第8話 和田祥平と川野晶

 和田祥平はうちわで首筋を仰ぎながら、テストや保護者への連絡について考えを巡らせていた。少々寝不足だが、生徒の顔を思い浮かべていると疲労感が消える。

 コンビニ弁当で昼食を済ませると、部活の時間になった。体育館に向かうとすでに部員たちがアップを始めている。彼らがバレーに打ち込む姿を見るのが好きだ。


 部活が終わり、帰宅してシャワーを浴びる。いつもの癖で部屋着に着替えてしまった。そうだ。これから合コンか。準備しなきゃなと思いながらもベッドに横になる。目を閉じると、川野昌の顔が浮かぶ。「祥平と話すの、楽しみにしてるよ」とメールが来たのを思い出す。よし、行くか! 起き上がり、クローゼットの奥からシャツを取り出した。


 店には集合時間ちょうどに到着した。すでに幹事の道岡雄介、川野昌、他に道岡の友人だと言う男性2人が席についていた。道岡は、祥平を見ると手を振ってきた。川野もこちらに目を向ける。祥平はその視線に少し高揚した。

 道岡が「間に合ったな!祥平はここ座って」と言う。道岡、男性2人、そして祥平と川野の順に座る。

 祥平は「雄介が真ん中の方がよくないか?」と言ったが「幹事は端っこって決まってんだよ」とあしらわれた。

 

 10分後、女性陣が到着した。お決まりの、誰がどこに座るか相談、お互いの自己紹介を済ませ、なんとなく自由に話す時間となった。5人と5人なので、かなりにぎやかになった。主に道岡と道岡が連れてきた男性陣2人が盛り上がっている。案の定、女性陣の視線が川野に集中したが、川野は適度に相槌を打つ程度で、さほど話さない。祥平も仕事の疲労とにぎやかな雰囲気で話す気力がなかなか湧かなかった。


 なんとなく周囲が盛り上がり、川野と祥平が二人きりで話す形になっていた。

「昌が社長秘書なんて意外だな」

「そうか? 祥平は前より教師らしくなったな」昌が一瞬祥平と目を合わせ、すぐにそらす。学生のころから変わらない。「祥平なら生徒から好かれそうだな」

「そうだといいなあ。でも楽しいよ。やりがいもある」祥平はほほ笑む。

「やりがいか。いいな。祥平、生き生きしてる」昌が下を向く。長いまつ毛が艶っぽい。形のいい唇は薄いピンク色で、女性陣の視線を集めるのも無理はない。それとは裏腹に、どことなく気落ちしている昌の様子が気になった。

 あまり深い追いするのも気が引けたので、学生時代の思い出や担当しているクラスの生徒の話をしたりした。川野は少し興味を持ったようで、たまに笑いながら、うなずいていた。

 

 一次会が終わった。祥平と川野以外のメンバーはすっかり打ち解けたようで、次の店を探している。祥平と川野はやんわりと断り、2人で駅へと向かう。


「昌、お前大丈夫か? 」

「ん?なにが? 」川野が祥平の顔を見る。

 和田は川野の腕に触れる。

「少し、疲れてそうでさ。心配なんだ」

 川野が、目をそらさない。

「うん。少し疲れてるかも」

「そうか。あまり無理するなよ。俺でよかったら、頼ってくれよ」

「ありがとう」川野は微笑み、祥平の腕をぽんぽんとたたく。そのまま駅に向かおうとする。祥平はしばらく呆然としたが、気を取り直して川野を追いかけた。


「本当に、いつでも連絡していいからな」

「祥平は熱血教師だなあ」川野が笑う。

 少し元気になったようで、祥平は安心した。


 同じ電車に乗り、川野が先に降りた。祥平は先ほどのやり取りを思い出し、1人赤面する。確かに熱くなってしまったかもしれない。


「でもやっぱり、笑顔かわいかったな」


 明日は休み。何しよう。正直、川野と落ち着いて会いたい。でも連日で会うってしつこいかな。うーん。考え事をしていたら、最寄りの駅に到着していた。祥平は慌てて降りた。

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