第251話 春風vs煌良


 学に続いて、麗生も負けた。


 煌良は倒された2人を見た後、春風向き直って、


 「……どうやら残ったのは、俺だけになったな」


 と、落ち着いた口調で言った。


 春風はそんな煌良を見て、


 「そうみたいだね。で、どうする? このまま降参するかい?」


 と尋ねると、煌良は首を横に振るって、


 「まさか。俺がそんなことをすると思ってるのか?」


 と持っている矛を構え直しながら尋ね返した。


 それを見て春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、


 「ですよねぇ」


 と小さく呟いて、持っている彼岸花を構え直した。


 その後、2人はお互い睨み合うと、手にした武器の打ち合いを始めた。


 最初は長いリーチを持つ矛を操る煌良が有利に進んでいたが、時が経つにつれて慣れてきたのか、春風は何度も矛による攻撃をすり抜けて煌良の懐に飛び込み、彼岸花による攻撃に加えて時折パンチやキックを浴びせた。


 しかし、煌良も負けずに素早く矛を持ち替えたり、春風と同じように体術を駆使して春風の攻撃をガードしつつ反撃した。


 両者が一歩も譲らない攻防を繰り広げている中、


 「な、なぁオイ、アイツらどんどん激しくなってねぇか?」


 「う、うん。コレ、止めた方が良いんじゃない?」


 と、鉄雄と美羽がたらりと冷や汗を流しながらそう話していると、


 「やめておけ。下手に突っ込んだらこっちが危ねぇ」


 と、ギルバートが「待った」をかけた。


 「で、ですが陛下……」


 「それに、コイツは『男』と『男』の大事な戦いだ。手を出すことは俺が許さねぇ。わかったら、黙って見てな」


 ギルバートにそう言われると、仲間達は黙って春風と煌良の戦いを見守ることにした。そして戦いを終えた水音と歩夢も、同じように戦いを見守ることにした。


 周囲の人達に見守られる一方で、激しい戦いを繰り広げている煌良は、


 (く、何故だ。俺がコレだけ攻撃しているのに、何故コイツはこうも食らいつくんだ!?)


 全く一歩も引かずに攻撃を繰り出す春風に、次第に苛立っていた。


 (だったら……!)


 煌良は春風の攻撃を矛で払うと、春風から距離をとった。


 「……!」


 煌良のその行動に「何か」を察した春風は、すぐに煌良に近づこうとすると、


 「槍技、『流星三連』!」


 その前に、煌良は春風に向かって技を放った。


 矛より放たれたのは、青白く輝く3つに分かれた「突き」の波動だった。


 3つの波動が、春風に向かって襲い掛かる。


 普通なら、ここで一旦止まってその攻撃を避けるか、こちらも攻撃を繰り出してその波動を防ぐだろう。


 しかし、春風は止まらなかった。


 攻撃が来るとわかっても、春風は煌良に向かって進むのをやめなかった。


 「は、ハルゥ!」


 と、リアナが悲鳴をあげると、春風は襲ってくる波動に向かって左腕を差し出した。


 次の瞬間、春風の左腕のアガートラームMkーⅡが輝き、大きくなった。


 タクティカル・アタッチメントを装着したのだ。


 「アブゾーブ」


 春風はそう唱えて、煌良が繰り出した波動を吸収した。


 その後、


 (力石君の技のエネルギー、プラス俺自身の魔力、


 春風は、吸収した煌良の技のエネルギーと、自身の魔力を、彼岸花に集めた。そして、そこに彼岸花の魔力を融合させた。


 その結果、生み出されたのは、大きなハンマーの形をした真紅のエネルギーだった。


 「くらえ、『メガトン・ブレイカー』ッ!」


 春風はそう叫ぶと、その大きなハンマーの形をしたエネルギーを、煌良に向かって振り下ろした。


 (ま、マズイ!)


 「危険」を感じた煌良は、間一髪のところでそれを避けた。


 だが、ドォンという轟音と共に発生した衝撃波を受けて、煌良は吹っ飛ばされた。


 「グォオッ!」


 煌良は飛ばされないように矛を地面に突き立てた。


 やがて衝撃波が止むと、煌良は矛を握ったまま着地した。


 しかし、ダメージが大きかったのか、煌良は立っているのがやっとの状態だった。


 その状態のまま、煌良は春風を睨んで口を開く。


 「……オイ、幸村」


 「なぁに?」


 「お前、確か『賢者』だったよな?」


 「いやいや、賢者は賢者でも、半人前の『半熟賢者』ですが」


 「確か、『賢者』は創作物の中じゃあ、バリバリの後衛職の筈だろ?」


 「スルーするなよ。でもまぁ、確かにそうだね」


 「それなのに、これ程の接近戦が出来るなんて、お前、本当に『賢者』なのか?」


 煌良のその質問に、春風は少しの間「うーん」と考え込むと、


 「の『賢者』なら、なんだろうけど……」


 春風はタクティカル・アタッチメントを装着した状態の左手を腰に当てて、


 「生憎俺は、な『賢者』なんだ。だから、だぜ!」

 

 ニヤリと笑ってそう言い放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る