2
1 モテモテ
蒼が女の子になって現れてから噂はその日のうちに学園中に広まった。
翌日からはまた一緒に学園に行ける事になり、昔ながらの感覚で登園途中の道で
合流してから一緒に歩いていっている。
正直可愛くなった蒼が気になってチラチラ横見してしまって気が気でない。
相変わらずいい匂いしてるし。
「ねぇ涼真…僕の胸が気になるのは男子としては理解できるけど、そんな凝視されると困る…」
「凝視は流石にしてない!」
「やっぱ見てたんじゃん…////」
「うぅ…す、すまん…」
「ったく…////」
なんで分かるんだよ…。
「でも世辞抜きでキレイだと思ってるのはほんとだぞ?メイクだって全くしてないわけじゃなくうっすらしてるって感じだしリップだって色気感じるし、いつの間にそんな事覚えたんだよ」
「姉さんのせいだよ、今どき小学生でもメイクする子多いんだから今のうちから覚えときなって入院してる時に色々仕込まれた…」
「比較的めんどくさがりなお前が律儀にメイクを守ってるのがなんとも」
「男だってアイドル的な売り方してる人はメイクするでしょ?女子はなんていうか嗜みって感じというか。もちろん全員ってわけじゃないけど割とメイクしてる子は多いって感じかなぁ」
立場が変われば見え方も変わるってことか…これはこれで興味深い。
「それより今日の放課後にでもちゃんとした下着買いにいかないと…サイズがあってないのか胸が擦れて乳首が……」
大きい胸を腕で上下左右にずらしてブラのいち調整をする蒼。
エロすぎて困る。
「頼むからそういうのサラっと言うのやめてくれよ…は、反応に困る…できれば一人の時に…」
「ご、ごめん…」
生々しい女子の日常感があるが、お互い変化に慣れていないのでどういう言葉選びをして間を保てばいいのかまだわからない。
俺は可愛くなった蒼が見られるので特に問題は感じてないのが救いだ。
「でさ、涼真、今日の放課後いいかな?」
「部活とか入ってないし特に予定とかないの知ってるだろ?いいよ付き合うって」
「さんきゅっ♪」
「…あっ、あれ日向くんじゃない?例の女の子になっちゃったっていう」
「ほんとだー♪可愛い…髪の毛サラサラでキレー…」
「あれが日向?どっからどうみても女の子じゃん」
「いや女の子だから」
学園の敷地を超えてから周りの視線が蒼に刺さりまくりで何とも言えない気持ちになる。
隣にいるだけの俺ですら居心地の悪さを感じるレベルだ。
生徒たちの黄色い声が意識しなくても耳に入ってきて蒼はさぞ恥ずかしいだろう。
「隣にいるあいつ誰?まさか彼氏?」
「日向くんの彼氏かなあの人」
「まさかー♪釣りあってないっしょ♪」
『悔しい。逃げ出したい…』
俺に対する侮蔑の言葉に大して思った素直な感想だった。
「なぁ蒼、こんな状況だし教室で合流するって事で一旦別れるか?このままだと面倒くさい事に…」
最後まで言いかけた瞬間、腕が引っ張られる様な感覚があり蒼の方を見ると
蒼が俺の袖を指で摘んで離さないでいた。
「…ダメ……////」
顔を赤らめてうつむいて歩いている。
この状況下においては普段の蒼らしさは微塵もない一人の儚い少女。
恐らくこれが今の蒼にできる精一杯の要求だったと思う。
大っぴらに腕をつかめば付き合っていると思われてしまうし、一人で周りの視線に耐えるにはまだ時間が必要だろう。
橘先生に言われた事を思い出す。
(日向さんをよろしくね)
あの言葉を本当の意味で理解できる日はまだ遠いのだろうと思うと
安直に蒼を一人にしようとした自分が情けなくなった。
「わかった」
「ほんとごめん…////」
下駄箱で上履きを履き替えようと箱の扉を開けると―
「うわわっ!?」
文字通り雪崩のような封筒がバタバタと溢れ足元に転がってきた。
「ウッソでしょ…なにこれ…」
「…ラブレターだな…このご時世で書くやついるのか…」
溢れ出た封筒の一つを俺が拾い上げつぶやく。
ご丁寧に日向蒼さんへと書いてある。
「ほんとに?…今どきこんな事する子いるんだ。マンガでしか見たことない…」
「最近はスマホで告白すると晒し上げってのがある位だしな…分かる気がする…」
「怖すぎでしょ最近の女子…僕はそんな事しないのに」
「いや、それ以前にPineのIDクラスの何人と交換してるよお前?」
そういえばって顔をして蒼が一言。
「涼真だけ」
テヘっと舌を出してバツが悪そうな表情を浮かべる。
可愛い。
「だろ?お前、変な所でアナログだもんな」
「ぅるさ~い」
床に散らばったラブレターを破らないように丁寧に拾い上げカバンに詰めていく蒼。
「一応見るのな?」
「そりゃねぇ…足蹴にするのは可愛そうでしょ流石に」
「そりゃそうだけど、その量は読めないだろ」
「いい気分だから全部読む!」
はにかんで答える蒼は最高にカワイイ。
上履きを履き替えた俺達は教室へ向かった。
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