8 幼馴染が女の子になって俺のドキドキが止まらない!3

 橘先生が教室を出ると俺は即座に後ろを向いて蒼を見る。


 蒼は一瞬俺を見て顔を真赤にしたあと下を見たまま何も話そうとしない。


「蒼…おまえ…」


 そう言いかけた瞬間クラスメイト達が波のように押し寄せ様々な質問を浴びせかける。


「日向くん!髪の毛見せて!すっごいきれー!!」


「ねぇねぇ日向さん!どんなコロン使ってるの!?すごい良い匂いだけど!」


「おい日向、お前その胸どうしたんだよ、重くないのかそれ?」


「日向お前可愛すぎんよ!ずるいな!イケメンだけでなく美少女にまでなっちまうなんて!」


「日向さん女の子になった感想はどんな感じ!?」


「ぇ…あ…その…コロンは姉さんが用意してくれてどっかのブランドのやつらしいけど名前とか覚えてないんだ…ごめん」


「胸は…まぁ…重い…ってデリカシーなさすぎだろ!」


「あぁこのキレ方は日向だ…」


 あたふたしながらも蒼は少しずつ質問に答えていく。


 周りに集まるクラスメイトを見回して少しずつ質問に答えようとする。

 しかし次から次へと来るので次第に恥ずかしさと余裕の無さで目を回し始めた。


「みんなストップ!」


 皆をなだめたのは小鳥遊だった。


「日向くん困ってるじゃない!日向くんや私達含めて変化に慣れるのに時間が必要でしょ?」


「小鳥遊…」


 本来俺がやらなければならない事を先にされしまい情けなくなる。


 俺も気持ちを入れ直し皆を説得する。


「みんな、小鳥遊の言う通りで蒼には時間が必要なんだ。少しだけ待ってやってくれ」


「そりゃそうだな」


「悪いな日向」


「そして男子!セクハラ禁止!」


「「「…はい」」」


 凹む男子一同。


「とりあえず一旦戻ってくれ、後で少しずつ。な?」


 皆をなんとか解散させて俺は改めて蒼に向き合う。


「…蒼?」


「あ…ぅん…」


 俺と話す時は特に恥ずかしそうな感じだ。

 付き合いが長い分、大きな変化が起きたらこうなるのは無理もない。


「…蒼、そんな恥ずかしがるなよ。俺達の仲だろ?」


「…そういう割に君、声がうわずってんぞ…」


「ひょっ!…そんなことはないぞ!!」


 蒼を落ち着かせるつもりが自分のボロを出す羽目になってしまった。

 恥ずかしい。


「クソォ…!笑いたきゃ笑えばいいだろ…」


 深呼吸した上で真面目なトーンで俺は続けた。


「笑わないよ、心底安心してんだぞ…お前が無事で」


「…」


 蒼が少しずつ顔を上げて俺の顔を見てくる。


「お前が女の子になっても俺は今まで通り何も変わらないし変えない」


「何よりお前自身がどう生きるかを決断するまで俺が支えになってやる」


「よ…良くもそんな言葉吐けるな…聞いてるこっちが恥ずかしくなる」


「お…俺もそう思う…。でもまぁ…これが本音だよ……」


 蒼がじっと俺の目を見つめる。


「慣れていこうぜ、少しずつ。何なら楽しもうや」


「…楽しむ?」


 蒼の眉がヒクつく。

 やばいトコをつっついたか。


「いやほら…ファッションとかさ!甘いものお前好きだろ?大手を振ってスイーツとか食いに行けるぞ!」


「…はぁ…まぁいっか。実際そこは僕も興味はあったんだ」


『寿命が縮んだ』


 蒼のマジギレはほんとにまずい。

 年頃の男の子に相応しいほど感情を爆発させる。

 一緒にゲームをやっていると特に痛感するんだ。


「…ふふっ。はああああ~なんか安心したっていうか吹っ切れたわ。君がいつも通りで居てくれそうで」


「何より健全な男子って事もわかったからな」


「…?」


 雲行きが怪しい。

 そして大きな胸を揺らしながら蒼が俺に顔を近づけてボソっとつぶやいた。


「涼真、君壇上に上がった時、横を通った時、さっき後ろ向いた時、僕の胸を見たろ?」


 血が沸騰するとはこの事か。


 全部モロバレだ。


「ば!ば!バカ何いってんだ!」


「へへへ♪普段はクールを気取ってる割にしっかりと持つべきものは持ってるんだなって♪」


「くそぉぉぉ…穴があったら入りたい…」


 うつむく俺の顔を蒼がそっと両手を添えて上に向ける。


「よろしく頼むよ、涼真…っ」


 心底安心した蒼の満面の笑顔が俺の羞恥心を取り払ってくれた。


「お、おぅ…」


「ところでさー」


 小鳥遊が割って入ってきた。


「みんな見てるからね…」


「「…!!!/////////」」




 あまりに情報量が多く疲れる一日はなんとか耐え抜いた。


「なぁ涼真」


「…ん?」


「今度放課後下着買いに行くから付き合ってよ」


「!?」


「そんな泣きそうな顔しないでよ…他に頼れる奴いないんだ…」


「…わかった…」


 今後こういうのが続くのか?

 疲れそうな反面どこかワクワクする自分がいるのが物悲しく感じられた。




『幼馴染が女の子になって俺のドキドキが止まらない』





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