第13話 黒川健司と黒川圭子
週末が待ち遠しい。試合の時とは全く違う感情だ。誘ってみたものの、正直何をしていいのかわからない。でも、2人で会えるだけでいい。それだけで幸せな気がする。黒川健司は思いもよらない初めての感情に戸惑っていた。
そういえばコーヒーなんてほとんど飲んだことがない。カフェってコーヒー飲むところだよな。先生の目の前で砂糖とミルクをたっぷり淹れるなんてガキっぽいかな。
キッチンに立ち、インスタントコーヒーの粉をマグカップに入れる。どのくらいがちょうどいいのかわからない。
沸騰したお湯を注ぐ。大人っぽい香りが広がる。胸が躍る。一口飲んでみる。「あちっ」熱さと苦味が舌を刺激する。
まずい。これを好き好んで飲んでいる人の気持ちがわからない。
「あれ、コーヒーなんて珍しいじゃん」風呂上がりの姉が興味津々でのぞいてきた。
「ちょっとね」とカッコつけて二口目を飲んでみる。やはりまずい。「苦いだけなのに、なんで飲むの? 」
「お子ちゃまねえ」
「まずいじゃん」
「スイーツと一緒に飲むと、最高なのよ。無理しないでカフェオレとかにしとけば」
「いやだよ。ガキじゃん」
「ませちゃって!じゃあこれ食べなさい」と姉が冷蔵庫からプリンを出した。
「え、いいの? 」
「いいわよ。1個300円の味を堪能しなさい」
「太っ腹!サンキュー」健司はプリンを頬張る。スーパーのプリンよりカラメルがほろ苦いが、美味しい。これだったらブラックコーヒーも飲めるかもしれない。
そんな弟を、ニヤニヤしながら見守る姉だった。
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