第八話

 そんな夏のセミの声が泣き終える時期に村人が酋長の家に駆けこんだ。


 「ウラキ酋長たいへんです」


 「どうした」


 「他の部族がこちらに攻め込んできています」


 「どうやら我ら部族のベテランベルダーシュが引退したことが伝わった模様」


 「そうか……」


 「ロインを呼んで来い!」


 「はい」



 ロインはかつてのザイロの家に住んでいた。もう親から独立してベルダーシュとして生計を立てていたのだ。あの恨み声のような音は消えていた。家を補修したから、なのかなとロインは思っていた。そんな想いにふけっているときに村人に呼び出された。酋長の家に行くと物々しい雰囲気だった。


 「他の部族が攻めて来る。出番だ」


 「はい、酋長」


 「分かってると思うが部族に戦士なんてそう多くない。ベルダーシュの力こそ決戦のすべてが決まると言っても過言ではない」


 「はい」


 「初陣、たのむぞ」


 そういうと村を飛び出しふっと見上げる、もう敵対部族が見えてきた。


 ロインは呪文を唱えると雲を作り出した。ロインがつけたサークレットが光ると同時に氷の刃を次々と降らせる。


 敵対部族の断末魔だんまつまが響く。


 これに対し敵のベルダーシュは仮面をつけた。なんと相手も自分と同じ年齢くらいの年少ベルダーシュだ!


 敵のベルダーシュは巨大な猫になった。


 ロインはこれ対抗すべく熊の仮面をかぶり巨大な熊に化身していく!


 熊は次々拳を猫に食らわせていく。


 何度も何度も拳が猫に命中する。


 「俺強えええ!」


 熊の姿のままロインが勢いずく!


 そして巨大な猫は倒れた。


 変身解除呪文を唱えるとロインは元の姿に戻る。


 ロインは業火の呪文を唱えると残りの敵対部族の頭上に巨大な炎が降り注ぐ!


 「俺強ええええええ!」


 やがて生き残った敵対部族は去って行った。


 「ロイン、でかした!! お前は本物の『ベルダーシュの勇者』じゃ!」


 「まあね、まだ本気出していないけど」


 ロインは赤い羽根を冠を付ける。北米ではこれが勇者の証だ。そして負傷者を治療する。赤い羽根は友愛の証でもある。ゆえに戦死者の孤児を救う義務も発生するのだ。ゆえに彼らをこう呼ぶ。『ベルダーシュの勇者』と。勇者とは破壊者ではない。戦が終わり敵と握手を交わす勇気も必要なのだ。そういう時に限って敵は不意打ち・暗殺を仕掛ける事もあるから和平交渉は特に勇気のいる行為なのである。ゆえにベルダーシュは勇者なのだ。


◆◇◆◇


 全身黒装束に身を固め黒のからすの仮面を身に着ける男が遠くでこの戦いを見守っていた。


 「初陣ういじんは奴が勝ったようだな」


 仮面には魔力が帯びているのか声も変わっていた。その素性は分からない。男のからだから出る闇の後光ごこうを身に纏っている。妖魔の姿そのものだ。人間ではないのかもしれない。


 「また別のベルダーシュを儀式に上げるとよい。落ちこぼれはどこの部族にもいるはず。カナ族の酋長よ」


 「分かっている」


 「忘れるなよ、我は闇のベルダーシュ。酋長以外顔を知られてはいけない神霊ゴーストであることを」


 「分かっている」


 「表向きは鴉の化身であり神なのだ」


 「分かっている」


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※1:この赤い羽根のかざりが後の「赤い羽根募金」の起源とも言われている(諸説あり)。日本には戦後のGHQを通して伝わりました。ゆえにこのタイトルは「ベルダーシュの勇者」です。


※2:ベルダーシュが和平交渉する場合があるのはいきなり酋長同士が和平交渉して交渉決裂→襲撃されると困るからである。なおこの時ベルダーシュのみで一騎打ちになることもありえる

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