第235話 いたずら終了後


 「は、春風、君って奴は……君って奴は!」


 「おおお前、何やってんだ? ホント何やってんだ!?」


 「馬鹿じゃないの!? 馬鹿じゃないの!? ハルッち馬鹿じゃないの!?」


 「ああ貴方ねぇ、なんてことやってるのよ!?」


 「だ、駄目でしょ!? いくらモーゼス教主さんがいやらしい人でも、駄目でしょ!?」


 「そーだよ! あいつ、めっちゃいやらしい人だけど、それでも駄目でしょ!?」


 と、春風に向かって怒鳴り散らす水音ら6人の勇者クラスメイト達。


 さてどうしたものかと春風はふとモーゼス達をチラリと見ると、


 「え、私、いやらしい奴なのですか?」


 と、モーゼスが彩織と詩織の「いやらしい奴」という言葉にショックを受けていたのが見えたが、春風は黙ってスルーすることにした。


 その時、


 「ちょおっとー、ハルー、なーにしてんのー?」


 「そうだよフーちゃん。ちょっとやり過ぎだと思う」


 「ん?」


 突然の声に、春風は「何だ?」と思って声がした方を向くと、そこには怒りのオーラを纏ったリアナと歩夢がいた。


 更に、


 「いやぁ、流石私のスウィートハニー。やってくれるわねぇ」


 「うん。流石は僕達の弟だね、セっちゃん」


 「ええ、本当ね」


 「あらあら、私の息子はいたずら好きだったのねぇ」


 と、拍手をする凛依冴と、それに続くように冬夜、雪花、静流も入ってきた。


 「あー、いやー、えっとー、そのー」


 次々と入ってくる仲間達を前に、春風はどう答えれば良いのか迷っていると、


 「あー、ゴホン!」


 『ん?』


 わざとらしく咳き込む声がしたので、春風達は一斉にその声がした方向を向くと、そこには先程までショックを受けていたモーゼスがいた。


 春風はそんなモーゼスを見て、


 (あ、ハゲ忘れてた)


 と、若干後悔していると、


 「これはこれは、お久しぶりです勇者様方、そして春風殿」


 モーゼスは穏やかな笑みを作ってそう話しかけると、

 

 「『お久しぶりです』、か。俺自身、貴方のことはあまり覚えてないうえに会いたくはなかったのですが」


 と、春風は少し嫌味を込めてそう返した。


 モーゼスはその返しにピキッとなったが、それでも穏やかな笑みを崩さずに話を続ける。


 「まぁまぁ、そう仰らずに。それにしても酷いですなぁ、まさかギルバート皇帝陛下に化ていたとは」


 「その辺つきましては、申し訳ありません。ですが、そのおかげで貴方がここへ来た目的は理解出来ました」


 「おぉ! それでは、是非、勇者様方とご一緒に我々と共に……」


 「ですが、お断りします」


 「……何ですって?」


 「聞こえませんでしたか? 『お断りします』と言ったのです」


 春風の答えを聞いて、謁見の間がシーンと静まり返った。


 誰もが黙込むその状況の中、モーゼスが口を開く。


 「り、理由を聞いてもよろしいでしょうか?」


 「単純なものですよ。あなた方と、あなた方が崇める『神様』が信用出来ないからです。勇者召喚が行われたあの日、俺、言いましたよね? 『俺が信じてる神様は故郷である地球の神様達だけだ』と、その想いは今も変わっておりません」


 『……』


 「それに、俺がそちらに行く事で、俺にどの様ながあるのですか?」


 丁寧な口調でそう尋ねた春風に、モーゼスはハッとなって答える。


 「お、おぉ、メリットですか! それでしたらありますよ! 今、我々と共に行けば、貴方がこの世界で犯した『2つの罪』を無かったことにして差し上げましょう!」


 「2つの……罪?」


 「えぇ。1つは勿論、桜庭水音殿との決闘の時に、貴方が女神マール様を潰した罪ですよ。なにせあれの所為で今、多くの信者が五神教会から離れてしまったのですから」


 「あれは俺と水音の大事な決闘を台無しにした向こうが1000パーセント悪いのですから、当然だと思いますが?」


 ズバッと即答した春風に、モーゼスは「うぐ!」と呻いて後ろに少し下がった。


 しかし、そんなモーゼスを前に、春風は質問する。


 「それで、もう1つの『罪』とはどの様なものなのですか?」


 「そ、それは……」


 モーゼスは狼狽えながらも答えようとした、まさにその時、


 「それは、私が話そう」


 と、それまで黙っていた男性騎士が、モーゼスの前にズイッと入ってきた。


 「貴方は?」


 春風は男性騎士に向かってそう尋ねると、

 

 「失礼した。私はセイクリア王国王宮騎士、ラルフ・ハイランド。この度は、五神教会教主、モーゼス・ビショップの護衛として参った」


 「はぁ、これはこれはご丁寧に」


 「『半熟賢者』春風殿、其方が犯したもう1つの『罪』を語る前に、聞きたいことがある」


 「……何でしょうか?」


 警戒する春風を前に、男性騎士、ラルフは尋ねる。


 「ウォーレン・アークライトを打ち破ったというのは本当か?」

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