第12話 戦いの鎮火

「・・・何をしてるんだ?」



その声が聞こえた時先程まで燃え上がっていた戦いは一瞬で終わった。


戦いを終わらせた救世主は・・・ライ兄だった。


先程まで燃えに燃えていた父様はライ兄の少し引いた様な声で鎮火されたようで、先程までの行動を思い出し少し恥じらっているようだ。ルカは・・・うん。精神的に疲れたのが顔に出ている。お疲れ様です。


ライ兄の呟きからなぜか誰も話さない時間が続く。

気まずさに耐えかねた私はとりあえずライ兄に声をかけることにした。



「えっとライ兄様、何故ここに?」



昨日、ライ兄は馬小屋にいた筈で今は明け方・・・昨日ライ兄は馬小屋に泊まった筈なのに何故か今ここに居る。ふと感じた疑問をライ兄にぶつけてみる。

するとライ兄は、はぁ・・・と大きなため息をつくと私を指差した。



「お前が、いきなり居なくなったらそりゃあ探すだろ?父さんもアリスを必死に探してたんだからな?」



ライ兄が呆れたように言う。そうだった。私誘拐されたんだった。

誘拐されていたと言う事を思いっきり忘れていた呑気過ぎる自分に対して自分の事ながら呆れてしまう。

それにしても、私が居なくなった時に必死に探してくれる今世の家族の優しさがとても胸にくる。


それと同時に、私は思ってしまった。この人達の家族として存在していた前世の記憶などを持たない、元の『アリステア』はもう存在しないだろう。もしかしたら、この人達が必死に探していたのは『私』ではなく『アリステア』と言う存在なのではないかと。そう考えると不思議と胸の奥がズキンと痛んだ気がした。



「・・・アリス?どうした?」



ライ兄に声をかけられ思わずビクッとしてしまった。

気がつけば下を向いていた顔を声の聞こえる上へと上げる・・・するとライ兄はとても心配そうに私を見ていた。

その顔は心から心配されているように感じられて少しこそばゆく感じた。



「うん。特になんでもない!」



にっこりとできる限りの笑みを浮かべると安心したようにライ兄は優しく微笑んで

「それならよかった。」と言ってくれた。


確かにこの人達が大切にしているのは『アリステア』と言う存在かもしれない。

けれども今はまだ考えないでこの人達、いや私の家族の優しさに甘えていよう。そう思った。



「で、気になってたんだが、こいつは?」



私との話が終わるとライ兄はずっと気になっていたらしくルカを指差しながら言った。

確かにライ兄からすれば謎の少年が自分の家に居るわけである気にならない筈がない。


するとルカは椅子から立ち上がるとライ兄の近くまで行くと、優雅な貴族らしさすら感じられる美しい礼をする。



「僕はルカ・リリアールと申します。アリス様と、ブロント子爵様のお誘いを受けティータイムをご一緒させて頂いております。」



ティータイム・・・確かに紅茶は出てるけど、よくそんな上手い言い方が出来るなぁと少しだけ尊敬してしまいそうだ。馬鹿正直に「アリスが誘拐されて僕が助けたので事情聴取受けてまーす」なんて言えないからね。


ライ兄の反応を見ようとチラリと見てみると、ライ兄はあまりいい印象を受けなかったのか少し眉間に皺が寄っている。一応父様の方も見てみると、こちらもまた何故か気に入らないと言う雰囲気を醸し出している。


何故だろうと私なりに考えているとライ兄が口を開いた。



「・・・アリス様?ルカ・リリアール。知ってか知らずか分からないが『アリス』は愛称だ。この意味が分かるか?」



ルカはそう言われた瞬間明らかに『やらかした』と軽い絶望すら見える顔になった。

父様はと言うとライ兄の言葉に頷くと黙ってルカの方をじっと見つめている。

理解している3人とは違い何が良くないのかわからない私は一人、答えを見つけるために自分の世界へと入って行った。

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