第三話

 ザイロとロインが酋長の家に入る。酋長が聞き遂げると冠をかぶってネックレスを身に着けて街の広場で大声で宣言した。


 「皆の者、聞くがよい!! この者が新たな暫定ベルダーシュになる!」 


 村は驚きであった。


 本物のベルダーシュの誕生であった。


 そしてザイロは新たなベルダーシュとなったロインに女装を施し、化粧を塗る。髪型は三つ編みにする。最後に胸のパットを渡した。ロインは恐る恐る胸のパットを付けた。皮肉なことになんとザイロよりもずっと美少年にも美少女にもなった。ザイロはベルダーシュでありながらどこからどう見ても男なので姿だけであったら圧倒的にロインの方が素質があるということになる。衣服も最高級のものを使っている。馬子にも衣装とはこのことか?

 

 「似合ってるぞ」


 ザイロが鏡をかざす。ロインは戸惑っていた。


 (これ、本当に俺?)



 夜が更けていく。街の中央の広場に村人全員が集まった。そして新たなベルダーシュ誕生の祝いが始まった。わざわざ近所の猪を狩って丸焼きにしていた。ネイティブアメリカンは成人の儀以外にお酒を飲まない。しかもこのお酒はハーブを混ぜるので度数が極めて強い。下手に飲みすぎるとすると意識が飛ぶほどだ。事実上の酒造の文化が無い代わりに果汁飲料の文化が発展している。


 新たなベルダーシュに次々女性も男性も群がっていく。


 ――今までさんざん馬鹿にしていたくせに。


 ロインはなんかちょっと逆に悔しかった。


 「よいか、これがベルダーシュの政治力だ」


 ザイロはあえて政治力と言った。


 「はい」


 「そしてロインよ、男とならいつだって寝れるぞ」


 「え?」


 「女と結ばれるときは結婚が義務じゃが男とならいつでも楽しめる。結婚後もな」


 酋長が会話に割って入る。


 「もうお前も大人だ。いい加減部族のハーレムを知ってもいいだろう」


 (ハーレム……かあ。いい事なのかなあ?)


 「それと明日からお前に仮面の事と魔術を伝授せねばならん」


 修業は嫌だなあ……。


 「そして伝授したあと、俺は引退が義務となっている」


 「えっ? ってことは」


 「そうだ、お前がこの部族のナンバーツーだ」


 「その気になれば酋長になってもいいのじゃぞ」


 周りの男たちが色気を使っていく


 「じゃあ、俺はロイサンと一夜を過ごす。お前も適当に決めておけよ。それとお前はもう男じゃない。男を嫌悪した瞬間ベルダーシュへの信頼は無くなっていくと思え」


 「まあ、楽しめや」


 そう言い残して去っていく。


(何、この豹変……。俺怖い!!)


 ロインは走り去っていく。村人はロインの姿見えなくなると一斉に呆れ悪口大会となった。不穏な空気が流れた。酋長が「やめぬか!」と制止しザイロが火炎の術で脅すと悪口はとまり妙に静かな宴となり宴は自然と解散となった。


 酋長とザイロだけが広場に残る。


 「お前さんには苦労かけたの」


 残り火がパチパチと鳴る。


 「いいや、俺の人生はこれからだ」


 ザイロは嬉しそうだ。


 「そうじゃろう。あんなことがあったんじゃからな」


 ザイロは黙り込む。


 「あの道に行くのか?」


 「さあな。次代のベルダーシュに期待してるぜ。俺が言えるのはここまでだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る