった時に騎士になるか、そうでなければ兵士となる予定だ。
俺は幾つかの複合魔法を見せ、皆はそれに驚きながらも、わいわいと盛り上がる。少しして父親が咳ばらいをして今日の本題に入った。
「さて、リュード。もともと君には、職人に弟子入りさせるか、跡継ぎのいない商家に修行へ出させようかと考えていた。君は何でもそつなくこなすし、1人くらい体を張る仕事に就かなくてもいいだろうって思っていたからね」
「はい」
「だけど、君の話を聞いた。だから私達家族も協力しようと思う」
「え、それでは…?」
「ああ。我が家では、本格的な戦う訓練、修行を始めるのは9歳からだ。2年早いが、君には教えることにする。修行は成人の1年前、14歳まで7年間休むことなく続ける。その間に、一言でも弱音を吐いたら冒険者になるのは諦めてもらう。何か違う方法で、君のやりたいことを成し遂げなさい。君ならそれでもできるだろう」
「はい」
「君がきちんと実力がついたと判断したら、14歳から1年間、この町で冒険者として活動してみなさい。その時はセンドと一緒に活動するんだ。15歳で成人を迎えたら君はラーモット家から出て好きに生きていい」
「わかりました」
こうして俺は親の協力を得て、次の一歩を踏み出すこととなった。それがどれだけつらいことかを、この時の俺はわかっていなかった。
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