第四話

 次の日の朝。新緑が輝く蒼い晴れた空。さっそくロインに新しい修業が始まった。黄金の鷲の力を得たロインは次々と初歩の魔法を習得していく。するとザイロは一旦修行辞めてザイロの家連れて行った。


 「中級魔法を教える前にお前に見せたいものがある。知っての通りここにあるのは、仮面だ」


 ザイロの家の側壁に仮面が並んでいた。四つある。どこか家の中は暗く気のせいかかすかに恨み声のような風音が響く。


 「仮面の額中央に埋め込まれている宝石を魔石という」


 どの仮面も仮面に埋め込まれた魔石の色は紫色だった。


 「君も私が化けた姿を見てるから分かってると思うが魔石の力を使って呪文を唱えれば鷲の仮面なら鷲に、熊の仮面なら熊に、竜の仮面なら竜に、むしの仮面なら巨大な吸血蟲きゅうけつちゅうになれる」


 「うん」


 「化身するときは痛みと同時に快感が伴う。変身するだけでも体力はかなり消耗する」


 (痛いのか。そういえばすげえ音立てて化けてたよな)


 「戦う相手も同様に仮面をかぶって呪文を唱えて化身する」


 そうだった。ザイロは敵対した部族をたった一人で殲滅したのだ。熊人の姿で……。なぶるように。嬉しそうに。そして熊人の姿で人を食い殺していた。相手のベルダージュは巨大な鷹だったがなすすべもなくザイロの魔法攻撃にやられて墜落し熊人の餌食となった。


 「死んだら化身のまま死んでしまう」


 あの時巨大な鷹の死骸の一部をわざとザイロは捨てていた。あれがザイロの本性なのだ。だから村人はみんな恐ろしくてザイロに近寄ってこない。戦勝の祭りすらなく戦勝の証の冠すら被らなかった。


 「仮面を使う時は一騎打ちや非常事態の時だ。むやみに使えない」


 「はい」


 「次は仮面を使わない魔術だ」


 「額輪サークレットにはめ込まれた魔石が魔法を発動させる。これは腕輪でも指輪でもいいが我が部族は額輪だ」


 ザイロのサークレットはいつ見てもかっこいい。俺もあんなかっこいいサークレットをつけることが出来るのであろうか。


 「もちろん正しい呪文を覚えないとベルダーシュが居る意味はない」


 (ここ呪文を覚えないと修行をクリアしたことにならないのか。そうだよな)


 「そして正しい呪文を後世に伝えないと魔法知識が断絶し、部族の武力が一気に弱体化する」


 ということは……。


 「つまりあっという間に別の部族に攻め滅ぼされる」


 責任の重さを感じるロイン。なんせ周りの部族の恨みを買ってるのだ。ザイロのせいで。


 「お前の役割は重要なのだ。別のベルダーシュが現れ、魔法を覚えるまではな」


 「あの~?」


 「何だ?」


 めんどくさそうに返すザイロ。とっとと修行を終わらせたいのだろうか?


 「例えばですけど……今すぐ別のベルダーシュが誕生したらどうなるんですか?」


 「最高二名まではベルダーシュに君臨できる。うちの部族の場合はな」


 「じゃあ、何で……?」


 「前のベルダーシュが誕生して一年以内にベルダーシュが現れた限り特別に二名のベルダーシュが誕生する。その場合俺は二人に猛特訓させる」


(やばい。その展開は……)


 「一年後、両者は仮面をかぶって決闘する。もちろん死んだほうが負け」


 (えっ? じゃあ俺最悪死ぬじゃん)


 「例外はベルダーシュ同士の結婚だがめったに見られるものじゃない。『男→女』のベルダーシュと『女→男』のベルダーシュが結婚した場合は夫婦でベルダーシュに君臨することが許される」


 (へえ。結婚だと最悪の事態は回避できるんだ。そうなったらアプローチしてみっか!)


 「ベルダーシュの身分がいかに重いか分かったか?」


 (重いなあ)


 「本当に今日から死に物狂いで覚えてもらう」


 やばい。顔に出たか? 慌ててロインは真剣な顔で聞くことにした。


 「あと一年間万が一上級魔法を覚えられなかった場合はベルダーシュの身分を解除するために試練の洞窟に行くことになる。そしてこの場合お前がベルダーシュの能力をはく奪された時点で、お前も俺も部族追放だ」


 (え? 連帯責任だったのかよ。そりゃザイロも必死になるよな)


 「真剣にやれよ」


 「はい!」


 二人は薄暗く不気味な音が出る巨大な家を後にした。


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