第239話 全てを話し終えて・2


 「……そういうことかよ」


 春風からアデル達との出会いからウォーレン・アークライト達「断罪官」との対決、更にはレギオン「七色の綺羅星」設立までの経緯を聞き終えたギルバートは、納得したと言わんばかりの表情でそう言った。そしてそれは、エリノーラら他の皇族達も同様だった。


 その後、黙り込んだギルバートに代わってエリノーラが口を開く。


 「話を纏めると、春風ちゃんがレギオンを作ったり、白金級ハンターを目指した理由は、アデルちゃん達を守る為だったのね?」


 すると、エリノーラに続く様に、レイモンドも口を開いた。


 「いえ、厳密に言えば、『ルーシー・トワイライトを守る為』と言えば良いでしょうね」


 更に、少し離れた所でアデレードも口を開いた。

 

 「確かに、白金級ハンターは、全てのハンター……いえ、人々にとって『英雄』と言えるくらいの力と名声の持ち主。五神教会を相手にするなら、その資格はどうしても必要になるでしょう」


 「で、その提案をしたのがギルド総本部長のフレデリック、か。たく、あの腹黒ぉ」


 ギルバートは上を見上げてそう呟くと、アリア……否、アリシアの方を向いて話しかける。


 「アリシアだったか? 断罪官の中に『裏切り者』が出たって情報はこっちにも入ってたが、まさかお前さんだったとはなぁ」


 「はい。今まで黙っていて、申し訳ありませんでした」


 「気にすんな。断罪官としての使命よりも、大事な家族を守る事を選んだんだろ? ならそれで良いじゃねぇか」


 「ですが、事情はどうであれ私は仲間を裏切り、その手にかけただけでなく、何の関係もないハル君を巻き込んでしまった。これは、どうあっても許されることではありません」


 「いや、けどなぁ……」


 ギルバートはどうしたものかと悩んでいると、


 「なぁイブりん、お前はどう思うよ?」


 と、イブリーヌに話を振った。


 話を振られたイブリーヌはアリシアを見て、


 「アリシアさん」


 「はい」


 「貴方は今も、『ハル様や大切な家族と仲間を守りたい』という想いはありますか?」


 そう尋ねたイブリーヌを、アリシアは真っ直ぐ見て、


 「はい。それは今も変わりありません」


 と、はっきりそう答えた。


 イブリーヌはそれを見て、


 「そうですか」


 と呟くと、


 「でしたら、これからもハル様を支えて、妹様と、今の仲間の皆さんを守ってください。わたくしから言えるのはそれだけです」


 と、穏やかな笑みを浮かべて優しくそう言った。


 それを聞いたアリシアは、


 「……はい、ありがとうございます」


 と、イブリーヌに向かって深々と頭を下げた。


 それに続く様に、アデル達も頭を下げた。


 それ見て、ギルバートは「うんうん」と頷くと、春風の方に向いた。


 「さて、春風よ」


 「はい」


 「お前の説明と想いは十分理解した。で、お前がウォーレンの野郎と戦う事になった理由だが……」


 「……」


 「確かに、理由だったわ。なぁにが『純情を弄んだ』だっての。アホ過ぎるにも程があるじゃねぇか」


 呆れたようにそう話すギルバートを見て、春風は内心で「ハハ」と乾いた笑いをこぼした。


 「で、お前は今でもアリシア達の事を守りたいと思っているし、彼女達が犯した過ちを、生きて償わせたいとも思っているって事で良いんだな?」


 「はい」


 ギルバートにそう尋ねられて、春風ははっきりとそう答えた。


 それを聞いたギルバートは「フッ」と小さく笑うと、


 「なら安心しろ。お前と、お前の仲間達はもう俺達ウォーリス帝国のものだ。他の連中なんかに渡さねぇ。ましてや教会の連中なんぞに、どうこうさせるかってんだ」


 「ギルバート陛下……」


 「エリー達だってそう思ってるだろ?」


 ギルバートがそう話しかけると、エリノーラら他の皇族達も皆、


 『勿論!』


 と言って頷いた。


 「な、だから心配すんなって」


 春風に向かってニカっと笑いながらそう言ったギルバートに、春風は「ハハ」と乾いた笑いをこぼすと、


 「ありがとうございます、陛下」


 と、深々と頭を下げてお礼を言った。


 ギルバートはそれを見て、


 「よっしゃあ! 一先ずこの話は終わり! で、取り敢えず、今やる事なんだが……」


 「?」


 「、どうすんだ」


 「え……って、んげ!」


 ギルバートが指差した方向を見て驚く春風。その視線の先には、


 『うううぅっ』


 と、目から滝のように涙を流す勇者クラスメイト達がいた。


 「ちょ、どうしたのみんな!?」


 突然の事に驚いた春風に、冬夜が答える。


 「どうもアリシアさん達の境遇と春風の決意や想いを聞いて、涙腺が崩壊したらしい」


 「え、えぇ?」


 春風は「なんじゃそりゃ」と言わんばかりの表情になると、


 「だ、だってお前、アリシアさん達がかわいそ過ぎて……」


 「だ、断罪官の連中が許せなくって……」


 「あ、後、ハルッちが色々と成長してることに感動して……」


 『うううううぅっ』


 「えぇ?」


 涙を流しながらそう話す勇者達を見て、春風はなんとも言えない表情になった。


 この後、春風はアリシア達と共に、必死になって勇者達を宥めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る