第7話
抗争の中を、裏路地を使ったことにより、奇跡的にも無傷で駆け抜け、警察局前にたどり着く。正面は本局に入らせないようにする白色のロボットと、中に突入しようとする警官がもみくちゃになっていた。
スルーするのは心苦しいが、彼らが争って気が付かないように、裏口からに侵入する。裏口から正面に回るが、受付にも、待合室にも、人の気配がない。
「アキ! アキ!」
そう叫んで、署内を探す。きっと、どこかにいるはずだ。すると、更衣室と書かれた部屋から何やらドンドンと音が聞こえる。音の響き方から、ロッカーをける音だと推測できた。警察手帳をスキャンし中に入ると、受付や、常勤の警察官たちが手足を縛られ、口にガムテープをされた状態で発見された。
「んー! んー!」
とりあえず一人のガムテープをはがし、事情を聴きながら手錠を外す。
「なんで閉じ込められてるんだ?! それに外は⁉ 何があった」
「っぷは! た、助かりました。警備AIロボが突然挙動がおかしくなって武器庫を襲撃して私たちをここに閉じ込めたんです。正常だったAIロボも取り押さえられて…え?外からも?ではたぶん同じところに閉じ込められてます。それとこのおかしくなる寸前に警察局に大規模ハッキングがされたので、多分それが原因です」
更衣室で自分のロッカーから、中に入っている制服に着替える。本職は警察局の巡査部長なので制服と装備一式がロッカーに入っていたのは、不幸中の幸いだろう。そこには、警察官が特別に許可されている拳銃もある。AIロボはかなり強力なパワーを持ち合わせているので、素手や警棒での抵抗は難しいだろう。
「ここの勤務官の解放は任せた。カウンターハッキングと、正常なAIロボも使えばまだこの騒動を止められるかもしれない」
そう言って更衣室を後にして、階段を急いで駆け上がる。勤務用携帯の端末には、こういう緊急事態が起きた時のため、にどこに人や物が集まっているかの判別ができるアプリが入っている。そこから、14階のコンピュータールームに反応があったため、急いで駆け上がった。
14階まで登り切り、息を整えながら、静かにドアを開ける。ここからは、何が起こるかわからない、拳銃の安全装置をそっと外し、静かに扉を閉じる。ゆっくりとクリアリングしながら近づき、コンピュータールームのある部屋への角に到達する。鏡を使って覗くと、そこには1体の警察局ロボが立っていた。やつは恐らく正常ではない、ハッキングされた方だろう。
バッと飛び出し、拳銃を構える。物音に反応し、瞬時にこちらを向いたAIロボの眉間に弾丸がめり込んだ。茶色いオイルをまき散らしながら、ガチャガチャ音を立てて倒れる。
これでも射撃大会は、1位をとっているため、これくらいは出来ないと。まだまだ腕は鈍ってないなと思いながら、部屋の扉に近づき2回、3回、1回ノックする。非常時のAIに救難信号を送るときの合図だ。さっきのロッカーをける回数もこれを繰り返していた。中からバタバタとキャスター付きの椅子が倒れる音が聞こえる。AIロボか、そうでなくとも何者かの反応があったため入ろうと手帳をスキャンしたが、ビープ音と共に拒否された。仕方がないので、拳銃を3発発砲し、扉の鍵を破壊した。
扉を開けると、そこには警察庁常勤AIロボや民間AIロボが、たくさん捕まえられていた。全員手錠で、手足を拘束されている。
「巡査部長。非常事態です、救助を要請します」
一人の常勤ロボが、ジタバタしながらそう言う。彼はここで長く働いている警察局の、勤務者のだれもが知る長寿AIだ。彼の手錠を外し、ほかのロッカーから拝借してきた予備の手錠の鍵を手渡しする。二人がかりで手錠を外していくと、一番奥についに彼女を見つけた。
「アキ!」
「ご主人様!」
あまりの再会の嬉しさにお互い、十数秒お互いを抱きしめる。その余韻に浸っていると、勤務用携帯から着信音が聞こえる。
「巡査部長。常勤の清水です、ハッキングの解除に成功しました。カウンターのハッキングで、今すぐ行けます。所長は…残念ながら行方不明で、ほかの者は暴徒鎮圧に向かったのであなたが最高指揮権を持っています。やりましょう! 私たちの番です!」
昨今はハッキングに対するさらなる相手へのハッキングを、カウンターと呼称している。意味はまんま反撃なのだが、警察局では基本カウンターはしてはいけない、ハッキングはファイアウォールで食い止めるのがセオリーだった。
「今すぐカウンターをしよう。とにかくAIロボを正常にしないと多勢に無勢だ」
常勤の清水は全員の注目の目線を確認し頷く。警察のハッキング者への反撃が始まった。
警察局の長寿ロボ、トジじいと、常勤AIに、作戦を説明する。
「今から禁じ手のカウンターを行う。民間AIを安全な場所、裏口から広場に避難させてくれ、僕はカウンター発動後に聞かなかった時のために、正面に出る」
作戦を聞いていたアキは会話に割り込む。
「ご主人様! まさか危険なことをしようとしていませんか⁉」
なだめるように、肩をもって説得する。
「大丈夫、カウンターは成功するさ、うちの職員は折り紙付きのプログラマーなんだ」
「それでも! 死ぬようなことはしないでください!」
アキの目の所からオイルが漏れる。ヒューマノイドタイプの構造は人間と限りなく近いので、あり得るがあり得ないことが起きている。これこそ、”なおこのプログラムはAIの安全を保障いたしかねます”の部分の事だった。
カウンターハッキング発動まで、もう時間がない。僕は、
「アキ」
俯いてオイル漏れしているアキが顔を上げる。その瞬間に、唇を合わせる。オイルのにおいと、味がした。驚きの表情で僕を見るアキに、ウィンクをしてコンピュータールームを飛び出した。
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