夢の努力


「魔術使いになる方法かぁ・・・」

まだ新しい記憶を呼び起こし、自分の姿を重ねてみる。


「なんだ 魔術使いでも目指してるのか? あれは才能がないとなれないよ。つまりお前には無理ってことだな。」


ノエルがおちょくりに来た。


街の中は安全だ。護衛隊は自由に行動することが許されているが、大半が販売の手伝いをしている。


ノエルは販売をやりたがらないので荷物運びと訓練ぐらいしかやることが無いのだろう。


「ノエルは剣の才能は有るけど、魔術の才能はなかったみたいだな。」


「なんだと!魔術だって練習すればできるさ。」


「なら俺も練習すればある程度はできるかもな。」


「言葉狩りをするな! それより最近ずっとその本読んでるけど、魔術は使えそうか?」


’どうせできないだろう’みたいな感じだった。まあ、実際使えないのだが。


「使えないよ。 

この本にも魔術使いになる方法は、まだ分かっていないと書かれている。魔術を使える者に聞き取り調査した結果が載ってるけど、軒並み『突然使えるようになった。』だとか『最初から使えた。』みたいにバラバラだな。」


「だろ!やっぱり才能がないと使えないのさ。あれは。」

なぜか嬉しそうにしていたノエルは、満足したのか上機嫌のまま何処かへ行ってしまった。

一人になり、再び視線を本に戻す。と言っても魔術使いになりそうなヒントは相変わらず載っていない。この魔術研究記録にも魔術使いになれるかどうかは不明となっている。


では魔術使いと他の魔石を使っている人の違いは何なのだろうか?


魔石に対する実験が数多く記載されていて、それらから魔石に魔術は入っていない。


魔道具使いも魔術使いも魔石は必要なのに、扱える自然現象の規模は大きく違う。


そもそも人はどうやって魔石の力をひきだしているのか・・・


「おーい 聞いているかー」「タロウくーん」

考え込んでいたらしい。ノエルにのぞき込まれていた。


どこかに行ったと思ったら、何か買ってきたらしい。その際、服が浮き上がり谷間が見えてしまった。思わず見てしまったが気づかれてないと思いたい。


その後、ノエルと少しばかり話していたら、販売の手伝いを頼まれたが、ノエルは一瞬で逃げていった。ああやって逃げ回っていたようだ。


一度気になると、ずっと考えてしまう性分が働いて、手伝い中も魔術使いになる方法をずっと考えていた。

やはり気になる。


その日の夜から光の魔石に対して魔術を使えないか試してみた。


魔石を光らすのではなく、特有の模様や図形を出せないか、もっとアニメや漫画みたいに光の球みたいなものを作れないかという実験だ。


しかしやみくもにやっても、全く何もできなかった。


数日たった頃、

その日の取引を終え荷物を片付けている途中で、商団の若い男性から妙な話を聞いた。


「最近、街の近くにサル型の魔獣が現れたらしい。たまたま近くにいた、凄腕の冒険者集団によって、討伐されたらしいが・・」


「サルですか? 魔獣はダンジョンの内部に多くいると聞いていたのですが、そういえば前に見た亜獣も中途半端なところにいましたね。」


「それなんだが、冒険者がよく集まる集会場に、酒の納品で行った時、その話でもちきりだったよ。なんでも未発見のダンジョンがあるとか無いとか、ここから一番近いダンジョンに強力な魔獣が現れたとか、何が本当かわからない噂ばかりだったな。」


