19 帰りが遅くなることもありますよね!


「つ、疲れました……」


 今日はセシルさんの魔法と、魔石回収の授業で魔眼を使い過ぎました。


 魔力が完全に枯渇して体が重たいです。


 何とか休憩を挟んで歩く事が出来るようになったので、こうして家にまで帰って来れましたが……バタンキュー待ったなしです。


「ただいまー……って、暗い?」


 玄関に入るといつも灯りがついているはずのリビングからの光がありません。


 おかしいですね。扉は開いていたのでシャルは帰ってきているはずですが……。


 どこか急遽、出掛けてしまったのでしょうか?


 疑問を残したままリビングへと向かいます。


 暗闇の部屋、いつもはシャルが魔法でロウソクに火を灯してくれていますが……わたしには出来ないので、近くに置いてあったマッチで火を灯します。


 ――ぼわっ


「……あんた今までどこ行ってたのよ」


「ひいぃっ!?」


 明かりが灯ると、ソファに人影があったのですっ!!


 誰もいないと思っていたのに、完全にホラーですっ!!


 わたしは腰を抜かせて床に尻もちをつきます。


「ちょっと、人をオバケみたいに扱わないでくれる?」


「お、オバケはもうお腹いっぱいです……!」


「は?あんた何言ってんの……?」


 あれ、このちょっとドライな声は……。


「シャル……?」


「寝ぼけてんの?それ以外に誰がいるのよ」


「いや、それなら普通に現れてよ……なんで灯り付けてないの」


「え?ああ、それは忘れてたわ」


 家にいて灯りを付け忘れる状況ってあります……?


 少なくともわたしはないんですけど……。


「そんなことはいいから、どこで何してたって聞いてるのっ!」


「え、シャルも授業受けてるんだから知ってるよね?魔石集めに時間が掛かっちゃったの」


「それがおかしいのよ!あんたの眼があれば秒で終わるでしょう!?」


「いやあ……それがリアさんと行動することになっちゃってさぁ……」


「リア?なんでアイツと一緒に行動することになるのよ」


 わたしは事の顛末をシャルに伝えました。


「――というわけでね。もうヘトヘトなの」


「ちっ。このドジ」


 ええ……ねぎらってくれないのぉ……。


「よりにもよって、リアにあんたの魔眼のことを知られるなんてね……」


「でも秘密にしてくれるって言ってたし。大丈夫だよ?」


「そういう問題じゃないのっ!」


「じゃあどういう問題……?」


 シャルはギリギリと自分の親指の爪をかじっています。


 形おかくしなるから、やめた方がいいよ。


「あんたの秘密はわたしだけが知っていればいいのよ」


「ええと、それはそうだと思うけど……」


 魔眼のことなんて知られない方がいいからね。


 だからと言って、そこまで目くじらを立てなくてもいいような……。


「あんたと距離をとるとこんな弊害があるなんてね……。どうしよう、今度から見えない所で監視してようかしら」


 え、あの……シャル……?


 なんかブツブツ言ってるけど、怖いこと言ってない……?


 と言いますか、もういっそ一緒にいてくれればいいなと思うんだけど。それは頑なに断るんだよねぇ……。


 ステラとラピスのケジメだーとか、ライバルとは仲良くしないのーとか、双子の姉妹で一緒に行動するとか周りから引かれるからムリーとか。


「……はあ。まあ、でも無事でよかったわ」


 シャルはふっと一息つくと、ようやくツンツンした雰囲気が和らぎます。


「うん、ごめんね」


「本当よ、心配したんだから」


 でもシャルが怒っているのも原因はわたしですしね。


 申し訳ないのです……。


 ――ぐぅ~。


 あ……安心すると、お腹の音が。


「え、えへへ……シャルお腹空いちゃった。今日のご飯なに?」


「え?作ってないけど?」


 いやいや、シャル……それはこっちがビックリですよ。


「な、なんで……?」


「だから言ったじゃない、心配したって。他の作業なんて手につかないわ」


「あ、そうなんだ……」


 わたしに原因があると言われると、ちょっとこれ以上は言及できないですね……。

 

 でも、それってシャルはずっと家の中真っ暗で何も手つかずで待ってたという事ですよね……?


