第一話

 新緑の樹々が風によってざわつく。ロインの心の不安さを具現化しているようだ。


 酋長があきれ顔で言う。酋長は今日も白鳥の羽の冠を付けた羽飾りを付けている。この村のおさである証拠だ。衣装も絢爛豪華。青と赤の球のネックレスで今日もばっちり決めている。


 「本当か?」


 「本当だってば」


 にらみつける酋長。どうも信用してない。


 「お前、洞窟で儀式を経ないとベルダーシュにはなれないって分かってるな?」


 「分かってます」


 酋長しゅうちょうに毅然と言う。


 「嘘を言って命を落としたものは数知れぬぞ」


 「分かってます!」


 「では、これを見るがよい」


 ベルダーシュのザイロが見せたのは仮面。ザイロも女装してることからも分かる通り第三の性を得たベルダーシュだ。どこかボーイッシュな感じのするザイロだが、ザイロも元々は男だった。


 「これは熊になれる仮面だ。この仮面に付いてる歯を見てみろ」


 指を刺したその先には……。


 「これは……」


 「そうだ、人の歯だ」


 ロインは震えた。


 「ベルダーシュの試練に失敗した者はベルダーシュの仮面の一部となる」


 「……」


 「止めやせぬ」


 ――お前のいう事が本当ならば

 

 「だが失敗したら、お前も仮面の一部となる。それでも行くか?」


 「……」


 重い沈黙が流れた。嘘なんてついてないのに。


 「はい」


 「現ベルダーシュのザイロを監視者として試練の洞窟に行くことを許可する」


 酋長が宣言した。


 家で一番巨大な酋長の家を出ると村人はロインを冷笑の眼差しで見つめていた。酋長がくっとにらむと一目散に村人は逃げた。


 そして土を踏む足音がする。赤と白が入り混じるロインの外套マントなびく。この村でもっとも恐れられている者がやって来た。酋長と違い質素な服装だ。全身茶色だ。


 「お前か? 試練の洞窟はこの森の向こうだ」


 この村のベルダーシュ、ザイロであった。


 (何怯えてるんだよ俺!! さんざんこの時を願っていたじゃないか!! この境遇を変えたいと! そして魔術であの世に行ってしまったお父さんとお母さんを呼んで話したいと! 成り上がってちやほやされたいって!!!)


 ――うっ……うっ


 「何を震えている!? 行くのか? 行かないのか?」


 ザイロは怒っていた。


 「行く! 行くに決まってる!!」

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