18 魔眼の秘密を伝えます!


「魔力が見えるですって……?」


 リアさんはその意味を咀嚼しきれずにいます。


 無理もありません。人間には魔力そのものを眼で捉えることは不可能だからです。


「はい、わたしの眼は魔力を可視化します。魔力の流れが分かるようになるので、魔獣の突進もそれで先読みました」


 魔法にも魔術にも、魔力を使う際には方向性を示す経路が存在します。


 わたしはそれを読み取ることが出来ました。


「その話が本当でしたら、貴女のその眼は魔眼ということになりますわよ」


「はい、そうみたいです」


「信じられませんわ、魔眼は魔族しか持ち合わせないモノのはずですのに……」


  そう、魔族だけが保有する異能。


 それが魔眼です。


 敵である魔族の能力をわたしは持ち合わせていることから、この事は話さない方がいいと言われていたのです。


「あのー……」


「なんですの?」


「この事は秘密にして貰えませんか?あまり知られたくなくて……」


 リアさんは少し考え込み、顔を上げます。


「隠し通すつもりですの?」


「出来ることなら」


 リアさんにはバレてしまいましたが、無闇に広めたいものではありません。


「……分かりました。この件は私の胸の内にしまっておきましょう」


「いいんですか?」


「良いも何も、その眼に助けられたのですから。私がとやかく言う権利はありません」


「よかった……ありがとうございます!」


 魔法士を目指す者にとっては心よく思えないモノでしょうが、リアさんが理解ある人で助かりました。


 これで一安心です。


「ですが、貴女の魔術のカラクリがその眼にあっただなんて……。適性検査で私の魔力を反らし、セシルさんの魔法を破壊したのもそれですのね?」


「あ、はい……。魔法の構成には必ず綻びがあります。わたしの眼にはそれが分かります」


 リアさんの時は魔法を展開する際の魔力の経路を阻害。


 セシルさんの時は、魔法自体の一番脆弱な部位を見極めて破壊。


 これがわたしの魔術の活かし方でした。


「他の人に知られたら一大事ですわね」


 リアさんは真剣な表情で訴えかけます。


「やっぱり……そう思いますか?」


「ええ。過激派の方は、貴女が魔族ではないかと疑うことも有り得ます」


「それは困ります……」


 魔眼を持っていても、わたしは紛うことなき人間です。


 そんな扱いは受けたくありません。


「気を付けることですのね」


「はい……ってアレ?」


 魔眼によって、少し奥に魔力の微弱な光が漏れているのが分かりました。


 もしかすると……。


 光源まで歩きます。


「あ、リアさんっ!魔石がありましたよっ!」


 そこには魔石がいくつか転がっていたのです。


「本当ですのっ!?」


 よかった、これで課題はクリアです。


「はいっ!あとは帰るだけ……」


 ――ガサガサッ


 ――ガサガサッ


 喜びも束の間、不吉な音が聞こえてきました。


「……ええと、リアさん?」


「なんですのエメさん」


「何か凄く周りから動く音が聞こえるんですが……」


「ええ、私にも聞こえていますわよ」


 ぜ、絶望感が襲来してきます。


「アレですよね?これはきっと魔法士の魂ですよね?」


 ひたすら否定していたわたしですが、今はむしろ魂であることを望み始めていました。


 オバケなら、戦わずに済みますから。


「何を馬鹿なことを言ってらっしゃるの。魔獣に決まっています」


「リアさんっ!?そこはさっきの残留思念とか言ってくださいよ!!」


「現実逃避はおやめなさい!それでは何も解決しなくってよ!?」


 うえーん。


 そういうことじゃないんですよぉ……。気持ちの、気持ちの問題なんですよぉ。


 「「ブゴッ」」


 ついさっき聞いたばかりの、エヴィルボアの鳴き声。


 わたしたちを取り囲むように、何頭も姿を現してきました。


「リアさんっ!魔獣ですっ!」


「み、見れば分かりますっ!」


 身構えるリアさん、ですが……。


 ――ガクッ


 わたしの膝が折れてしまいました。


「エメさんっ!?どうかしましたの!?」


