5◆前世と志◆


 俺の前世について話しておきたい。俺の前世は日本人だった。名前や家族も思い出せないが、仕事関連のことだけは思い出せる。俺は前世で、おもちゃ屋だった。と言っても、お店でおもちゃを売るのではなく、自分で考えた企画や依頼のあったものを開発し、商品化する仕事だ。


 20歳すぎで、小さなおもちゃ企画会社に入った。10人ほどの小さな会社で、社長に企画立案やアイディアの出し方を教わり、専務に試作の作り方、商品化の工程を教わり、副社長にお金に関することや、一般常識を教わった。若者特有の、やたらと根拠のない自信を持った困ったちゃんだった俺に、皆は本当に根気よく教えてくれた。この会社は、面白そうであれば、おもちゃに拘らず、どんな案件でも請けていたため、実に多くのことを学ばせてもらった。


 幾つかのヒット商品の企画、開発を重ねていった会社は、順調に人を増やしていき、ゲーム開発にも事業を広げていった。イラストレーターに商品スケッチやキャラクターデザインを教わり、デザイナーにデザインを教わり、プログラマーにプログラムを教わり、ライターにシナリオを教わり、ゲームプランナーに仕様書を教わった。


 そのうち、会社のチームの1つが、携帯ペット育成トイ『たまごっぴ』を大手企業と共に作り上げ、これが一大ヒット、大ブームになった。会社の規模はさらに大きくなり、より多くの仕事にかかわることになった。


企画と開発以外に、生産も行うようになり、俺も中国や海外の工場にも入った。しばらくして、マネージャーになった俺は、テレビ番組と連動するおもちゃの開発にも関わった。テレビ番組も何本かヒットして、ますます会社は大きくなった。


 やがて、大きくなりすぎた会社は、幾つかの部門を小会社化することになった。俺にも小会社の取締役の内示が来ていたが断って退社した。20年以上ノンストップで常に激流の中にいたため少し疲れていた。


 その後、俺は小さなおもちゃ会社を起ち上げた。何でもやってきた経験を活かして、どんな仕事も受けた。売れなかったが本も書いたし、漫画も描いたし、講演もした。そこで前世の記憶は終わっている。


そう、俺はおもちゃ屋だった。


 かじったものも含めれば、おもちゃプランナー、ゲームプランナー、イベントプランナー、マネージャー、ディレクター、プロデューサー、デザイナー、イラストレーター、試作屋、イベントMC、シナリオライター、デバッカー、原型師、作家、漫画家だった。


 作った、関わった商品も多かった。トレーディングガード、トレーディングカードゲーム、カードゲーム、ボードゲーム、フィギュア、変形フィギュア、クッキングトイ、なりきり武器、女児玩具、子ども用パソコン、ぬいぐるみ、育成ぬいぐるみ、携帯ゲームソフト、パソコンゲーム、ぜんまい玩具、センサー玩具、携帯液晶ゲーム…あげるときりがない。


 おもちゃを作り続けて、人生を突っ走り続けたのが、前世の俺だった。





「企画は総合力。多くの経験や知識を組み合わせ、つなぎあわせることから、閃き、アイディアが生まれる。そしてそのアイディアをいかに実現していくかの道筋を自分で作れるなら、さらに強い」


 前世で講演を頼まれた時に、俺が言っていたセリフだ。


 俺は今、異世界にいる。魔法は素晴らしいものだった。6属性の複合魔法が使えるのは本当に俺にあっていた。閃いて、訓練し、修正して作り上げる。アイディアを実現できること、魔法を作りあげ、ブラッシュアップしていくことが楽しかった。


 俺の魔法は、この世界ではありえない、特別なものになっていると思う。魔法の専門職とあったことはないから絶対にそうだとは言い切れないが、魔法を発動する仕組み上、俺のような複合魔法を使える存在はほぼいないと思う。


 だが、俺の魔法は『少し』だ。蛇口のサイズが小さいため、組み合わせられても火力は出ない。熱風の小さい竜巻、ドライヤーはできても、炎の竜巻みたいな大勢の敵、あるいは強大な敵を倒す火力はないのだ。俺の複合魔法は、小技は利いても、チートと呼べるようなものではない。


 転生小説だとチート能力を手に入れた主人公は、ドラゴンを倒し、魔族を倒し、戦争に勝利し、ハーレムを作るのだろう。俺は戦争で積極的に人を殺したくはないし、強大なドラゴンと戦いたくないし、ハーレムも作りたくない。だから俺は自分が英雄や何かしらの主人公になる夢は持っていない。


 では、俺はこの世界で何をやるか。答えは決まっていた。俺はおもちゃを作るのだ。この世界で。前世で作ってきた数々のおもちゃを、俺の作りたいように、気持ちの昂るまま、楽しむために作る!


 …そのために、俺ができることを全てやろうと思う。



 俺は、異世界おもちゃ道を進む。


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