85 地獄の番人!
何とか無事(?)に終わったミミズの魔獣との戦い。
セシルさんも体力と魔力を削られて意識を失いそうになっていたとのことでしたが、シャルとリアさんのおかげで大事には至らなかったそうです。
ですが、皆さん集まると浮かない表情をしているのでした。
「どうしましょうか……。流石に魔法が使えないのは問題でしてよ」
という、当然と言えば当然の不安要素が浮上したのです。
「確かにね。さっきみたいな魔獣に出くわしても結局わたしたち何も出来ないし」
「もう走るのも、魔力を吸われるのも無理……」
「ミミアもあのミミズはもう見たくもないなぁ」
と言った様子で皆さんげんなりしているのでした。
現実問題、命に関わることですので当然の反応だと思います。
ですが、わたしはここに朗報があったのです。
「あのですね、ここから真っすぐに奥に進んだ所に木がない場所がありました。恐らくあの周囲なら魔力吸収はないと思います」
あったとしても、効果は薄いでしょう。
ですが皆さん、わたしの発言に“?”と、首を傾げます。
「エメさん、それをどうやって見つけましたの?」
「あ、さっき魔術で飛んで上空から見下ろした時に、不自然に木が刈り取られた部位があったんです」
明らかに人の手が加えられている痕跡だったので、怪しいなぁと思ったのです。
「あんた、それって本当にゲヘナのアジトとかなんじゃ……?」
「うわぁ、ホントにあったんだぁ。こわー」
その可能性は高いように思えます。
「そこだけは見ておいた方が良さそうですわね。魔法が使えるのでしたら少なくとも私達も足手まといにはならないでしょうし」
その意見に納得し、皆で奥へと進むことになりました。
あとはこの間に魔獣が出て来ないよう祈るばかりです。
◇◇◇
「……怪しい、ですわね」
無事に森を進むと、そこには洋館を思わせるような外観の建物がありました。
森の中、突然現れる人工物。
魔力を吸収し、巨大な魔獣が巣くうフェルスでこんなのは明らかに怪しすぎます。
わたしたちは森の茂みに隠れながら、その様子を遠目で確認していました。
「どうするの、これ?」
シャルはあまりに露骨な怪しさを醸し出している洋館に困惑しています。
「行くしかないよね?」
そのためにフェルスまで来たわけですし。
「仮にこれがゲヘナの本拠地だとして、どう侵入するわけ?見た感じ正面入り口と窓くらいしかなさそうだけど……」
「シャル、ちょっと思ったんだけど。もしこれが誰かのお家だったとしたら勝手に侵入してマズいことにならない?犯罪になるんじゃ……」
「そこまで考慮する?……だったら、なに。バカ正直にチャイムでも押して尋ねてみるわけ?」
「……おお」
「冗談よ、冗談だから!“それが一番いい方法かな?”みたいな顔しないでくれる、怖いから!」
シャルの言う事は難しいのです。
「どちらにせよ遠目で見るには限界がありますわ。侵入まではいかないにせよ、近づいて中の様子を伺うのはどうでしょう。何か情報が得られるかもしれませんの」
「なるほどですね。それでしたらわたしが様子を見てきますよ」
「……大丈夫なの、エメ?」
セシルさんが不安そうにわたしを心配してくれています。
「はい。何かあっても、逃げるのなら魔術が使えるわたしが一番確率が高いですから」
それには皆さん同意してくれたようで、口々に“気を付けて”と言われながら茂みを抜けます。
切り開かれ、整備された地面の上を歩きます。
そして洋館に近づこうとして……。
――ガンッ!!
「あぐっ!!」
頭部に衝撃が走り悶絶します。
な、何かにぶつかったような……!?
