ベルダーシュの勇者

らんた

第一部 ベルダーシュの勇者

第一章 俺、第三の性になって魔術師にもなるの!?

~序~

 ここは北米の広大な山脈のふもとの村。後の世はこの山脈をアパラチア山脈と呼ぶ。対岸の西欧ではヴァイキング達が暴れアイスランドどころかグリーンランドまでやって来たという時代。春には生き物たちが賛美し夏には生き物たちが盛り上がり秋には紅葉で満たされ、冬になると厳しい寒さが襲う。そんな村で泥だらけの子が荷物を落としてしまう。そんな冬も終わり命が再び息を吹き返す。そんな時のそんな光景の村に何をやってもダメな子が村に居た。


「おい、何やってるんだよ」


 「間抜け!!」


 サムル族のロインはすべてにおいて何やっても駄目であった。サムル族というのは農耕を主な生業とするイロコイ系部族。もちろん呪具も作り他の部族との交易も行っていた。「ポトラッチ」と言って酋長が贈り物競争するほどの豊かさだ。家はウイグラムと言って藁で出来てる。藁と馬鹿にしてはいけない。巨大な城壁の中にロングハウスがいくつもある都市だ。女が農耕をおこない、男は戦士を務める軍事部族群だ。負ければ虜囚の身となった上で奴隷の身分に落とされる。ゆえに社会的弱者はいじめられる。


 もっともこの村は「奴隷身分」を認めないという酋長の村だったが。


 ロインは女子にすら力で負け、狩猟は出来ず、簡単な織物は織れず何もないところで躓く始末。落ち着きがなく物はすぐ無くし農耕も狩猟も出来ぬ。


 ロインは村人にいつも笑われ、呆られていた。黒髪・黒瞳で小柄で茶色の粗末な衣装を着……初歩的な魔よけの効力があるネックレスを身に着けるロインはいつも失笑してその場を誤魔化すだけだ。その粗末な服に泥が投げつけられる。


 そんなロインは十二歳のある日、信じられない夢を見た。


 ――お前はサムル族の魔術師になる素質がある。ベルダーシュになり、性を変えるのだ


 お告げを下したのは黄金の大鷲おおわし


 ロインはこの夢を見てから人生がすべて変わってしまった。


 これは北米のサムル族、ベルダーシュの勇者の物語。


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【注】

※1:この小説の舞台はまだ西欧がヴァイキングたちで暴れまわっていたころの話です。第二部ではヴァイキング達は実はグリーンランドを経由してこの北米大陸にもやってきます。ポトラッチというのは贈り物競争で部族がこんだけ豊かである事を見せつけるための競争です。東部のネイティブアメリカンはロングハウスの長い作りが支流です。そんな大地でロインはどうやって生きていくのでしょうか。


※2:イロコイ系部族とは当時はニューヨーク周辺からカナダに住む部族である。モホーク族、オナイダ族、オナンダーガ族、セネカ族、ケユーガ族で成り立つ部族群だが今回は架空の部族名を使用している

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