第252話 春風vs煌良2 決着の時、迫る


 学、麗生が敗れ、煌良が春風と激しい戦いを繰り広げている最中、


 「急ぎなさい! 急ぐのです!」


 と、五神教会教主モーゼスは、配下の信者達に騎士達の回復をさせていた。


 ラルフを除く騎士達は皆、春風が放った気迫に吹き飛ばされ、そのあまりの衝撃に肉体だけでなく精神にもダメージを受けていた。


 (く! おのれ、幸村春風! 忌々しい悪魔め!)


 騎士達が回復していく中で、モーゼスはキッと煌良と戦っている春風を睨みつけた。


 すると、


 「教主様、全員回復が完了しました!」


 と、信者の1人からそう報告を受けて、モーゼスは明るい笑顔になって、


 「おお、そうですか! では早速……」


 と、騎士達に春風を討つよう命令しようとした。


 するとその時、


 「モーゼス教主殿」


 「む?」


 不意に自身を呼ぶ声がしたので、モーゼスは声がした方向に視線を向けると、そこにはラルフがいた。


 「お、おおどうしたのですラルフ殿? もしかして、あなたも勇者煌良様の加勢に行くのですか?」


 モーゼスはラルフにそう尋ねると、ラルフは背中に背負った槍を手にとって、それを地面に突き刺した。


 「ヒッ! な、何のつもりですかラルフ殿!?」


 突然の事に驚いたモーゼスが、再びラルフにそう尋ねると、


 「申し訳ないが、2人の戦いの邪魔をしないで頂きたい」


 と、ラルフは真っ直ぐモーゼスを見てそう答えた。


 「何を言うのですかラルフ殿! あなたの教え子である学様と麗生様が倒されたのですよ!? ならば、ここはせめて残された煌良様に加勢して、あの男を倒すべきではありませんか!?」


 「それは違うぞ、モーゼス教主殿。勝負には負けたが、あの2人は正々堂々と戦った。そして今、煌良もまた同じように、自身の誇りをかけて戦っている。故に、何人たりとも、その戦いを邪魔する事は、たとえ教主であろうと許さん!」


 何処か焦っているかのような表情でそう言い放つモーゼスに対し、ラルフは落ち着いた口調でそう返した。そんなラルフを見て、モーゼスは「ぐぬぬ」と唸りながら、


 「こ、このまま、待機です」


 と、騎士達に向かって命令した。


 (くぅ! 目の前に倒すべき『異端者』がいるのにぃ!)


 モーゼスは春風を睨みつけながら、心の中でそう叫んだ。


 一方、未だに決着がつかないでいる春風と煌良はというと、


 「……フ。『ユニークだから、アリ』か、随分とふざけた事を言ってくれるな」


 「俺はいたって真面目なんだけどなぁ」


 春風の渾身の「メガトン・ブレイカー」を避けたが、それでも立っているのがやっとな状態の煌良。


 だが、すぐに煌良はニヤリと笑って、


 「だが、今の一撃で、流石のお前でもかなり消耗したんじゃないか?」


 と尋ねてきたので、春風は「アハハ」と頬を引き攣らせると、


 「まぁ、結構疲れてはいるね。うん」


 と、いかにも「疲れてます」といった態度でそう答えた。


 すると、それまでニヤリと笑っていた煌良は、すぐに真面目な表情になって、


 「認めよう幸村、お前の『強さ』を。だから……」


 寄りかかっていた矛を地面から引き抜き、構えた。


 「次の一撃で、決める!」


 そう言うと、煌良は矛に魔力を纏わせた。それは、春風の彼岸花と同じ真紅の魔力で、かなりの量が矛に集まっていた。


 それを見て、「大技」が来ると理解した春風の仲間達は、


 「お、オイまさか、力石の奴!」


 「うん! 明らかに大っきい技を出す気だよね!?」


 と慌てふためくが、


 「だーから、お前ら落ち着けっての」


 と、ギルバートに言われてしまい、仲間達は「で、でも」と何か言おうとしたが、


 「お! 春風も何かする気だぞ!」


 と言うギルバートの言葉を聞いて、仲間達は「え?」と一斉に春風を見た。


 周囲の人達に視線を向けられた春風は、


 (……やっぱここは、しかねぇよな)


 と、心の中で呟くと、タクティカル・アタッチメントを外し、彼岸花を鞘に納めて、大きく深呼吸し、静かに両目を閉じると、とある「構え」をとり、


 「……


 と、小さく呟いた。


 『……え?』


 その「構え」を見て、春風の仲間達はそう声をもらした。


 それは、日本人なら(多分)誰もが知っている「構え」で、アリシア達もその「構え」を見たことがあった。


 春風が煌良に向かってとった「構え」、それは、


 「……い、『居合い切り』?」


 居合い切りの「構え」だった。

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