第253話 春風vs煌良3 燃え上がる流星


 煌良が大技を放とうとして矛に魔力を集めているのに対し、春風は静かに「居合い切り」の構えをとった。


 その姿を見て、


 「な、なあ、って……」


 「ああ、間違いない。ウォーレン大隊長を破った『あの時』と同じ構えだ」


 「何!? アレがか!?」


 アデルとアリシアの話に割って入るように、ギルバートは2人を問い詰めた。


 アリシアは答える。


 「そうです陛下。彼はあの技で、ウォーレン大隊長の最強技『聖光轟雷斬』を撃ち破り、同時に『聖剣スパークル』を真っ二つにしたのです」


 「マジかよ、そりゃすげぇな」


 アリシアの言葉に、ギルバートはタラリと冷や汗を流した。


 するとそこへ、


 「あの、父上」


 と、ギルバートの側に立っていたオズワルドが声をかけてきた。


 「ん? どうしたオズ?」


 振り向いたギルバートがそう尋ねると、


 「春風、つい先程『全スキル、オフ』と呟いていましたので、調べて見たのですが……」


 オズワルドの言葉を聞いて、その場にいる全員が、


 『……え?』


 と頭上に「?」を浮かべると、


 「春風のスキルは今、全て使状態になっています」


 『……ハァッ!?』


 その瞬間、全員がタラリと冷や汗を流した。


 するとそこへ、


 「あ、そういえば!」


 と、冬夜が何かを思い出した。


 「え、どしたのフユッち、何か心当たりがあるの!?」


 恵樹は慌てて冬夜に詰め寄ると、


 「春風、ついこの間、持ってるスキルを『オン』と『オフ』に事が出来るようになったって言ってたな」


 と、なんとも緊張感のない口調でそう答えた。


 「お、『オン』と『オフ』? それって、自分の意思でスキルを発動出来なくする事が可能になったって事?」


 「うん、そう」


 「今ハルッち、『全スキル』って言ってたよね。という事は、今のハルッちは全てのスキルが使えなず、スキルからの恩恵も受けてないって事だよね?」


 「そうなるね」


 「……じゃあ、今のハルッちはそんな状態で、力石君のあの大技(?)に挑もうとしてるって事?」


 「うん」


 恵樹と冬夜のそんなやり取りから数秒後、


 『ちょっと待てぇえええええええっ!』


 2人を除いた全員の突っ込みが響き渡った。


 一方、大技(?)の準備をしている煌良はというと、


 (フ、『スキルなしでの居合い切り』か。随分とふざけた事をしてくれる。なのに……)


 煌良は居合い切りの構えをとったまま動かない春風を見て、


 (何故だ! 何故奴に勝てるイメージが浮かばないんだ!?)


 と、心の中で叫んだ。


 そう実は春風が構えをとった瞬間、どういう訳か煌良の脳裏に春風に敗北するイメージのようなものが浮かび上がったのだ。そしてそれは、煌良が技の準備をしている最中でも、そのイメージが消える事はなく、寧ろ、よりはっきりと浮かび上がるようになっていた。


 (ぐ! 弱気になるな俺! この俺が出来る最大の技で、奴に勝つんだ!)


 心の中で再びそう叫ぶと、煌良は矛に纏わせた魔力を変化させた。それは、まさに激しく激しく燃え盛る「紅蓮の炎」のようだった。


 その後、


 「良し、準備が終わった! いくぞ、幸村ぁっ!」


 「……来なよ、力石君」


 煌良は春風に向かって、その「紅蓮の炎」を纏わせた矛による技を放った。


 「槍技、『紅蓮大流星』!」


 放たれたそれは、少し前に放った「流星三連」とは違って、まさに「炎を纏った大きな流れ星」だった。


 その流れ星の如き真っ赤な「突き」の波動が春風に向かって襲いかかる。


 だがそれでも、


 「……」


 春風は落ち着いた表情で、構えを解かずその場から動こうとしなかった。


 (は、ハル兄さん!)


 そんな春風を見て、ルーシーが何かをしようとすると、


 「駄目よ、ルーシーちゃん」


 と、凛依冴がルーシーの肩に手を置いた。


 「し、師匠さん、で、でも!」


 駄目と言われて戸惑うルーシー。そんなルーシーに、凛依冴は優しく言う。


 「大丈夫。春風なら、絶対に負けない。だから、あの子を信じて」


 その瞬間、凛依冴にそう言われたルーシーは、それまでの焦りが消えて、何処か落ち着きを取り戻した表情になった。


 そしてルーシーは春風に向き直ったが、その一方で、煌良が放った炎の流れ星は、春風に近づきつつあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る