熱くなって痛みが走った頭をさすりながら、改めて前を向き直します。
「……何もない、ですね」
ですが明らかに何かにぶつかりました。
恐る恐る手を伸ばすと、あるポイントで手がそれ以上伸ばせなくなりました。
見えない壁のようなモノが邪魔をしているのです。
何かある、そう思って魔眼を発動すると、空間上に張り巡らされている魔力の経路が視えました。
「……これは結界ですね」
学園ではガーデンに敷かれている結界。
それによって行く手を阻まれているのです。
「なるほど。結界を使うということは魔法に心得がある方、ということですね」
それなのに魔法士関連の書物にも一切情報が知られていないフェルス。
魔法士以外の人が魔法を駆使しているなんて、反魔法組織の仕業と判断していいでしょう。
わたしは魔眼によって、一部結界の魔力が薄れているポイントを可視化します。
そこに向けて腕を引き、魔術で力を倍増させ……。
「――え、ちょっとあの子。一人で倒れたと思ったら今度は構え出してるんだけど……」
「恐らくですが、結界が敷かれていてそれを破壊しようとしているのではなくて?」
「え?いいのそれ?」
「私達の存在を知らせる事にはなりますわね」
「それって当初の予定とは違うわよねっ!?」
わたしはその結界に拳を叩き込みます!
――ガーンッ!!
破裂音と同時に結界が崩れ落ちます。
それと同時にバタバタと洋館から物音がしてきました。
「おおおおおおいっ!!またあのバカミミズかっ!?毎回毎回、飽きもせず結界ぶち壊しがって、怒られるのは俺なんだよっ!!いい加減学べよクソ魔獣……が……」
勢いよく扉が開かれ現れたのは、全身真っ黒なフード付きのローブのようなモノを身に纏っている小柄な男性。
その姿、声に見覚えがありました。
「「……あ」」
お互いに声を漏らし、指差しました。
「てめぇ、帝都のクソガキ!!なんでここにっ!?」
「そういう貴方はゲヘナの手下!とうとう見つけましたよ!やはりここがゲヘナの本拠地なんですねっ!?」
「誰が手下だ、これでも幹部だボケ!!ていうか、ここは魔法士が近づけないようにゲシュアルボルを植えまくって……魔獣も棲まわせてんのに……」
「あのミミズなら倒しましたよ?」
「……てめぇ!!勝手に人ん家のペットは殺すわ、防壁は壊すわ!!どういう教育受けてんだ!!犯罪だろ、訴えるぞ!!」
「わたしを夜公園で襲ってきた人が急に正論言わないで下さい!!」
やはりこの人は良くない人です!
ここで懲らしめて、今度こそゲヘナの情報を引き出してやります!
「……なんか突然、言い争いしてるんだけど。なにあれ知り合い?」
「お互いに見知った口調には聞こえますが。ここからでは遠すぎて詳細が分かりませんわね」
「いやいや!とりあえずエメちゃんを助けに行こうよ!?」
「エメ、“様子を伺う”は完全無視」
茂みからガサガサと物音が聞こえてきます。
皆さん、遠目から状況を理解して助けに来てくれたのでしょう。
「ああっ!てめぇ他にも魔法士を引き連れてきやがったな、多勢に無勢……プライドってもんがねえのか!?」
「そっちだって不意打ちで襲い掛かってきて、しかも途中は2対1だったじゃないですか!よくそんなこと言えますね!」
「うるせええええ!!とにかくここがバレたんじゃ生かしちゃおかねええ!!きっちり全員死んでもらうからなっ!?」
するとゲヘナの人は声を洋館に向かって更に張り上げます。
「来い!ハルート・マルート!!」
――ガッシャーン!!
窓を突き破って現れたのは、両翼に翼を持つ少女の姿でした。
その翼をはためかせ、空を飛んでいます……。
「え、天使……ですか?」
そう思ってしまうほど、何やら神々しい雰囲気を放っているのですが……。
「おおおおい!!てめぇら、なんで窓を突き破って出てくんの!?扉から出てこいって言ってんだろ!!誰が修理すると思ってんの!?」
「はあ、ウザいね。マル」
「ほんと、キモいね。ハル」
お互い呼び合う両翼の少女たちは、呆れたように溜息を漏らします。
「……てめぇら。飼い主様の言う事はもっと素直に聞けよ」
「聞いた?聞いた、マル?」
「うん、聞いたよハル。こいつ自分が飼い主だと思ってるんだね。頭沸いてるね」
なんか、すっごいバカにされてるみたいですね。
「……いいから、さっさとやれよ」
「だってさ、どうするハル?」
「なんか気分害しちゃったよね、魔王様以外の命令は聞く気にならないよねマル」
口にしたのは、やはり“魔王”の言葉。
間違いありません、この人たちは魔王と繋がっています。
「その話、是非聞かせてもらいましょうか!」
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