第21話 最終話

川野晶はスマホを見つめていた。ここ数日何の着信もない。これを寂しいととるか、安心ととるか、晶にはわからない。

仕事は辞めた。引き止められるかと思ったが、あっさりと退職できて、逆に何かあるのではと勘繰ってしまう。

辞める際、守秘義務の契約を交わしたが、もはや思い出したくもない。全て忘れたい。次のことを考える余裕もなく、無になりたかったのだ。

辞めてから1ヶ月ほど経ったが、案外生きていけるものだ。仕事は選ばなければ無数にある。自分にやれることなんてたかが知れているかもしれないが、

食うに困らないよう仕事をしていきたい。

心療内科に定期的に通い、薬を適量を飲んでいる。病院に行くことに抵抗はあったが、これもリハビリだと思うと少し気が楽になる。

週に三日ほどアルバイトをしている。簡単な事務作業だ。こんなにも平和な職場があると驚いたが、きっとこれが普通なのだろう。

徐々に慣れていきたいと思う。

今日は休みだ。

特に予定はない。話したい相手がいるが、連絡が取れない。

家でゆっくりコーヒーを飲み、おにぎりを食べた。雨が降りそうだが、散歩に出かけた。

近所の公園を歩いていると、軽やかな足取りで走っている女性が晶を抜かした。

あの人。

いつの日か会話をしたことがある。曇天だが、後ろ姿から心まで健康であることが伝わってくる。輝いていた。

自分もいつか軽やかに走りたい。でも今はゆっくり歩いていこう。前進していることに変わりはないから。

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闇夜の錦 真辺 灯 @redroom

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