第4話 和田祥平と黒川健司
和田祥平の服装はいつも白いポロシャツと紺のジャージだ。もちろんポロシャツの裾は出さない。生徒はよく観察しているので、髪型にも体臭も気を付けなければならない。昨日残業で作成した小テストを持って、職員室を出た。
廊下で異性同士、同性同士、距離が近めで会話しているのをよく見かけるようになった。カップルか友達かどうかはわからないが、仲が良さそうでほほえましい。祥平が高校生のときは冷やかされることが嫌で、ある程度距離を取っていた。今思うと後悔しかない。堂々としていればよかった。
1年D組の教室に着く。生徒たちはいつもテンションが高い。エネルギーに圧倒されることはよくあるが、このクラスの担当になれて本当に良かったと思う。
扉を開けると、何人かが祥平を見る。
「先生、もっとオシャレしなよって言ったじゃーん」早速茶々が入る。手を振ってくる生徒もいる。寝ている生徒もいる。
「はーい。みんな席ついて」今日の小テストはサプライズだ。みんなどんな顔するかな。残念がる顔を期待しながら今日も始まる。
昼休み、職員室でスマホを見ると、メールが何件か来ていた。雄介から今週末の心得のようなものが来た。 まだ火曜日なのに、気が早いのは昔からだな。
「間違ってもポロシャツとジャージで来るなよ。遅れてもいいから着替えて来いよ」
なるほど。あまり考えてなかった。汗だくだろうから、一回帰宅して着替えて行こう。川野昌からもメールが来ていた。
「雄介には言えないけど、既に行きたくない。どうしよう」社交場が苦手な昌らしい。最初は参加すると聞いて、驚いた。基本的に慣れ親しんだメンバーだけの集まりにしか参加しないので、心境の変化でもあったか。独り身が長いから、そろそろ刺激が欲しくなった祥平と同じ感じだろうか。
「行こうぜ。つまらなかったら、俺とだべってればいいし」と返信した。と言っても、昌は女子からモテるので放っておかれないだろう。雄介がそれを期待しているのも伝わってくる。そういえば、雄介は前の彼女と別れたのだろうか。合コンを提案してくるなんて久しぶりだ。
午後の授業終え、小テストの採点と明日の授業の準備をしたかったが、すぐ部活の時間になってしまった。祥平自身にバレーボールの経験はないので、外部からコーチに指導をお願いしている。祥平はある程度のルールは学んだが、生徒の様子を見守ることしかできない。
体育館に向かっている途中、「和田先生」と声をかけらた。振り向くと1年D組の黒川健司が立っている。
「おう。黒川、これから練習か」健司は野球ユニフォームに着替えていた。日焼けしており、うっすら汗をかいている。この炎天下で練習はきつかろう。
「さっきの小テスト、ひどいっすよ。急だもん」
「はは。ごめんごめん。でもちゃんと授業聞いてたらわかる内容だぞ」
「そうかもしれないけどさー」
グラウンドから健司を呼ぶ声がする。
「じゃあ、熱中症に気をつけてな」
「うん。あ、先生」健司が祥平に近寄る。「今度遊びにいこーぜ」
「何言ってんだ。先生をからかうんじゃない。じゃあな」祥平は笑って体育館に行った。健司は祥平の後ろ姿をしばらく見つめ、グラウンドへと走っていった。
部活が終わり、しばらく職員室で仕事をしていた。先ほど健司に遊びに誘われたのは素直にうれしかった。でも教師としては断らざるを得ない。
昌からメールが来ていた。
「祥平と話すの、楽しみにしてるよ」
お互いよく話す方ではないが、居心地は良かった。もっと一緒にいたいと思った。でも大学卒業後、仕事に没頭していくうちに会う頻度も減っていった。先日の飲み会で会ったときは疲れている様子だった。今は大丈夫だろうか。
気が付くと、職員室には誰もいなかった。そろそろ文化祭の準備も始まるし、また忙しくなるだろう。今日はもう切り上げよう。
帰宅するとすぐにクーラーをつけ、麦茶をグラス一杯飲んだ。今週末に着る服を思い浮かべながらシャワーを浴び、すぐベッドに横になる。メールの着信音が聞こえたが、そのまま眠りについた。
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