第2話
「ご主人様! ご主人様! 朝ですよ~!! ご飯もできてますよ!」
聞き慣れた機械音声、ではなくAI理論で素性を明かさない”隠者”の使う合成音声だった。実際の声と機械音声をミキサーして本人の声をごまかすのに使われがちだが、アキの声は限りなく亜希に近かった。
彼女の情報をイクスワンに入力するときに、亜希の写真や彼女の母からもらった映像を入力したので、そこから亜希が成長したらこういう声になるだろう。と、いう声を完璧に再現していた。アキは僕の顔を見て心配そうな顔をする。昨日までは確実にしない表情、声色で、
「大丈夫ですか…涙を流すなんて……何かしてしまいましたか?」
よく見ると、彼女の髪は栗色のショートになっていた。昨日のスリープの時まで、間違いなく黒髪のセミロングだったはずだ。亜希は地毛が若干茶色がかっていて、いじめっ子たちによくからかわれていた。成長したら、僕と同じ28歳くらいならば髪色は、きっときれいな栗色なんだろう。
「アキ、えっと、どうしようかな。あのさ、抱きついていい?」
アキは、そっと腕を伸ばし僕を包んだ。固い感触、ヒューマノイド型AIであることを再確認する。姿形は亜希に近づけどやはり、機械であるのだ。
「ありがとう、大丈夫」
彼女はにこりと微笑み、
「またいつでも言ってくださいね!」
明るい声で言いい家事にもどり、僕は考える。明らかにアキの発言と声色には、感情がこもっている。今まではネットにあるボイスロイド音声をインプットして、発話させていたところから一気に過去の亜希の成長した姿のように様変わりしてしまった。循環オイル(人間でいうところの血液)を500ml飲む彼女を見て、三度機械であることを実感する。
それでも今までしなかったけど、いつかはしようと思っていた一つの行動を実行するように決意した。が、それをするにはこの格好だと落ち着かない。なにせアキは、……なにも着ていないのだ。いやいや女性モデルのヒューマノイド型とはいえ、外に連れ出さないので何も着せていなかったのだ。
朝食を食べ終わってすぐ、大鏡をリビングに持ち出してコンセントを刺してPCと接続し、電源ボタンを押す。オンライン洋服屋”三ヶ嶋”のポップが3D で表示されて、PCから目を外しながらも、画面を操作しながらアキを呼ぶ。
「アキ~、リビングの大鏡の前に来てー」
すぐに返事が返ってくる。
「洗い物が丁度終わったのですぐ行きまーす!」
数秒後にPC画面に、入店のボタンが表示された。大鏡の前に人、またはヒューマノイド型アンドロイド、AI、等身大マネキンが立つとこのボタンが表示される。カーソルを合わせ、オンラインストアに入店する。入店対象を女性にしたため、女性物の服がズラッと表示される。下着はさすがに恥ずかしさが勝り、スルーすることになった。そもそもヒューマノイド型も循環オイルの交換はするが、体内で廃油を事前に入れておいた循環オイル缶に排出して捨てるため、下着は要らないだろうと思った。
上下をそろえるほどのファッションセンスを僕は持ち合わせていないので、ワンピースの項目をクリックし、いくつかピックアップする。大鏡にはピックアップされているワンピースが、アキの等身にあったサイズで、着ているかのように鏡に映る。
「ご主人様すごいですよ! 鏡に服を着たわたしが映ってます!」
所々に機械感を感じる語彙だが、興奮しているのが声色でわかる。
「その3つを買うから届いたら着てね」
そう言いつつ、家の中で着る用の服も購入する。これは完全に家用なので、でかでかと”台パン”と書かれたTシャツと、ピンク色の短パンを買った。
そもそもAIだからと言って、肌色の全裸のヒューマノイドを家の中で働かせてたのは少し申し訳なさを感じる。しかし、AIヒューマノイド、セミヒューマノイドに服を着せない方が一般的だ。友人の所のクロスケロッグツーワンも、服を着せない全裸の状態だった。
数日後、ドローン宅配”トンビ宅急”がベランダに荷物を投下する。最上階なので投下でいいが、2階や3階だとまだドローンが引っかかったりするらしい。届いた服はもちろんAKIに着てもらうわけだがそれで行く場所はただ一つ。目的地に向けて車のナビを設定してAKIと一緒に向かった。
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