第10話 腹黒美少年との逃亡

美少年に脱出の手伝い(有料)を依頼すると彼は私を抱き上げドアの方・・・中年男性の方へ突っ走った。



「うわあああああああああ!」



この少年足が速い。あっという間に中年男性(小太り)の所につくと袖から針を取り出し、男の首にブスリと刺した。

すると男はふらふらし始めすぐにばたりと倒れてしまった。



「・・・殺った?」

「麻酔針だから多分殺っては居ない・・・と思うけど、わかんない。」

「ええっ・・・」

「て言うか君との契約には敵を殺すなとかなかったでしょ?脱出の手伝いをするって言う事だけ。」

「そうだけど・・・」



少年はそう言うと私を抱いたまま倒れた男の近くに行くと足で腹の辺りを軽く突くが男は目覚めない。



「よし!寝た!」



明るい声色尚且つ笑顔でそう言う少年に若干の恐怖を感じつつ、男に関しては自業自得と考える事にした。

人を誘拐して遊ぼうなどと考える奴だし、私も被害者ですしと心の中で言い訳をしながら。


そして少年はドアの外に出るとチラリと周りを見渡す。

そこは2階で私が見える限り廊下の奥と1階へ降りる階段の所にそれぞれ4人ずつ兵がいる様だった。


少年は立ち止まると袖の中をチラリと見るとぼそりと呟いた。



「・・・合計8匹かぁ、針1本足りないし、仕方ない一人は殺害用の毒針で・・・」



独り言のツッコミどころが多すぎる。匹は多分兵の事だろう。これは単純な間違えと考えることもできるとして・・・何より気になるのが・・・

仕方ないしで使おうとしている殺害用の毒針だ。

そしてどれだけ針持ってるんだよと内心つっこんでいると少年は早速兵を倒そうと再び走り出そうとしていた。



「あっあの、」

「ん?」

「できる限り殺害などは無しで・・・」

「・・・はぁ、わかった。」



雇い主の私に言われればそうせざるを得ないのだろう。


少し残念そうな顔をしながら袖に出しかけた針をしまった。

私のこの行動によって1人の兵士の命が守られたことに安心する。


殺れない事が残念だったのか少しむくれた顔は幼い少年らしく可愛らしい。お菓子が買ってもらえずこの表情をしたのなら可愛い少年だが、彼の場合は殺人・・・と考えた瞬間一気に心が無に戻った。



「目、閉じててね。」



少年から声をかけられ、急いでぎゅっと強く目を閉じる。

するとかなり近くからパリンッ!と大きなガラスが割れた様な音がした。


そしてそれと共に後ろから「侵入者だ!」「捕まえろ!」と複数人の声が聞こえる。

何が起こったのか目を開けたいが開けても大丈夫と言われるまで一応待とうとそのまま目を閉じておく。

そしてしばらく経ち・・・



「はい、もう開けて大丈夫。」



やっと声がかかりそうっと目を開ける・・・するとそこには綺麗な朝日が出ていた。



「わぁっ!綺麗!凄い!綺麗!」

「語彙力ないの?綺麗2回言ってるけど。」



どんなところでもこの毒舌は変わらないらしいが、クスリと笑った顔は美少年なだけあって絵になる。何より赤い髪の為朝日と綺麗に合わさってもう芸術の域だと思う。


ところででここは何処だろうかと思い周りを見ると私は絶句した。

そこは始めにいた子爵家の馬小屋の屋根の上だったからだ。

そして下を見るとどこか焦った様子のお父様と目が合ってしまった。



「アリス?!と、その少年は?」



明らかに逃げようとし始めた少年の服を私はにこりと微笑みながら強く掴む。



「アリス、その少年と一緒に下に来なさい。」



お父様はこの少年をも超える純粋な微笑みを浮かべながら、少年には最悪の言葉を優しく言ったのだった。

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