第238話 そして、少年は話した


 「さて春風、説明をしてもらおうか」


 モーゼス達が帰った後、ギルバートは春風にそう話しかけた。


 「えっと、何をでしょうか?」


 春風はとぼけた感じでそう返したが、


 「勿論、断罪官大隊長、ウォーレン・アークライトを破ったことについてだ」


 と、ギルバートは春風に真剣な眼差しを向けながらそう言った。そしてそれは、エリノーラら他の皇族達も同様だった。


 (うぅ、これどう話せば良いんだ?)


 と春風が考えていたその時、


 「あのぉ……」


 と、恵樹が「はい」と手を上げながら、恐る恐る口を開いた。


 それを見てギルバートが、


 「む、どうした恵樹?」


 と、尋ねると、


 「そのウォーレン・アークライトって、どういう人なんですか?」


 と、恵樹はギルバートに向かってそう質問した。そしてそんな恵樹に続く様に、歩夢、水音、鉄雄、美羽、彩織、詩織も、ウォーレンについて知りたいと言わんばかりの表情をしていた。


 恵樹の質問に答えるように、ギルバートは説明を開始する。


 「ウォーレン・アークライトってのは、歴代の断罪官大隊長の中でも『最強』と言われている男でな、鋼鉄の如き精神力と鬼神の如き強さをもって戦うことから、『鉄鬼』の異名を持っていて、敵だけでなく味方からも恐れられているんだ」


 ギルバートの説明を聞いて、恵樹は「へぇ、そうなんですか」と納得すると、


 「え!? ハルッち、そんな凄い人に勝ったってこと!?」


 と、驚いた表情で春風に問い詰めた。


 「あー、うん、まぁそうなんだけど……」


 歯切れの悪い感じで答える春風。そんな春風を、リアナ、冬夜、雪花、静流は心配そうに見つめるが、水音、歩夢らクラスメイト達とイブリーヌは「説明求む!」と言わんばかりの表情をしていた。


 (う、うーん。どう説明すれば……)


 周囲の様々な視線を受けて、春風はどう話すべきか悩んでいると、


 「アニキ」


 と、出入り口の方から声がしたので、春風を含めて皆一斉にそちらの方を向くと、そこにはアデル、ルーシー、ケイト、クレイグ、アリア、フィナ、イアン、ニコラ、マークがいた。


 「みんな!」


 驚いた春風がそう呟くと、アデル達はゆっくりと謁見の間に入ってきた。


 「どうしたの、みんな?」


 春風はアデル達に近づいてそう尋ねると、


 「アニキ。話しても構わないよ」


 と、アデルは何かを決意したかのような表情でそう答えた。それは、ルーシー達も同様だった。


 「え、何を言ってるの?」


 春風は訳がわからず再びそう尋ねると、


 「ハ、ハル兄さん、わ、私達のことが原因で、話すのを、躊躇っているんでしょ?」


 と、今度はルーシーがそう答えた。


 「それは……」


 ルーシーの答えに、春風は言葉を詰まらせると、


 「ハル君、もう良いんだ」


 と、アリアが口を開いた。


 「アリア……さん?」


 「モーゼス教主が来るとわかった時から、きっとこうなるんじゃないかって思っていた。だから、もう全てを話しても良いよ」


 「で、でも、そしたらアリアさんは……」


 「頼む」


 頭を下げてそう頼み込むアリアを見て、春風はアデル達の方を向くと、皆、アリア同じような表情をしていたので、


 「……本当に、良いの?」


 と、恐る恐る尋ねると、アデル達は一斉に、


 『うん』


 と、頷いた。


 それを見て、春風も覚悟を決めたのか、


 「……わかった」


 とだけ言うと、イブリーヌの方に振り向いて、


 「あの、イブリーヌ様」


 「何ですか?」


 「ディックさんにも話を聞かせたいのですが、よろしいでしょうか?」


 「え、それは……」


 イブリーヌはどういう意味なのか尋ねようとすると、


 「私ならここにいる」


 と、出入り口を通ってディックが入ってきた。


 更に、


 「私もいるぞ!」


 と、ディックに続く様にアデレードも入ってきた。


 春風は「何でアーデさんまで?」と思ったが、今はそんなこと言ってる時じゃないと考え直して、ギルバートの方に向くと、


 「ギルバート陛下、ちょっと長い話になるかもしれませんが、宜しいでしょうか?」


 と尋ねた。


 それを聞いたギルバートは、


 「ああ、構わねぇよ。全部聞かせてくれ」


 と、「ハハ」と笑いながらそう答えた。


 「……わかりました、お話しします」


 そして、春風は話し始めた。

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