第244話 ルイーズの事情
「は? ふ、2つの職能を持っている?」
ディックが何を言っているのか、春風は理解出来なかった。そしてそれは、他の人達も同様だった。
すると、
「ほう、『
と、ギルバートが驚いた表情でそう言った。
春風はギルバートに尋ねる。
「何ですか? その、重職保持者って」
「簡単に言うと、15歳になった時に神から職能を
ギルバートがそう説明してチラリとルイーズ視線を送ると、ルイーズはフイッとそっぽを向いた。
その後、今度はディックが口を開く。
「そうです。そして、五神教会はその重職保持者を多く抱えておりまして、このルイーズもその1人なのです」
「成程な。しかし、『騎士』と『暗殺者』とは、随分と妙な組み合わせの職能を授かったなぁ」
「ええ。彼女が私の部下になった時に調べたのですが、その2つの職能の所為で彼女は実家では肩身の狭い思いをしていたのです」
ディックがそう説明すると、ルイーズは屈辱に塗れた表情で口を開く。
「……そうだ。私はこの『暗殺者』の職能の所為で、親族からはずっと腫れ物扱いされてきた。もう一つの『騎士』の職能のおかげでそれほど酷いものではなかったが、職能を授かってからは両親も私から一歩引いたような態度をとるようになったんだ」
『……』
「だが、アッシュは……弟だけは違った。彼はただ純粋に、『2つも職能を授かるなんて素晴らしい』と言って、私に強い憧れを持っていたんだ。そのおかげで、私は教会内で行われた騎士と暗殺者の厳しい訓練にもめげずにここまで来れたんだ」
「ルイーズ……」
誰もがルイーズに同情的な視線を向けた次の瞬間、ルイーズはキッと春風を睨んで、
「そうさ。私にとって、弟はかけがえのない存在だ。その弟を、勇者召喚が行われたあの日、お前は傷つけた!」
と、春風に恨みを込めたセリフを言った。
そのセリフに、春風除く全員が少し怯むと、ルイーズは共に拘束されている襲撃者達を見て更に話を続ける。
「そして私だけじゃない、ここにいる者達も、お前によって痛めつけられた騎士達の親族だ!」
「……だから今日、モーゼス教主の命令を受けて俺を殺しに来たと?」
「ああ、そうだ! お前に痛めつけられたあの日から、弟達は騎士としての誇りと自信を失い、今は実家で療養中だ! お前の所為で!」
春風に向かって恨みを込めて怒鳴り散らすルイーズ。だが、そこへディックが割り込むように入ってくる。
「何を言ってるんだルイーズ! 忘れたのか!? 先に剣を向けてきたのは、アッシュ達だということを!」
「ぐっ! で、ですが隊長……」
諭されて尚恨み言を言おうとするルイーズに、春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、
「ディックさん、ちょっと失礼」
と言って、ディックを下がらせた。
そして、真っ直ぐルイーズを見て口を開く。
「ルイーズさん。あの日、あなたの弟さんを傷つけた事は、今でも申し訳なく思ってます。あなたが俺の事を、激しく恨んでいる事も理解してます」
「な、何を……!」
「ですが、だからといってこのまま殺されてやるわけにもいかないんですよ。俺にも、『目的』がありますから。だから、その、今更というか、『ここでそれ言うの?』的な事なんですけど……」
春風の言葉に、周囲の人達が一斉に頭上に「?」を浮かべると、
「大変、申し訳ありませんでした」
と、春風はルイーズら襲撃者達に向かって頭を下げて謝罪した。
それを聞いた瞬間、
「ふ、ふざけるな! ふざけるなぁ! そんな言葉で、私達が許すと思ってるのか!? この、この悪魔が! 神の加護を、『勇者』になれなかった
と、ルイーズはカッとなって怒鳴り散らした。
その言葉に、
「っ!」
「テメェ!」
「この……!」
「ルイーズ! いい加減に……」
と、冬夜、ギルバート、リアナ、ディックが怒りをあらわにすると、
「無礼者っ!」
という叫びと共に、パァンという音が謁見の間に響き渡った。
イブリーヌが、ルイーズをビンタしたのだ。
「い、イブリーヌ、様?」
ビンタされたルイーズが、呆けた様子でイブリーヌに尋ねると、
「この方は……ハル様は……春風様は、この私、イブリーヌ・ニア・セイクリアが、心の底から惚れて、好きになった殿方。その方を侮辱する事は、セイクリアの王家を侮辱するのと同じ事です、恥を知りなさい!」
と、イブリーヌはルイーズに向かってそう怒鳴った。
その瞳からは大粒の涙が溢れていた。
そしてイブリーヌは怒鳴った後、
「……ギルバート陛下。この度は、セイクリアの騎士が大変申し訳ない事をしてしまいました。わたくしには彼女達をどうこうする権限はありませんので、後はそちらの方でお願いします」
「……ああ、わかったよイブリーヌ」
ギルバートにそう言われると、イブリーヌはそのまま謁見の間を出ていった。
すると、
「ハル」
「フーちゃん」
「春風」
と、リアナ、歩夢、凛依冴が話しかけてきた。
春風は「?」と彼女達を見ると、
「「「行って」」」
と、3人同時にそう言ってきた。
その言葉を聞いて、春風は、
「うん!」
と頷くと、駆け足でイブリーヌの後を追って、謁見の間を出た。
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