第236話 ラルフとウォーレン


 (え、『ウォーレン・アークライト』って、何でこの人がその名前を!?)


 ラルフと名乗った男性騎士の口から発せられた、「ウォーレン・アークライト」とという名前に、春風は内心驚きを隠せないでいた。


 春風が何か言おうとしたその時、


 「あのー、誰ですか? その、『ウォーレン・アークライト』って」


 と、美羽が恐る恐る手を上げて、ラルフに向かって尋ねた。


 すると、


 「『断罪官』って組織覚えているか?」


 と、ギルバートが口を開いた。


 美羽はそれを聞いて、「は、はい」と答えると、


 「ウォーレン・アークライトってのは、その断罪官の現大隊長、つまり1番偉い奴のことさ」


 と説明するギルバートを見て、美羽だけでなく他の仲間達も「へぇ、そうなんですか」と納得した。


 春風はそんな彼らを見て気持ちが落ち着いたのか、腰のポーチに手を突っ込んで、その中から「あるもの」を取り出し、


 「これで、満足ですか?」


 と、謁見の間にいる者達全員にも見せるように、「それ」を掲げた。


 「それ」は、折れた剣の切っ先だった。


 水音達は「何だアレ?」と思って首を傾げていたが、リアナと他の仲間達、そして、モーゼスら五神教会の人間達は、「それ」のがわかって、顔が真っ青になった。それ故に、


 「ま、まさかそれは、『聖剣スパークル』の切っ先!?」


 と、モーゼスは驚愕に満ちた表情で春風に尋ねた。


 春風はそんなモーゼスを見て、


 「はい、あったりー!」


 と、若干馬鹿にしたように笑いながらで答えた。


 すると、モーゼスは顔を真っ青にしたまま、


 「か、返せ……いえ、返してください!」


 と、春風にそう要求したが、


 「やーだね!」


 と、春風はその要求を突っぱねた。


 モーゼスはショックを受けて、


 「な、何故!?」


 と尋ねると、それまで馬鹿にしたような笑みを浮かべていた春風は、スッと真面目な表情になって、


 「あの男は……というより、あの断罪官という連中は、理不尽極まりない理由で俺を殺そうとしました。そしてその時、あの男と真っ向から勝負する展開になって、正々堂々とぶつかった結果、俺が勝ちました。で、こいつはそのってわけです。ご理解出来ましたか?」


 そう説明する春風を見て、モーゼス達は「そ、そんな」と更に顔を真っ青にさせるが、ラルフだけは真っ直ぐ春風を見て、


 「どうしても、返さないと言うのか?」


 と、キッと睨みつけながら尋ねると、


 「ええ、返しませんよ。調べてみたらこれ、結構珍しい素材で出来てるみたいでね、残念ながらでは扱えるものではありませんが、いずれは俺が有効活用しますので」


 と、春風またラルフを真っ直ぐ見てそう答えた。


 その答えにラルフは「そうか」と言うと、今度は春風が尋ねる。


 「というか貴方、ここであの男の名前を出すなんて、一体あの男とどういう関係なんですか?」


 春風に尋ねられて、ラルフは春風を睨みつけたまま答える。


 「ウォーレンは、我がにしてとも呼べる男だ」


 「へぇ、そうなんですか」


 「奴とは共にセイクリア王国を守る為、互いに技を磨きあってきた。だが、ある日、奴は隊員達と共に深傷を負って戻ってきた。その手には、折れたスパークルを握ったままな」


 「……」


 「それ以来、奴は傷を癒しつつ自身を鍛えてはいるが、その瞳にはかつての『情熱』も『誇り』も無く、ただただ何かから目を背けている様だった」


 そう話すラルフを見て、周りの人達は何も言えずただ黙っていた。


 そんな状況の中、春風が口を開く。


 「……そうですか。それで、俺があの男を破ったとわかった今、貴方は俺をそうするつもりですか?」


 そう話す春風にただならぬプレッシャーを感じたのか、周囲の人達はたらりと冷や汗を流したが、ただ1人、ラルフだけは違った。


 「無論、私は奴の友として、奴の誇りを傷つけた其方を許すことは出来ない」


 そう言って、ラルフは背中に背負った武器ーー真紅の鋭い穂先を持つ大きな槍を手に取り、それを構えて言い放つ。


 「我が騎士の誇りと信念にかけて、其方を討つ!」


 その言葉を聞いて、水音達が「え、ちょっと!?」と慌てふためくと、春風はスッと右手を動かして落ち着くよう促した。


 そして、


 「貴方の気持ちはわかりました。普通ならここで『ごめんなさい』と謝罪するところでしょうが、敢えて言いましょう」


 「……何?」


 「先程も言いましたように、あの男とその仲間達は、理不尽極まりない理由で俺を殺そうとした。で、俺はそれを返り討ちにした。ただそれだけのことです」


 「……」


 「そのことにつきましては、俺はなんの後悔もありませんし、反省だってする気もありません。何故なら、俺は『目的』を持ってこの世界に来た身。それ故に、そう簡単にやられるわけにはいきませんし、『死んでくれ』と言われて『はいわかりました』なんて言って殺されてやるつもりもありません」


 『……』


 「ですから、もし貴方が、あの男と同じように、敵意を、戦意を、刃をもって俺の行く手を阻むというのなら……」


 そう言って、春風は腰の彼岸花を鞘から抜いて言い放つ。


 「俺は、俺自身の意志と、信念と、覚悟をもって、貴方を退ける!」

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