「もし未発見のダンジョンなら今に限らず、いつでも魔獣を見かけているはずですよね?」

俺は単純な疑問を口に出す。


若い男性は分からないという手振りをした後、追加情報を教えてくれる。

「数日中に帝国から調査兵団が派兵されるらしい。それまでは街の外には出ないことだな。」


「サルの魔獣は討伐されたはずでは?」


「もう一匹いるかもしれないらしい。足跡が妙に多いんだとよ。」


「怖いですね。サルが元なら頭がよくなって街に入ってきたりして・・・」


「おいおいよせよ。 おっかなくて夜も出歩けねぇよ」


「いいじゃないですか、夜に散財せずに済みますよ。あの子にもばれずに済むじゃないですか」

彼はよく女遊びをしていたみたいだが、この街のとある娘に恋をしていることで有名なのだ。


「お前!どこでそれを知ったんだ。」


「みんな知ってますよ。」

若い男性は声にならない悲鳴を上げながら、逃げていった。


その日、宿泊施設の広間で団長による伝令があった。


「皆、知っての通り魔獣調査のために帝国から兵隊がやってくる。近くにある街は、ここしかない。

よって兵隊はこの街に駐留するだろう。本来なら移動の時期だが、今回はもう少し粘ってここで取引を行おうと思う。反対意見があるやつはいるか。」


副団長のタカハシ・ジョニーが質問した。

「この後の日程を考えると帝国に行き、その後、北の山脈を超えて王国に行くわけだが、冬に山脈を超えるのは至難の業だぞ。」


「それについては考えている。と言っても帝国に滞在する期間を短くして、冬になる前に山脈越えをするつもりだ。

今、帝国は新女帝がついてから少し落ち目で商売のうまみも減ってきたからな。」


副団長はその計画に納得したようだ。


そこからは実際に何を取引していくかという話になった。


俺は基本的に荷物持ちなので、これ以降の話は関係ないと思って、魔術の練習について考えていた。


いつの間にか話し合いは終了し、解散になった。


部屋に帰って一人になれば、魔術の研究に没頭しているが、全く結果は出ていなかった。


魔石に対する集中の仕方を変えたり、握り方だったりと色々変えて試してみたが、何の変化もなく光の球なんて微塵も可能性を感じなかった。


やはり魔術は才能的な生まれつきの要素なのか。やってきたことをまとめた記録用紙を見ても何も思いつかない、考えが煮詰まってしまったので、夜風にあたるべく宿泊施設の入り口に座っていた。


どこからともなく言い争いをする聞き覚えのある声がした。


声がする方へ近づいてみると以前に魔術を披露していた、クローネという男がいた。


葉巻を吸って貧乏ゆすりをしている。随分とイライラしているようだ。


もう一人は兵士だろうか?やけにガタイがいい。立派な紋様を鎧につけているあたり、おそらく帝国の先遣隊といったところだろうか?


「クローネさんお願いします。魔獣探索にその力を貸してください。」


「いやだね。魔獣の駆除はお前ら兵隊のすることだ。私の魔術は戦うために、あるのではない。」


よく見てみるとクローネの膝が笑っている。


本当は戦闘が怖いのだろう。まぁ確かにあのような生物を見れば恐怖心を持って、当たり前な感じもする。


兵士は続ける。


「最新の研究で、魔獣は魔石や魔術といった強い魔力を持った者に、惹かれてくることが分かっています。逆に魔術使いも魔獣に惹かれ、その大まかな位置を探ることができると言われています。

昔、帝国の魔導部隊にいた、あなたの力が必要なんです。」


「だから嫌なのだ。それはつまるところ、私は魔獣をおびき出すためのエサであろう。

私は獣の家畜になった覚えはない! 他をあたるのだな。」


そう言うとクローネは葉巻を投げ捨て、そそくさと、どこかへ消えてしまった。交渉に失敗した兵士はがっくりと肩を落とし、彼もまたどこかへ歩いて行った。


それにしても魔獣探索は難航しそうだな。


しかし、いろいろと新情報を耳にしてしまった。あのクローネは昔、軍隊にいたのか・・


それに魔獣と強い魔力を持つものはひかれあう。もしも魔獣と魔術使いが惹かれあう要素を解明できれば、魔石を利用してセンサーみたいなものが作れるかもしれない。


俺は工学部にいたときの感覚で考えていた。


そこに夜風が吹き、体が震えた。

風に乗って葉巻の煙が流れてくる。たばこのにおいは好かない。


少し涼みすぎたかもしれない。今日はもう帰って休もう。





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