邂逅する者達


数日後、調査兵団がこの街に到着し調査が始まった。


しかしそこそこ大きい街だから、その周辺の調査となると簡単ではない。


数日も経てば、街の人間は元気に商売をするが、歩いている兵隊には日に日に疲れの色がうかがえる。


その日の販売を終え、荷物を片付けていると上司のユーリが子供たちを探していた。

遊びに行ったまま帰ってこないらしい。


夜も遅くなっていた。全員の頭の中に討伐されていない、サルの魔獣が浮かび上がってくる。


商団のみんなで子供探しが始まった。


俺は一度、宿泊施設に帰った。何かに使えるかもしれないと思い、高純度の魔石や他の魔石を急いでカバンに詰め込んで宿を飛び出した。


日は沈みかけていた。


街の中を探し回っているが全然見つけられない。

ノエルと合流する。

「タロウ!何かあったか!?」


「いや、まだだ。そっちは?」


「こっちもまだなにも・・・たくっアイツら、こんな時間まで何処をほっつき歩いているんだ。帰ってきたら説教してやる。私は他を当たる。お前も気をつけて探せよ。」


そう言ってものすごいスピードで走っていった。やっぱり優しいな。


さてこっちはこっちで探さないと・・・


子供はどこに行くだろうか?暗くなれば、帰ってくるはずだ。


ということは何らかの理由で帰ってこられなくなったということだ。この街に川や湖といった大きな水場は無い。


道が分からなくなって迷子になった?ここら辺で迷子になるとすれば未開拓の雑木林だろうか?


一応、街の中にある場所だが、木々が高く地面も未舗装だから誰も手を付けていないと聞いたことがある。

しかし雑木林は商団が普段販売をしている場所からかなり遠い場所にある。本当にこんな場所に来るのだろうか?


いや、可能性は捨てたくない。いないならいないで問題ないんだ。地図を取り出し、迷いそうな場所に目星をつけ、走り出す。


雑木林に到着し、さっそく調査を開始する。


「エリー、マイクいるかー ユーリさんが心配しているぞー」

大きな声で探し回っていた。しかし、これが、いけなかった。


日本に住んでいたこともあって平和ボケもあった。街の中は安全だと思い込んでいた。


ふと気配を感じ、後ろにいたサルの化け物に気づけたのは奇跡だった。


「あっ、あ・・・・・」


まともに声も上げられず、尻もちをつく。


サルはこの世の物とは思えない風貌をしていた。


2mはあろうかというほどに図体が大きく、口が頭のサイズに合っていないほど大きい。歯がむき出しの状態で左目からくすんだ魔石が飛び出しそのまま首の後ろまで貫くように生えていた。


右腕は異常なほど大きいのに、左腕は人間のように細いかと思えば、両足はかなりしっかりしていて逆さまに木からぶら下がっている。


また、サルとは思えないほど手足の指が鋭く硬質化しているように見えた。


奥歯がガチガチとなる。見えてしまったからだ。


サルの魔獣は人間の腕を食っていた。


腕に付着している、あの服は見たことがある。


クローネという炎の魔術師のものだ。魔術使いがやられた!?かりにも昔は帝国の軍隊にいた魔術使いだぞ!


