第八話
そんな夏の蝉の声が鳴き終える時期に村人が酋長の家に駆けこんだ。
「ウラキ酋長大変です!!」
「どうした?」
「他の部族がこちらに攻め込んできています!」
笛の声が聞こえてくる。
「どうやら我ら部族のベテランベルダーシュが引退したことが伝わった模様」
「そうか……」
「ロインを呼んで来い!」
「はい」
◆
ロインはかつてのザイロの家に住んでいた。もう親から独立してベルダーシュとして生計を立てていたのだ。あの恨み声のような音は消えていた。家を補修したから、なのかなとロインは思っていた。そんな想いにふけっているときに村人に呼び出された。酋長の家に行くと物々しい雰囲気だった。
「他の部族が攻めて来る。出番だ」
「はい、酋長」
「分かってると思うが部族に戦士なんてそう多くない。ベルダーシュの力こそ決戦のすべてが決まると言っても過言ではない」
「はい」
「
そういうと村を飛び出しふっと見上げる、もう敵対部族が見えてきた。
ロインは呪文を唱えると雲を作り出した。ロインがつけたサークレットが光ると同時に氷の刃を次々と降らせる。
敵対部族の
これに対し敵のベルダーシュは仮面をつけた。なんと相手も自分と同じ年齢くらいの年少ベルダーシュだ!
敵のベルダーシュは巨大な猫になった。
ロインはこれ対抗すべく熊の仮面をかぶり巨大な熊に化身していく!
熊は次々拳を猫に食らわせていく。
何度も何度も拳が猫に命中する。猫は手も足も出ない。まるでスローモーションのような手だ。逆に返り討ちにした。相手の腕が砕ける音がした。
「俺強えええ!」
熊の姿のままロインが勢いずく!
腹部になんとも拳を浴びせる。そして巨大な猫は倒れた。最後に首をひねると鈍い音を立てて魔猫は動かぬ者になった。
変身解除呪文を唱えるとロインは元の姿に戻る。ベルダーシュは変身解除後も普通に戦闘できるのだ。
ロインの掌に紅色の魔素が集まっていく。ロインは業火の呪文を唱えると残りの敵対部族の頭上に巨大な炎が降り注ぐ! ただの業火の呪文ではない。広範囲に焼き尽くす呪文だ。持続力が無いと不可能な術だ。
「俺強ええええええ!」
やがて生き残った敵対部族は去って行った。焦げる匂いと煙が風を運んでロインに伝える。
「ロイン、でかした!! お前は本物の『ベルダーシュの勇者』じゃ!」
「まあね、まだ本気出していないけど」
ロインは赤い羽根を帽子に付ける。北米ではこれが勇者の証だ。そして負傷者を治療する。赤い羽根は友愛の証でもある。ゆえに戦死者の孤児を救う義務も発生するのだ。ゆえに彼らをこう呼ぶ。『ベルダーシュの勇者』と。勇者とは破壊者の意味ではない。戦が終わり敵と握手を交わす勇気も必要なのだ。そういう時に限って敵は不意打ち・暗殺を仕掛ける事もあるから和平交渉は特に勇気のいる行為なのである。ゆえにベルダーシュは勇者なのだ。
ベルダーシュが和平交渉するのはいきなり酋長同士が和平交渉して交渉決裂→襲撃されると困るからである。なおこの時ベルダーシュのみで一騎打ちになることもありえる。気は抜けない。幸い、そのような状況にはならなかった。それどころか戦勝者は捕虜の傷を治す義務も生じる。
この赤い羽根の飾りが後の「赤い羽根募金」の起源とも言われている。日本には戦後のGHQを通して伝わったことを当時のロインたちは知る由もない。
◆◇◆◇
全身黒装束に身を固め黒の
「初陣は奴が勝ったようだな」
仮面には魔力が帯びているのか声も変わっていた。その素性は分からない。男の
「また別のベルダーシュを儀式に上げるとよい。落ちこぼれはどこの部族にもいるはず。カナ族の酋長よ」
「分かっている」
「忘れるなよ、我は闇のベルダーシュ。酋長以外顔を知られてはいけない
「分かっている」
「表向きは鴉の化身であり神なのだ」
「分かっている」
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