「えっとですね……大変言いにくいのですが……」


「これ以上何を言い淀んでいるのです!?」


「魔力切れです」


「……なんですって」


 ただでさえわたしの魔術は効率が悪いと言うのに。


 魔眼はそれを遥かに凌駕するほど魔力を消費してしまうのです。


 ちなみに魔力は根こそぎなくなると人は倒れます。実例がわたしです。


 ――バタンッ


「え、エメさんっ!?倒れましてよ!?」


「はい、もうこうなったらしばらく起きれません」


「……なんということですの」


 ああ、どうしましょう。


 絶体絶命です……。


 まさかこんな所で、夢半ばで倒れるなんて……。


「リアさん、わたしの事は放っておいて逃げて下さい」


「そんなこと、出来るはずがありませんわっ!」


「「ブゴ―ッ!!」」


 魔獣の折り重なる鳴き声。


 絶望を知らせる音が近づいてきます。


 こ、こんな所で……。


浄化の炎メギドフレイム

 

 ――ゴオオオオオオ!!


 突然、暗闇だった視界が赤い炎で照らされます。


 その炎はわたしたちを中心にして、円を描くように燃えていきます。


「「ブギャーーーーッ!!」」


 囲んでいた魔獣の鳴き声。


 その全てが消滅していきます。


「……全く。いつまで経っても帰っても来ないから探しに来てみれば、何してるの君たち?」


 わたしとリアさんの前にはローブを身に纏った男性、ヘルマン先生が立っていました。


「へ、ヘルマン先生!?助けに来てくださいましたの!?」


「そりゃ担任だもの。生徒が帰ってこなけりゃ探すって。しかも、結界をぶち破ってるし……僕がどれくらい心配したか分かってる?」


 え、結界を破った……?


「どうせ君なんだろ、リア君」


「いえ、無我夢中でしたので……正直分かりませんの」


 確かにあの時のリアさんはオバケを恐れ、半狂乱でした。


 でも、何か抵抗感を感じる瞬間があったのも事実です。もしかして、あれが結界だったのでは……?


「じゃあ、どうしてエヴィルボアに手こずってるの?君、中級魔法までは使えるんだから広範囲を対象に出来るはずでしょ?」


 え?そうなんですか?


 リアさん、本当は倒せたんですか?


「それが私も不思議なのですが、気づいたら魔力が全然なくなっていましたの……。これもきっと魔法士の怨念の仕業かと……」


「……最後の方はちょっと何言ってるのか分からないけど。それさ、結界を魔力でぶち破ったから消費しちゃったんじゃないの?かなりエグイ範囲の結界なくなってたよ」


「記憶に御座いません」


 いや、きっとそうですよリアさん……。


 そしてそれも分からなくなるくらい怖がってたんですね……。


「この第2エリアは実戦訓練用に魔獣を管理していてね。まだ君たちの来る場所じゃないんだよ?危ないの、分かる?」


「ええ、反省しております」


「ならいいけど……まあ、助けが遅れた僕にも責任はあるんだけどさ……」


「先生は何をしていらっしゃったのですか?」


「いや、結界を破る前に君たちを見つけてはいたんだよ?でも近づこうとしたら突然走り出して第2エリアまで飛んでいくからさ……」


 え、それって……一番最初の『ガサガサッ』音はヘルマン先生だったってことじゃないですか?


「……不思議ですわね。どうしてそこで私達を止めて下さらなかったのですか?」


「いや、君たち10代のダッシュにおっさんが追い付くわけないじゃん……歳考えてよ。呼んでるのに君たち叫んでて声届かないしさ……」


 先生、それは違います。


 叫んでたのはリアさんです。わたしはひたすら振り回されてただけです。


「なるほど……不運が重なってしまいましたのね」


「こうして無事だったから僕も安心したけどさ」


 そうですね。


 何はともあれ魔石も見つかって、先生が助けてくれたのでこれで帰れます!


 結果オーライですっ!


「ところでさ。エメ君、いつまで寝てるつもり?」


 いえ……違うんです。


 起きれないんです、先生。

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