逃げなきゃそう思い立とうしたけど、足に力が入らない。


ゴンッという鈍い音を立て、サルが地面におりてきた。

そして窪んだ眼と視線が合ったと思ったら、サルはこちらの心を見透かしたように口角が上がる。


次の瞬間、驚くべきスピードで右腕を振り上げ、殴りかかってきた。


何とか体に力を入れ、走り出す。


俺がいた場所には生物が殴ったとは思えない。大きさのクレーターができる。周辺の地面が揺れ木々がぶつかる。


まだ足にうまく力がはいらない。足がもつれ、腕をバタつかせながら、必死に林の奥に逃げていく。


ヤツは、また木の上にのぼりガサッガサッと木々を揺らしながら、ゆっくり追ってくる。

くそっ!、遊ばれているようだ。


恐怖に慣れてきたのかまともに走れるようになってきた。スピードが上がって、さらに奥まで進む。

かなり奥まで行くと、開けたところにでた。


しかし絶望は強まるばかりだった。


そこには誰かは分からないが、雑に食われたであろう数体の死体があったからだ。一部は完全に白骨化している。


ヤツはこの林を利用して人を追い込んで、かなりの数食っていた。

どうやら高い知性も持っているようだ。


そこまで理解して、上司のユーリに言われた‘魔獣にあったらまず逃げろ’ってことを思い出した。


しかし追い込んだと言わんばかりに魔獣は道を塞ぐように、今まで走ってきた道にいる。


もう覚悟を決めるしかない。


魔獣を倒して、兵隊を呼ぶ。逃げるために必死に頭を回す。


「お前は勝ったつもりかもしれねぇけどよ。こっちにだって備えがあんだよ」


子供達の捜索用に持ってきた魔石のうち、光の魔石の一種である閃光魔石と低級の火の魔石の一種である破裂魔石が数個ある。


どちらも名前の通り、強い光を発するものと、ただ破裂するように魔石が砕けるものだ。破裂すると言っても大した威力が発生するわけではない。


こんなものがどれ程通じるかわからないけど、脚止めぐらいにはなるだろう。


「タロウお兄ちゃん!」


悪い事というのは連なるものだ。それは今は一番聞きたくない期待のこもった声だった。


林の間から、こちらを覗く双子を、俺と魔獣が見ていた。

魔獣は、にやつき、俺は引きつる。


魔獣は子供たちに向かって走り出す。

「くそっ これでもくらえ!」


破裂魔石を猿の近くに投げつけると魔石が発動し破片が魔獣の顔に直撃する。傷をつけることはできなかったが動きを止めることはできた。


この隙に魔獣と子供たちの間に割って入る。


「エリー!マイク! 早く逃げろ。このまま真っすぐ進めば街に出られる。

街で兵隊にでっかいサルがいたと伝えてくれ。」


「でも、」


「いいから早くいけ!」


子供たちが走り出したことを確認すると、迫ってくる魔獣に閃光魔石をぶつけた。

すると強い光を発し、辺りを包む。


魔獣は驚いてひっくり返った。


よし!効いている。


子供達ではどれぐらい時間がかかるかわからないが、このまま兵隊が来るまで時間稼ぎができれば助かる。


サルの化け物は起き上がり俺をにらみつける。


今ので、相当警戒されたようだ。

しかしこれで子供たちが狙われることはなくなった。


俺は破裂魔石を手に取り、なるべくサルの顔に投げられるように構える。


どんなに皮膚が硬くたって目や臓器といった部分は、弱点であることに変わりがない。

ここを狙えば倒せなくても行動不能にはできるはずだ。しかし、こっちに魔石が隠してあったようにヤツにも奥の手があったのだ。


今まではサルらしいギャアギャアという声を上げていたのに、突然、何とも言い難い鈍い唸り声を上げ始めた。


驚いて視線を一瞬、離したことがいけなかった。


「かはっ・・・!」


気づいた時には体が宙に浮いていた。


息ができない、かなり吹き飛ばされた。何が起こったかわからない。


地面に打ち付けられ、起き上がれない。


視線だけを動かし魔獣を見ると、魔獣の両足が異常なほど膨れ上がっていた。


サルの魔獣はそこから何故かじっくりとこちらを、観察している。注意深いやつなのか?

だが、おかげで少しばかり回復することができた。


魔獣が腰を下ろすとものすごい行きおいで殴りかかってくる。


転がるようにその拳を避ける。

飛び散る破片が体中にぶつかり、体に鈍い衝撃と切り傷ができたことが分かった。


腹も痛いがそれ以上に左腕が痛む。さっき吹き飛ばされて落下したときに、骨を折ったかもしれない。


・・・俺はあまりにも弱い・・・これじゃあ兵隊が来るまで持ちそうにないな。


もう一発、飛び掛かってきた突進を、起き上がって避ける。


その時、腐り折れかかった大木が見えた。魔獣が殴った反動で折れかかったのだろう。ヤツは突進するとき、体を浮かして直進する。それを利用してこの木で押さえつけてやる!


俺は閃光魔石を使って目つぶしをした。魔獣もすぐにそれを見抜いて目を細める。


視線が外れた一瞬を狙って、力の限り走り、木の根元に倒れこんだ。同時に破裂魔石を大木のくぼみに落とす


サルの魔獣は突進の構えをした。


視線が合う。魔獣が飛び込んでくる。


タイミングを合わせるように破裂魔石を踏み込んだ。


魔石は破裂し周辺に飛び散る。いくつかの破片が踏み抜いた足に当たる。

痛みに耐えながら、折れていない腕と全身を使って、大木を押し込む。


大木は重力に従い、サルの化け物を頭から押さえつけた。

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