「もう、シャルは心配性だなぁ」


「はっ!?誰のせいよっ!誰のっ!!」


 ご飯が出来たのは、それから一時間後のことでした。


        ◇◇◇


 翌日、学園にて。


 ……やっぱりおかしいと思うんですよねぇ。


 昨日は疲れていて冷静な判断能力を失っていました。ですが、姉の帰りが遅くて何も手つかずになる妹ってちょっと変だと思うんですよ。


 でも、それがどういう感情なのかはちょっと想像がつきません。


 相談してみたいところです。


 意外に姉妹間では、あるある話なのかもしれませんしね。


 お話が出来る人と言えば……。真横を向きます。


「セシルさん?」


「なに」


「セシルさんって姉妹はいますか?」


「いない」


 ……あ、終わっちゃいました。


「そ、そうでしたか……」


「どうかしたの」


「あ、いえ。ちょっと姉妹のことに関して聞いてみたかったのですが」


「そう、それなら私は不適切」


 とは言え、このまま会話を切ってしまうのも印象悪いですよね……。


「あの、セシルさんお家に帰ってくるの遅れたりしたらご両親がすごく心配してた、みたいな事ってありましたか?」


「ない」


 ええ……。


 あ、いや、きっと理由があるに違いありません。


「セシルさんのことだから門限をちゃんと守るので、そんなこと今までなかったんですね?」


「父はほとんど家にいない、母はあまり部屋から出て来ない」


 うぐっ……。


 な、何か聞いていけないことを聞いてしまったような……。


「ああっ!なになに、家族の話?ミミアも混ぜてー!」


 うおおっ!ミミアさんが襲来しましたよっ!?


 で、ですが……家族の話をしてくれるなら、アリですねっ!空気も変わりそうです!


「えと、ミミアさんには姉妹っています……?」


「うん、お姉ちゃんと妹の三人姉妹だよ?」


 おっ!しかも、姉妹です!


 これは聞くしかありませんっ!


「家に帰るのが遅れて、姉妹が灯りを付けるのを忘れるくらい心配してたことってありますか?」


「あははっ。なにそれあるわけないよ!」


「ああ……やはり、そういうものですか……」


 ちょっとドライな感じもしますけど、案外それがスタンダードな感覚なのでしょうか……?


「なになに、それはエメちゃんのお話?」


「あ、はい……。昨日帰るのが遅れて、妹がかなり心配していたようで……」


 それを聞いてミミアさんは目を丸く、セシルさんは首を傾げます。


「なにそれ不思議ー?あんまりそういうのないと思うけどね?」


「……姉妹はいないけど。そんな経験はしたことない」


 おやおや……やはり、シャルが普通ではないという説が濃厚に……?


「――それは違いましてよ。エメさんに限っては、心配になるに決まっていますわ」


 更に話に割って入ってきたのは、何とリアさんでした。


「お、おい……御三家令嬢が集まってるぞ……こんなの初めてじゃないか?」


「しかも、どうやらラピスの話が中心みたいだぞ。どうなってんだ……?」


 コソコソと筒抜けの会話をするヨハン君とマルコ君……。


 でも確かに異様な光景であることには変わりありません。


「り、リアさんは姉妹いるんですか?」


「姉妹はいません。ですが、兄なら三人ほど居りましてよ」


「あっ、じゃあ帰りが遅いのを心配されたことは……」


「この私が?有り得ませんわ」


 あ、じゃあやっぱりシャルが変わっているというのは間違いないということでしょうか……?


「ですが、貴女の場合は話が違いましてよ。エメさん」


「そうなんですか?」


「ええ。妹のシャルロッテさんはステラ、それだというのに貴女はどうですの?」


「……ラピスですけど」

 

 ステラの方々を前に、どうしてこんな恥ずかしいことを改めて言わされているのでしょう。


「双子の姉が最底辺にいるのですよ?それは歯痒くて歯痒くて仕方のないこと。まして門限すら守れないとなれば、その苛立ちは更に高まってしまうことでしょう。手につかない事が起きても不思議ではありません」


「うーん。それを聞いちゃうと、ミミアもそんな気がしてきたかも」


「一理ある」

 

 なるほど、じゃあシャルはやっぱり変な子じゃなかったんですねっ!


 あれ……でも待ってください。それって……。


「つまり、貴女がいけないんですのよ!エメさんっ!」


 ガーン。


 やっぱり、わたしがいけないって事になるんですかあ……。


「あ、結局ステラの皆様がラピスに喝を入れてるだけみたいだな」


「ああ。そりゃ仕方ないな」


 とほほ……。


 こうなったら、ラピスを脱する他ありません。

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