第240話 侵入、そして……


 春風がウォーレン・アークライトとの戦いについて話していた、丁度その頃。


 「……本気、ですか?」


 「ええ、勿論本気ですよ」


 五神教会の息がかかっている宿の一室で、教主モーゼスが1人の人物とそうやり取りしていた。


 「そちらの準備が出来次第、是非、取り掛かってください。わかりましたね?」


 「……了解しました、教主様」


 「では、お願いします」


 「……失礼します」


 そう言って、その人物は部屋を出ると、モーゼスは窓の外を見て、


 「ククク、貴方が悪いのですよ? この私の誘いを断るから」


 と、口を醜く歪ませながらニヤリと笑った。


 窓の外に映っているのは、帝城だった。


 「ですが、今夜、貴方は終わりです。我々と、我々の神に逆らった事、あの世で後悔すると良いでしょう」


 自身以外誰もいないその部屋で、モーゼスは1人、


 「フフフフフ……」


 と小さく笑った。


 一方、部屋から出てきた人物はというと、


 (……待っていろ、幸村春風)


 と、何かを決意したような表情で廊下を歩いていた。


 そして、その人物に用意された部屋に入ると、モーゼスの「命令」を実行する為の準備に取り掛かった。


 その夜、誰もが寝静まった帝城に、一組の「影」が侵入した。


 人数は4人。「闇」を思わせる真っ黒な装束に身を包んだその「影」は、素早く、静かに帝城の中を移動していた。


 「待て」


 「影」達の1人が小さくそう言うと、残りがピタリと止まる。


 彼らの前には、見回り中の帝国兵が2人いた。


 「影」達は素早くその帝国兵のもとへ移動すると……。


 ゴッ!


 「うぐっ!」


 そのうちの1人が「影」によって殴られ、意識を失った。


 「オイ、どうした!?」


 もう1人が相方に近づくと、


 「動くな」


 「影」達はもう1人を捕まえて、その首筋に短剣の刃を当てた。


 「な、なんだお前達は!?」


 もう1人が「影」達にそう尋ねると、その中の1人が短剣の刃を当てた状態で尋ねる。


 「幸村春風は何処だ?」


 少し低かったが、声は間違いなく女性のものだった。


 それを聞いた瞬間、「影」達の狙いが春風だと理解したもう1人は、


 「だ、誰が教えるものか!」


 と、「影」達に逆らおうとしたが、


 「答えろ、相方がどうなっても良いのか?」


 と、相方を人質に取られてしまい、もう1人は悩んだ末、


 「……わ、わかった」


 と、春風の部屋を「影」達に教えた。


 その後、「影」達は「用済みだ」と言ってもう1人を気絶させると、また帝城内を移動した。


 気付かれないように暫く移動すると、「影」達は目的がいる部屋の前に着いた。


 見張り役に2人を残すと、残りの2人が音を立てずに扉を開けて中に入った。


 部屋に備え付けられたベッドを見ると、人が1人入るくらいの大きさに膨らんでいた。


 目的は眠っていると考えた2人の「影」達は、静かにベッドに近づいた。


 そして、ベッドの側に立つと、お互い顔を見合わせてコクリと頷き合い、腰の鞘に収められた短剣を抜いた。


 そして、


 (神敵、幸村春風。死ね!)


 「影」はその膨らみ目掛けて、短剣を突き刺した。


 まるで積年の恨みを晴らすかのように、何度も何度も突き刺した。


 しかし、その様子をを「影」は気付かなかった。

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