第十話

 戦勝の宴のさなかに旅の楽団がやってきた。


 戦勝の宴がさらに盛り上がる。


 ロインは音楽に見とれて食べ物を落とした。昔ならここで「何ぼーっとしてるんだよ間抜け!」という怒号が出たことだろう。しかし……。


 「きゃー、ロイン様~素敵! 落ちたものまで食うなんて頑丈な胃の持ち主なんですね!! ワイルド~!」


 ますますロインはちやほやされる。


 こんな光景のさなか楽師長が酋長と会話している時酋長の顔色が変わった。そして慌てて今日の宴の主人公ロインを呼んだ。


 「なんだよ酋長、いいとこなのに」


 酋長の家に引き込まれたロイン。


 「いいから聞きなさい。この方は楽師団の長。ベルダーシュにして楽師のカルだ」


 「カルです。よろしく」


 女性なのに男装をしている。ベルダーシュである証拠だ。


 「ここに我々三人以外の者は居ないな?」


 「はい、居ません。酋長」


 そして答えた者は僕をじっと見つめる。


 「君がこの部族のベルダーシュだね?」


 「はい、ロインといいます」


 「ロインさん。実は我々流浪のベルダーシュに対して『闇のベルダーシュ』に着くよう最近スカウト活動が行われている」


 「闇の……ベルダーシュ」


 「我々は国を持たぬ集団だ。しかし闇のベルダーシュの真の目的はベルダーシュによる国家建設とベルダーシュによる支配だ」


 「なんだよ、それ」


 「闇の仮面をかぶり、闇魔法を極めることで引退したベルダーシュがさらに強くなる」


 「君はたとえ引退しても闇のベルダーシュからの誘惑に乗らないね?」


 「もちろん」


 「酋長、絶対に闇のベルダーシュを使って秘密裏に戦力を強化するといったことはお辞めください。いつのまにか統率権を奪われます」


 (統率権? それってナンバーツーがナンバーワンになるって意味?)


 「我々楽団にもスカウトが来た。だが自由を重んじる我々はスカウトを拒否した」


 俺、そもそも闇魔法なんて嫌だなとロインは思った。


 「それとベルダーシュに対する迫害を辞めていただきたいのです」


 「うむ、約束する」


 「迫害……酋長、どういうことだよ」


 「ベルダーシュはな、病魔を振りまく妖術師として迫害されることがあるのじゃ」


 (妖術師!? ……俺が?)


 「飢饉、天変地異、睡眠……様々なことが敵のベルダーシュだけでなく身内のベルダーシュの仕業とされることがある。集団恐怖に陥った部族は闇討ちでベルダーシュを抹殺することがある。そして、こういう事件は決してまれじゃない」


 「そんな……俺そんなことしねーよ」


 「お前の力は他人にとってあまりにも脅威なんじゃ。だからみんなからちやほやされるんじゃ」


 (はっ!)


 「だから、こういったことが起きないためにも魔法ばっかり磨いてはダメなんじゃ。もっと普通の部族と寄り添うことも大切じゃ」


 「お……おう」


 「迫害されてきたベルダーシュが西のロッキー山脈にある闇の神殿に集っている」


 おいおい、そんな遠いとこが本拠地かよ。


 「ゆめゆめ、参加なされぬよう」


 「明日から民芸品を作ってもらえぬか。何、ベルダーシュにとっても有利なんじゃ。実は魔法増幅グッズにもなるしの」


 (酋長、それ俺は大の苦手なんですけど)


 「わかった」


 「それに女の心を知る大事な一環だしな。男らしさと女らしさを兼ねそなえた民芸品は高い値段で取引されるのじゃ」


 (分かってるけどさあ……)


 「それに仮面づくりも重要な業務じゃ」


 (俺、絶望的に不器用なんだってば……)


 「気味悪がれないよう、それとみんなからちやほやされて勘違いしてはならぬ。君は裏では恐怖の目で見られているという自覚は持ってほしい。その恐怖を取り除く必要があるんだ」


 (神よ、俺はベルダーシュになって幸せだったのでしょうか)


 ロインは空を見上げた。


 こうして夜が深まり宴が終わった。季節は秋を迎えていた。

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