第十三話

 ロインは酋長に呼び出された。家から出ると寒さが身に染みる。 


 「こっち来なさない」


 酋長の家にロインは引き込まれる。囲炉裏の火が温かい。


 「何だよ酋長」


 「なんでお前は自分の事しか考えられないんじゃ」


 「へ?」


 「お前、魔法で森を開墾かいこんしただろ」


 「へへ~ん、じっちゃんすげえだろ」


 「それで何を植えたんだ?」


 「麻とハーブだけど?」


 「どうしてお前は村人のために作物を植えないんじゃ!」


 「あ……」


 「お前を見る村人の視線は冷たいものになってるぞ」


 ロインはそうかなあと思った。


 「これで飢饉でも起きればおまえさん、火あぶりにされるぞ……現に前もそういうことがあった」


 (前も……あった……だと? じゃあザイロ先輩はその時どう切り抜けたんだよ?)


 「わしは考えた」


 「何を?」


 「お前さんを修行の旅に出すと」


 「でもそんなことしたらこの村のベルダーシュは?」


 「そこでわしは顧問のベルダーシュをこの村に置くことにした」


 そして別のベルダーシュが酋長の家に入ってきた。


 「あなたは……カル」


 「旅の芸人はちょっと中断することにした」


 (いいなあ、芸は身を助けるって言うし……)


 「それに旅のさなかに得た様々な物語を記録させる必要もあるからな」


 「もっとも顧問じゃ。村には住めんがな」


 「それと、これを持っていくがよい」


 「これは……」


 「水晶だ」


 「遠くに居ても会話できのじゃ。カルしか発動出来ないが」


 そっか。酋長は発動出来ないのか。


 「ロイン、おまえはいろいろと未熟だ。魔法の腕を言ってるのではない。精神が未熟なんじゃ」


この酋長の言葉にロインは傷ついた。事実だからなおの事。


 「そこで流浪のベルダーシュと立場を交換させることにした……三年、旅に出るがよい」


 (三年!? 長いよ!? 酋長!)


 「それも西方の山脈を超えた村まで行ってほしい」


 「ロッキーを超えるのか」


 「そうじゃ」


 「このままだとお前、村に居られないぞ」


 (というか、これって事実上の追放なんじゃ? というかそうしないともう俺の命が危ないって事? そっか。俺ってやっぱいろんな意味で落ちこぼれなんだ……)


 「わかったよ、じっちゃん。俺……旅に出る」


 「修業の旅に出るのはベルダーシュの特権なんじゃ」


 「仮面を持っていけるのは一個だけじゃ」


 ロインが選んだのは竜の仮面だった。


 「本当にこれでいいのじゃな?」


 「ああ」


 翌日の早朝、ロインはこうして旅に出た。ロインの足は重たかった。季節は冬になろうとしていた。樹から葉が落ちる音がする。ロインの心も何かが落ちる音がした。特に旅に出る時のベルダーシュの掟を聞いてぞっとしたからだ。


<第一章 終了>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る