魔術なるもの
戦いが終わった後、商団のみんなで亜獣を処理していた。
亜獣から突き出ていた、魔石を取り出し、更に運びやすいように加工する。魔獣まで魔石の影響を受けると魔石として使用はできないが、亜獣ならば体に付着している魔石は利用できるらしい。
「ノエルすごかったな!あれ」
俺は興奮しながらすっかり落ち着いたノエルに話しかける。
「ふん! どうだ恐れおののいたか!」
「ああ、感動したよ。人間ってあんなに動けるんだな。俺にはあんなことできそうにないよ。」
「そ、そうかそうか。まぁ今度からはもっと私の事を敬う事だな。」
ノエルは思ったよりも褒められたことに驚きたじろぐ。
俺は護衛たちの凄さをかみしめていた。同時に少しの、無力感を感じていた。いや、ずっと平和な世界で生きてきた人間に戦いなどできるわけがない事は自分がよくわかっている。
意味のないことをつらつらと考えながら、戦後処理を手伝い次の街へ再出発した。
亜獣というトラブルはあったものの、昼頃に交易都市オヤイモについた。変な名前の街だ。
ここは様々な商団が使う移動路の交差点に作られた街で、交易を盛んに行うことで発展してきた街らしい。
街の入り口には長い行列ができており、この街に立ち寄る人の多さを如実に表していた。
長い列を進んで、ようやく街に入る。
街はレンガ造りで、いたるところに出店が開かれている。
この世界の建物はレンガや土壁そして石等が主流でそんなに建築技術は進んでいないようだ。どうやら物の硬度を上げることができる魔石があるらしい。
団長の話によると、この商団も出店を開いて資金を得て次の移動に備えるらしい。
この商団が店を開く場所を、決めてさっそく準備をはじめる。
どうやら自由に店を開いていいみたいだ。
この街は商団にサービスを手厚くしている。そうやって街に、来る商団の数をを増やしているのだ。
他にも大規模な宿泊施設を提供しているのだ。・・・久しぶりのベッドだ。思えば寝床がごつごつしていて、こっちの世界に飛ばされてからは慣れるまで大変苦労したものだ。
次に酒に関係する塩辛い物ばかりだけど、食事が出る。
久しぶりのサービスに感激していると
「いらっしゃいませー あっお久しぶりです。お元気でしたか?」
「やあ 久しぶりだね。マリン 今回もよろしく頼むよ。」
団長は団の代表者として会話を始めた。
彼女はこの宿泊施設の看板娘らしい。亜麻色の髪でショートカットの明るそうな若い子だ。
「おや! そちらの方は初めての方だね。」
「どうも、はじめまして サトウ・タロウです。・・・」
軽く自己紹介を終えた後、施設を案内してもらった。
夜になり、団の皆で軽い宴会を開いた後借りた部屋に移動した。
今、目の前にはベッドがある。俺は何も考えずベットに飛び込んだ。次の日の朝は非常に快適だったとだけ言っておこう。
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーー
街に入ってから数日、商団はそれなりに稼いでいた。
周辺地域で大国同士の小競り合いがあったらしく、近く戦争が起こるのではないかと言われている。そのためか傭兵、避難民が多くいた。武器や消耗品が多く売られていた。
その中には魔石も含まれている。おかげで多くの魔石が取引されていた。冒険者によって
冒険者はダンジョンを攻略する。
この世界にはダンジョンと呼ばれる魔獣の巣窟がある。この巣窟には高純度の魔石が生成されているらしい。
冒険者たちはダンジョンを攻略し無害化して、魔石の採掘場にしているようだ。しかし、そんなことができる冒険者は多くなく、一発屋のような仕事で稼げない冒険者たちは、ダンジョン攻略で得た戦闘力や知識で傭兵として戦争に加担する人もいる。
そんなこんなで忙しい日々だが、俺は休みをもらっていた。
というより子供たちのお守りだ。今日は街に魔術使いが来ていた。
団の子供たちを連れて、この人の演舞を見学しに行くのだ。
ちなみに魔術使いとは魔石に関する階級の一つだ。
魔道具使い→魔術使い→魔法使いと役職が上がっていく。
上級になるほど数が少なくなり、より強力に物理現象を操ることができる。
魔法使いは世界に1~2人いるかいないかというぐらいらしい。
どのような魔石であっても扱うことができ、人智では考えられない物理現象を扱い、全力で能力を行使すれば天変地異を引き起こすともいわれている。
現在は所在が分からないず、もうすでに存在しないという人もいる。
逆に魔道具使いは意外と数が多い。
高純度の魔石を用いて特殊な道具や武具を製作し扱う人たちのことを指すそうで、資金力があればなれるそうだ。
中間の魔術使いは多くの魔石や高純度の魔石を、必要とせず
魔術と呼ばれる文字や模様を使うことで強力な物理現象を引き起こせるらしい。
なれるかどうかは完全に運で、国に数人いるぐらいだそうだ。そんな魔術使いで、大道芸をやっている人がこの街に来ているとのことだ。
一般的に階級が上なほど国の重要な役職に付くことができるのだが、なんで大道芸なんてやっているんだろう?
