第14話 黒川圭子

 黒川圭子は部屋に戻ると、机に置いてあった紙の封筒の中身を取り出す。

 紙の履歴書なんて古風だわ。

 パラパラとめくり、付箋を貼る。一通り見たあと、電話をかける。

 用事を端的に伝え、「じゃ」と電話を切る。


 椅子にもたれて弟のことを考える。

 男の子って思っていたよりも繊細なのかもしれない。


 大人の男は何人も見てきたが、みんな腹に一物を抱えていた。

 下心を隠すための優しさだったり、プライドという言葉にごまかされた意地だったり、何かしらのフィルターがかかっている。

 あまり信用しすぎず適切な距離を取ろうと圭子は学んだ。

 

 しかし、10代の男は違うのか。

 健司がプリンを食べる姿を見て思った。ガサツなようで、実際何を考えているかわからない。でも無邪気にスイーツを食べる姿はかわいい。そこには他の思惑が潜んでいたりする感じでもない。

 弟が反抗期を迎えたらどうしようと思ってたが、今のところ壁を殴ったりする気配はない。「クソババア」とかも言ったことがない。

 私の気がつかないところでストレス抱えてるのだろうか。少し心配だが、多分大丈夫なのかな?ブラコンの自覚はあるが、きっと健司は大丈夫。


 3口くらいでプリンを完食したのには少し呆れた。せっかくデパ地下で並んで買ったやつなのに。圭子は負けずに2個目に手を伸ばした。健司はそれを見て「太るよ」と言ってきた。

「プリンは栄養満点だから大丈夫」

「それ風邪引いてる時に言うセリフだろ」

 こういう会話、できなくなったらお姉ちゃん寂しいな。美味しいものをいっぱい食べさせればいいかしら。でもこれからもずっと実家に居座るのもいかがなものか、と自分を棚に上げて心配する圭子だった。

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