物語(ストーリー)ではなく、「物語り」の基盤が変革される歓びに酔う小説

個人的ですが、筒井康隆氏の短編「乗越駅の刑罰」の読後感に似たものを感じました。目の前の日常風景が歪んだような、常識を揺さぶられるような、今までの知識・固定観念が一気に陳腐化するような、足元がフワフワするような。…奇しくも主人公が小説家という共通点はありますが、「乗越駅~」は過去と感情と因習、「AIのための~」は未来と理性と「ナニカ」(まだ未完ですから「分かりません」)。深い感銘を受けたのらふくろう先生の前著『予言の経済学』でも感じましたが、圧倒的な情報量と新しい概念・専門知識、その及ぼす影響への深い洞察で読者を濁流(非日常)に押し流しつつ、時折岸辺(ほのぼの日常)に打ち上げさせて一息つかせる采配が「読書に酔う」という没入感を久々に感じさせてくれました。
「いつ読み返しても傑作・感動!」なんて小説・作品には出会ったことはありませんが、私の人生の「一期一会」のタイミングで、このカクヨム作品を読めて没入して揺さぶられて酔いしれて歓喜した体験を得られたことを感謝し、その「一瞬」の影響が今後私の全ての読書行為に波及することを確信します。