子供たちと共に広場にたどり着くと大きなベレー帽をかぶり、装飾の激しい服を着た男性がいた。
「お集りの皆さん。本日はこの炎の魔術使いクローネが皆様に驚きと感動を、お見せしましょう。」
一見すると胡散臭い人だったが炎の魔術と言うものは確かにすごかった。
子供たちは綺麗でダイナミックに動く炎に見とれていて、ものすごく楽しそうにしていた。時折強い爆発を見せ、
その後、クローネの周りをまわる炎はまるで生きているみたいだ。
よくよく観察してみる。クローネが魔石を握ると不思議な模様が魔石に表れて、魔石を握っている腕に巻き付く。
空いたもう片方の手で黒色の粉を空中に撒くと炎が沸き立つ。
何だろう、火薬だろうか?あれを元に炎を出しているみたいだ。
あれが魔術使い、魔石の純度によらず術と呼ばれる模様を使う者。
合計して10分ほどだろうか、演舞が終わるとクローネは額に汗をにじませながら両手を空へ掲げた。同時に広場から拍手が巻き起こった。
演舞を見終わった後、クローネはさっさといなくなってしまったが、子供たちは興奮して、ついていこうとしたので手を引きながら帰ってきた。
子供たちの興味はすぐに移り変わり、今度は出店に出ている物が欲しいと言い出す。もちろんそんなお金はないので無駄遣いせず帰り道を進む。
帰り道に魔石の販売を行っている店の前を通りかかった。
本来は何も要は無かったが、とある本が目に入った。
魔術研究記録という本だ。近くには魔石集という本もある。
「おじさん、この二つの本合わせていくら?」
「そうだな、そこの高純度魔石数個と同じぐらいだな。なんたって、その本は大変貴重な物だからな。なぜなら! あの王国魔法研究所からだされているからだ。」
店の店主は全てを言い終わった後、胸を張って両手を腰に当てる。ちなみに値段は数か月分の給料と同じだ。
「王国魔法研究所? そんなものがあるのか」
「なんだい 知らないのかい?ここから東に進んだところにあるのが帝国、それより北の方向に山を越えたところにあるのが王国だ。王国と帝国は魔石や魔法に対する研究で競争してて、そんな最新の情報は中々出回らない。だけどな、たま~にこうやって手に入るわ行けよ。だから高いのさ。」
俺は購入するか迷ったためチラッと中身を見せてもらったが、それだけで優良なものだと分かった。そして非常に高価だが、結局購入してしまった。
新しい高純度の魔石を買おうと思って貯金していたのだがやってしまった。更に半目になった双子の視線を感じ、普段は食べられない出店の食べ物で手を打ってもらった。
帰宅しホテルの一室でさっそく買った本を読み始める。
本の内容で、まず目についたのは魔石に関する記述だ。
金属の特徴がみられるとか、生物と親和性が高いとか様々なことが記載されている。
中でも面白かったのは魔石に雷を当ててみたという実験だ。ちょうど俺自身が気になっていることに近い気がする。
結果は何も起きなかったらしい。
この実験は魔術使いの謎を解決したくやったみたいだ。
魔術は石の中に魔術式みたいなものが保存されていて、人間からエネルギーのような’何か’を送っていると思ったみたいだ。
だから人よりも強い雷をあてれば自然と魔術式が出てくると考えたらしい。
詳細な結果として、計測はうまくできていないが雷を当てた魔石は光の魔石だったらしく、光らせてみると、いつもより強く発光した気がすると記載されている。
う~ん、流石に感覚的すぎるな。以外と粗末な結果も載っているし、だまされたか?
今の俺には確かめる方法がないな。 少し無力感を感じた。
本を閉じてベッドに倒れこむ。
こっちの世界に飛ばされて数日の事が、自然と浮き上がってきた。あれからだいぶ生活が安定している。ここ最近、ようやく余裕を持てるようになったと思う。
魔石の調査と共に、少しずつ元の世界に変える方法を探しているが、全く手掛かりはない。
この世界に魔術はあるみたいだけど魔王はいないらしい。
もちろん勇者もいないみたいだ。
俺はこの世界で何をして生きていくのだろう。
一人で悶々としているといつの間にか寝てしまっていた。ドアをたたかれる音で目が覚めた。
「サトウさーん。夕食の時間終わっちゃいますよー ごはん下げちゃいまよー」
わざわざ呼びに来てくれた看板娘であるマリンさんの声に、飛び起きて急いでご飯を食べに行くのであった。
ちょっといいことが無かったからと言って沈んでいる場合ではない、勢いよくご飯をかきこみ就寝した。
せっかく高い金を出して買ったのだ。少しでも知識をつけよう。
次の日から仕事の休憩中に買った本を読み進めていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます